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「2022年度NPO法人放射線教育フォーラム第3回勉強会(オンライン勉強会)」

令和5年2月(情報提供:NPO法人放射線教育フォーラム)

 

NPO法人放射線教育フォーラム

令和4年度第3回勉強会

2023年2月26日(日) 13:30~16:00 (オンライン開催)


[テーマ] 放射線の理解を深めるための授業について考える


[目的]
 中学校で昨年度から実施されている新学習指導要領に基づく放射線の授業では、放射線の理解を深めるために、放射線に関する基礎的事項の説明にとどまらず、放射線への興味を喚起するための授業も求められている。今回の勉強会では、研究用原子炉により得られた成果と「もんじゅ」サイトに設置される新試験研究炉を含む研究炉の現状と今後の動向についての紹介、福島県立医科大学先端臨床研究センターが東日本大震災からの復興事業の一つとして取り組んでいるアルファ線放出核種を用いたがん治療薬の開発研究の紹介、さらに、新学習指導要領の完全実施にともなう中学校における放射線教育の授業事例の報告を取り上げた。


[プログラム]
開会挨拶(13:30~13:40)工藤博司理事長

講演1.京都大学研究用原子炉の現状と今後  (13:40~14:20)
               中島 健(京都大学複合原子力科学研究所)
 京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉KURは、1964年に設置されて以来、約60年にわたり大型の中性子源として共同利用研究に供されてきた。本講演では、研究炉の現状と今後の動向について述べる。

講演2.福島県立医科大学先端臨床研究センターの歩み-アスタチンと抗がん剤- (14:20~15:00)
               城寶大輝(福島県立医科大学 ふくしま国際医療科学センター先端臨床研究センター)
 福島県立医科大学先端臨床研究センターにおけるアルファ線放出核種を用いたがん治療薬の開発と福島国際研究教育機構(F-REI)との連携について紹介する。

休憩(15:00~15:10)

講演3.中学3年間の放射線教育の授業事例と放射線教育を行う上での問題点、要望・希望(15:10~15:50)
               奈良 大(愛知教育大学附属名古屋中学校)
 平成29年告示中学校学習指導要領の完全実施をきっかけに、これまでに取り組んだ放射線教育の授業事例を報告する。また、自身の周りの理科教員の声を中心に、放射線教育を行う上での問題点、要望・希望もお伝えする。

閉会挨拶(15:50~16:00)柴田誠一副理事長


[開催要項]
開催方法:Zoomによるオンライン開催
参加申込:NPO法人放射線教育フォーラムのホームページから申し込んで下さい。
     URL:(http://ref.or.jp

     TOPICS「2023(令和4)年度放射線教育フォーラム第3回勉強会」の「参加申込フォーム」に必要事項をご記入の上、

     送信ください。
定 員:  100名
参加申込期限:2023年2月22日(水)17:00 (ただし定員に達し次第締切)


問い合わせ先 :NPO法人放射線教育フォーラム事務局  
       entry@ref.or.jp


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「2022年度放射線教育発表会」のお知らせ

令和4年12月(情報提供:公益財団法人日本科学技術振興財団)

 

2022年12月28日(水)に開催される「2022年度放射線教育発表会」のお知らせです。概要は以下のとおりです。

 

【開催趣旨】

 全国の放射線教育に取り組んでいる方々の情報交換、研修の場として放射線教育発表会を開催いたします。オンラインでの参加も可能です。ぜひご参加ください。

 

【開催概要】

日  時: 2022年12月28日(水)13:00~17:00

開催方法: 対面・zoomによるオンライン

主  催: 公益財団法人 日本科学技術振興財団

参加費 : 無料(交通費・宿泊費・通信費等はご負担ください)

定  員: 対面100名・オンライン100名

参加申込期日:2022年12月20日(水)(先着順)

 

【詳細】

こちらのページをご覧ください。
https://www.radi-edu.jp/seminar

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放射線は生命を解くための鍵

 人類が原子力の存在を知ってから高々100年余りを経たにすぎませんが、原子力の本質を明らかにしようとする研究活動によって「原子力は、放射線エネルギーであり、放射線エネルギーが宇宙万物の源である」ことが明らかにされました。この発見によって、私達は、(1)ひと、植物、鳥、星など宇宙にあるあらゆるものがビックバンで解放されたエネルギーで作られた原子でできていることと(2)原子には途方もないエネルギーが秘められていることを知ることになりました。物理学の分野では、エネルギーは、mc2あるいはhvと示されます。E=mc2は、有名なアインシュタインが示した質量とエネルギーの関係式であり、E=hvは、光のエネルギーを表す式です。簡単にいえば、物質とエネルギーは同じもので相互に変換できることを表しています。その意味で、質量のある物質を ”色”、 質量のない光(エネルギー)を ”空” と表し「色即是空空即是色」と説いた般若心経の一説は、最先端の原子物理学そのものといえます。なぜなら、万物は、エネルギー(空)と物質(色)の間をゆききすることができ、どちらが主体であるということはなく、ビッグバンに始まりブラックホールに終える宇宙の一生を表わす言葉だからなのです。古に自分を見つめた賢人(お釈迦様)が、その修行のなかで辿り着いた結論と近代的実証科学の結論が同じであったことに感動を覚えます。

 この現象に関して、シュールリアリズム派の画家サルバドール・ダリも興味深い作品を残しています。その絵は「ラファエロの頭の爆発」と名付けられ、人間のからだが頼り無さげな小さな断片になって剥がれてゆくように描かれています。そして、人間の頭のてっぺんに、ヨーロッパの古い教会のドームらしき屋根が描かれ、そのてっぺんの丸い孔を通して(天国からの)虹色の光が教会に差し込んでいるように見えます。ダリは、ひとの身体は、一見、独立して存在するように見えるけれど、実は、原子のレベルで見れば宇宙と境界が無いことを表しました。さらに、その絵には「Human being is more powerful than cyclotron」という説明が添えられており、ひと一人の体に途方も無い数の原子が存在し巨大なエネルギーが秘められているという「原子力の本質」を見抜いていたようです。 


 さて、話を戻しましょう。これまでで紹介したように「宇宙万物は、放射線エネルギーでできている」ということから、原子力を対象とした研究が「科学」をすることの意味を示す好例となると思っています。放射線生物学の研究で得られる結果は、生命の存在の仕組みを解き明かすうえで極めて重要な知見になるということです。哲学者が命題とする “私はなに?” という単純な疑問は、最先端の生命科学者が持つ疑問 “生命はなに?” と全く同じものといえます。この疑問に対する解答は、“生命は、エネルギーそのものである” と答えることができます。エネルギーは、原子を作り、原子は分子を作り、分子は、さまざまな高分子を作り物質を形作るのですが、生命を含めた宇宙万物にその例から漏れるものはありません。そして、生命が尽きると、私達の体は、分子、原子と分解し、最終的にエネルギーに戻ってゆきます。したがって、生命が存在するということは、一連のエネルギーの流れのなかでエネルギーの存在形態が物質化しているに過ぎないことを理解できるのではないでしょうか。

 生命は、地球上に生まれ三十六億年の間、温度、圧力、放射線といったさまざまな物理化学的要因に満たされた環境で生き、進化してきました。それらの物理化学的ストレスから切り離されて存在したことはないと断言できます。言い換えれば、そうした「環境要因との間でエネルギーのやり取りをする営み自体が生きていること」にほかならないといえるでしょう。宇宙は、ビッグバンの後、膨張を続け、温度が絶対零度に近づいてゆきます。その状態を、エントロピーが増加するといいます。しかし、地球上の生物は、宇宙の法則に逆らって存在しています。すなわち、植物は、太陽から届く光エネルギーを葉緑体でグルコースに変換し、細胞の中にエネルギーを溜め込みます。動物は、植物を摂取して植物に蓄えられたグルコースを分解して活動エネルギー(ATP)を作ります。この一連の現象をエルビン・シュルディンガーは、地球生物は、負のエントロピーを食べていると表現しています。このように、生物は、細胞膜で囲まれた極めて狭い空間をつくって、宇宙の法則に逆らった自立的な環境を作り出すために進化を続けているといえます。しかし、生命は、未だその完全能力を獲得できていません。おそらく永遠に到達できないと思います。しかし、自然放射線レベルに近い低線量の放射線に対する生体の応答反応の仕組みは、生命が生きながらえるために必死に獲得した能力であり、生命現象そのものと捉えるべきであり、そのリスクを問うことに余り意味はないでしょう。このことをしっかりと理解しておかないと、自然放射線を必然的に浴びながら生きていることが基本であることを忘れてしまい放射線ゼロの世界があることが前提になって放射線影響を理解してしまうことになるからです。この間違いが、福島原発事故後、一般の方々を一番不安に追い込んでいるのです。

 こうしたことを考えると放射線(エネルギー:hv)と生命(物質mc2)は互いに切り離せない存在であり、生命の本質を知るためには、おそらく原子核物理や宇宙科学と同じように量子生物学といった視点での解析が必要になると思います。これまで、生命現象は、電子の動きに支配される化学反応で営まれているとされていました。その場合、反応が進むためには、活性化エネルギー以上のエネルギーが必要となります。将棋の対局で、コンピューターがひとに勝つ時代になってきましたが、現在、主流のコンピューターでも、将棋を打つためにどうしても冷却せねばなりません。コンピューターは、その稼働に電気を使い、電流のオン・オフ記憶記号として使っていますので、パソコン稼働時に電気抵抗による発熱が避けられないからです。一方、ひとは、頭が沸騰するという表現は使いますが、かなり複雑な働きをしても、パソコンのように冷却しなくても十分に対応できます。おそらく、ひとの頭の中では、活性化エネルギーがいらない反応、いわゆる量子のトンネル効果が主体の未知の反応があるのでは無いかと予想されます。最近、量子コンピューターという言葉を耳にすることが多くなってきましたが、エネルギーのロスがない人間の脳に近いコンピューターとして期待されています。

 最近、私の研究グループは、放射線による発がんに関与する因子が、OHラジカルやHラジカルなどの活性ラジカルではなく、常温でも安定(半減期20時間)な有機ラジカルであることを発見しました。そして、その発がんは、ビタミンC処理で有機ラジカルの発生を抑えることで抑制することができることを発見しました(http://rbnet.jp/shiryo/kibanS16.pdf)。そして、この有機ラジカルの消去過程には、プロトンの引き抜き反応が関与し、その反応速度には重水効果が顕著に現れることから、トンネル効果が関与していると予想しています。おそらく、常温の生体内で量子反応(トンネル効果)が実際に働いている初めての発見だと思います。このように、量子生物学が展開されると、現在では、まだ科学研究の土俵に十分に上がっていないテレパシー、気功などの仕組みに加えて、脳の働きといった問題が生命科学の俎上に登るようになると思われます。

 最近の放射線生物学の研究によって、自然レベルの放射線量(数十センチグレイ以下)を被ばくした場合とそれ以上の線量の放射線を被ばくした際に観察される生体の応答反応が大きく異なっていることが明らかになってきました。勿論、低線量の放射線被ばくを受けた細胞の応答反応が、その細胞の運命にとってどのような意味があるかは、いまも総てが明らかにされている訳ではありません。しかしながら、低線量の自然放射線を生命から切り離すことができない限り、その線量域における生体の応答反応は、生命のストレス応答現象そのものであり“生命とはなにか?”に迫る鍵となる生命反応であると考えられます。

 この意味で、私は、「放射線生物学は極めて魅力的な分野であり、低線量放射線の生体影響の研究は、まさしく生命の根源を解き明かす重要な鍵になる」と思います。原子力や放射線の問題は、ともすれば、危険かどうか?という観点で話されることが多いのですが、実は、ひとの存在を科学するために必須なものであって、ひとが胸を躍らせる研究対象であることに注目してもらいたいと思います。私たちが若い頃、鉄人28号やアトムに夢を描いたように、そして、その子供たちがドラえもんを好きになったように、若い人たちが原子力や放射線について興味を持って未来を開いてくれることを願います。

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発電しない原子炉の使い道

私が勤務している近畿大学には原子炉があります。原子炉があるというと、たまに「自前の原発があるなら電気代がかからなくていいですね!」とか、「大学で使う電気は全部そこで発電しているんですか?」などと言われることがあります。しかし、近畿大学の原子炉は全く発電していませんので、大学で使う電気は関西電力から買っています。

原子力発電所では、原子炉で発生する熱で水を沸騰させて、その蒸気で発電機を動かして発電しています。原子力発電所(電気出力100万キロワット)の原子炉の熱出力は30億ワットくらいありますが、近畿大学の原子炉の熱出力は1ワットしかありません。人体の発熱量がだいたい100ワットくらいですから、たったの1ワットでは当然水を沸騰させることはできませんし、蒸気で発電機を動かすこともできません。

原子炉は発電所にあるもの、すなわち「原子炉=原発」と思っている人が多いので、近畿大学の原子炉が全く発電していないと言うと「一体何のためにそんな原子炉があるのか?」と不思議に思うようです。実は、このような発電しない原子炉は試験研究用原子炉(略して研究炉)と呼ばれ、その使い道は一言でいうと「中性子発生装置」です。

原子力発電所の原子炉(発電炉)も研究炉も燃料はウランです。ウランの同位体であるウラン235の原子核に中性子が吸収されると、原子核が二つに分裂する核分裂反応が起き、同時に大きなエネルギーと新たな中性子が2~3個放出されます。放出された中性子の一部がまた別のウラン235原子核に吸収されると再び核分裂反応が起きます。このように、核分裂反応が次々と続いていくことを連鎖反応といって、原子炉ではこの反応を制御して持続させています。発電炉も研究炉も同じ原理で動いていますが、発電炉は反応で生じるエネルギーを利用するための原子炉、研究炉は反応で生じる中性子を利用するための原子炉ということになります。

では、中性子を使うとどのようなことができるのでしょうか?分かりやすい例として、中性子ラジオグラフィについて紹介しましょう。ラジオグラフィというのは簡単にいうとレントゲン写真のことで、物体の内部を透視する技術の一種です。みなさんも健康診断など、病院でレントゲン写真を撮ってもらったことがあると思いますが、病院で撮影するレントゲン写真ではX線という放射線を使います。人体を撮影すると、筋肉や脂肪など軟組織の部分が透けて、骨や歯がくっきりと浮かび上がりますが、なぜX線でこのような写真が撮れるのでしょうか?

X線という放射線は、原子番号の大きな物質に遮られやすく、原子番号の小さい物質は通り抜けやすいという性質があります。そのため、X線は炭素や酸素、水素など軽い原子でできた軟組織はやすやすと通り抜けていきますが、カルシウムやリンなど比較的重い原子でできた骨や歯には遮られてしまいます。そうすると、ちょうど影絵のように骨や歯の「影」がくっきりと写真に写るのです。これが普通のレントゲン写真です。

考えてみると、人間の身体はX線を使って透視するのに向いている構造だと言えます。つまり、原子番号の大きな物質が内部にあり、原子番号の小さな物質が外側を取り囲んでいるので、X線を当てると外側の物質が透けて内部の物質だけが浮かび上がります。では、人間とは全く異なる構造の生き物のレントゲン写真を撮るとしたらどうでしょうか?例えば、ホタテ貝のレントゲン写真を撮って健康診断をしたいとしたら・・・。ホタテ貝の身体の構造は、人体とは全く逆です。つまり、軽い原子でできた軟組織が内部にあり、外側を重い原子でできた硬い殻に覆われています。この場合、X線を当てても貝殻に遮られてしまいますので、貝殻の影がくっきりと写真に写るだけで、中の様子は分かりません。X線とは逆に、原子番号の大きな物質を通り抜けやすく、原子番号の小さな物質に遮られやすい放射線があれば、ホタテ貝のレントゲン写真を撮れるのですが・・・。そこで登場するのが中性子線という放射線です。

中性子線は原子番号とは関係なく、主に水素によって遮られます。したがって、ホタテ貝に中性子線を当てると、貝殻は通り抜けていきますが、水分をたっぷりと含んだ軟組織には遮られますので、写真にはホタテ貝の中身が影となってくっきりと浮かび上がることになります。これが中性子ラジオグラフィで、中性子線を使ったレントゲン写真です。X線発生装置は街中の病院にも普通にありますが、中性子発生装置は滅多にありませんので、中性子を発生する研究炉は中性子ラジオグラフィに大いに活用されています。

実際にはホタテ貝の健康診断をする人はいませんが、中性子ラジオグラフィは原子番号の大きな物質(金属など)を透かして水素を含む物質(水、油、生物の軟組織など)を可視化するという面白い特長がありますので、内燃機関の中の潤滑油や燃料の挙動の観察や、宇宙ロケットの火工品の検査、植物の生育状況の観察、燃料電池の中の水の挙動の観察など、様々な産業分野や研究開発に利用されています。

研究炉には、この他にもいろいろな使い道があります。原子炉そのものの研究はもちろん、原子力分野の人材育成(近畿大学の原子炉の主な使い道はこれ)、中性子を使った様々な理化学研究、診断や治療に使う放射性医薬品・医療用放射線源の製造、殺菌・滅菌や非破壊検査等に使う工業用の放射線源の製造、ごく微量の物質の成分を分析できる放射化分析、高品質の半導体の製造、中性子線を使った最新のがん治療など、多岐にわたっています。ここでは一つひとつを詳しく説明することはできませんので、興味を持った人はぜひ自分で調べてみてください。

このように研究炉は、発電していなくても私たちの生活の舞台裏で医療・産業技術や科学研究を支えています。現在、日本には近畿大学の原子炉を含め9基の研究炉があります(うち1基は廃止予定)。世界では200基以上の研究炉が運転されており、オーストラリアのように原子力発電所は無くても研究炉は持っているという国が数多くあります。新たに建設中、計画中の研究炉も多く、これからも研究炉が作り出す中性子線が大いに活用されていくことでしょう。

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放射線教育の充実に資する ~「放射線教材コンテスト」を大きく育てたい~

 令和3年度を迎えました。依然として感染症の猛威が続いています。学校においては、「3密」の防止と共にマスクの着用や手指消毒が、感染症拡大防止のルーティンとして定着しました。いずれの取組も、国をはじめとする感染症防止のガイドラインに沿ったものであり、その根底は科学的な知見に基づくものです。電子顕微鏡によりウイルスの全容が捉えられ、ウイルスを体内に入れないようにするにはどうするか――この予防対応を児童生徒は理解し取り組んでいます。科学的知見が私達の予防対応の共通理解を成していると言えます。


 感染症より「らでぃ」が本題とする放射線教育に転じれば、この1年で大きな出来事がありました。本年3月11日、東日本大震災から10年の年月が経たということです。この日は全国各地で、亡くなられた方々への追悼と共に、今一度、復興への誓いを確かめ合いました。震災被災地の復興を統括する復興庁は、発足当初は10年間の時限設置とされていましたが、さらに10年間の設置延長措置が取られました。それだけ、大震災における被害は甚大であり、被害が広範囲に及んでいたことを物語っています。


 甚大な被害の中でも、福島第一原子力発電所事故とその復興に関しては、被災地居住の有無を問わず、我が国全体で捉えなければならない問題を複数有しています。その中の一つに、デマや風評被害による「言われなき差別」があります。私自身、学校教育に携わる者として、看過できない問題と捉えています。文部科学省が発行し、全国の児童生徒に配布されている「放射線副読本」の中にも、心痛む出来事が記されています。小学生を対象とした副読本の「風評被害や差別、いじめ」の章に記された福島県の子供が受けた「放射能が移るからさわんなよ」という言葉です。デマの一端が伝わって疑いもなく発してしまった一言かもしれませんが、科学的な知見とは正反対の、自分の中だけで完結してしまう考え方による一言です。協働の社会を築いていく児童生徒を育てていくためにも、改めて「放射線教育」の必要性が問われていると、副読本は私達に語りかけてきます。コロナ禍の中で、科学的知見に基づいて感染症のウイルスと対峙している今こそ、放射線教育の必要性とその可能性をさぐることが求められています。両者の共通項はもちろん科学的知見です。


 文部科学省が発行している「放射線副読本」は、A4判20ページ程の小冊子ではありますが、放射線に関する基礎知識から始まり、デマや風評被害を根絶させ復興へのあゆみを加速させていくための取組が示されています。術語としての放射線と放射能の違いはもとより、微小である放射線の単位をどうイメージするかなど、初学者である児童生徒が学びやすいように、イラスト、図表を駆使して分かりやすくまとめられています。しかしながら、「放射線副読本」だけで、放射線教育を進めていては、児童生徒の主体的な学びを引き出していくことはできません。「放射線副読本」を基に授業を行う際の教材が求められるのは必定です。放射線教育に必要な教材を開発していくのが、「放射線教材コンテススト」であると言えます。


 昨年度、本コンテストの審査に関わらせていただきました。対象を小学生にした場合、目に見えない放射線をどう可視化していくか、放射線が有する特性をどう児童に伝えていくかなど、開発過程での苦労が画面を通して伝わってきました。放射線の測定における単位の使い分けはもとより、エネルギーの排出による膨大な数値を測定する単位と放射線の構造におけるきわめて微小な単位など両極を成す単位をどのように捉えていくかは、小学生にとっては難解な課題です。今回、全小理会長賞として授与した作品は、小学校の授業でも活用できる絵本としました。仕上げの丁寧さと共に、内容も科学的な知見に基づいて製作されていました。


 小学校において、いかに放射線教育を行っていくのか、我が国の小学校における課題でもあります。理科をはじめとする関連教科の中で行うのか、それならばどの学年から始めるのかなど、全国各地の実態を踏まえて実施していく必要があります。その際に求められるのは、デマや風評被害に惑わされない科学的な知見に基づく理解です。


 放射線の特性を学ぶにあたり小学校理科の四つの領域との関連を考えれば、エネルギー領域・粒子領域・生命領域との関連はすぐに捉えられますが、残る一つの地球領域での扱いが難しいと思われます。しかし、地球誕生から内在されていた放射線により、今の地球の環境が保たれていったことが明らかになり、地球上のあらゆる空間に放射線が存在するのは事実です。放射線とどう関わり、放射線教育をどのように推進していくかは、学校教育に携わる者にとって避けられない課題です。こうした課題に対する時、忘れてはならないのが東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故です。事故後10年を経過してもなお、私達の生活に様々な影響を及ぼしています。その中には、中傷を受けた人々、風評被害やデマに苦しめられた人々がおり、未だに続いているものもあります。皆が納得できる科学的知見に基づく放射線教育を行う意味もここにあります。風評被害やデマと決別するためにも、放射線教育の推進が求められるのです。ただし、放射線全般を理解するのに必要とする科学的な基礎知識が求められるため、学び手の発達段階を考慮しなければならないむずかしさがあるのも事実です。


 しかし、学校教育において科学的な知見に基づいた放射線教育を行うことが、東日本大震災からの復興を後押しする力になると、私は考えています。エネルギー教育と放射線をはじめ、レントゲンから始まる放射線の医療への応用など、放射線のもつ新たな可能性も近年急速に見出されています。特に後者は、がん治療や血管内治療の「カテーテル治療」として技術進歩が著しく進んでいます。


 「放射線副読本」(小学生版)の「はじめに」の中に、JR常磐線一部区間の運転再開の写真が載せられています。令和3年4月現在、常磐線に関しては、上野・仙台間が全通しました。交通手段が復旧し、その後人々の往来が戻ることが復興の一つの目安なら、放射線教育の推進は復興への「心」を入れていくことにつながるのではないでしょうか。そして、放射線教育の推進の一翼を担うのが、「放射線教材コンテスト」であります。児童生徒、学生ならではの見方や考え方を生かした教材は、放射線を学んでいく者にとって道標になるはずです。「放射線副読本」と併せて、放射線教育の充実に資する「放射線教材コンテスト」を大きく育てていってほしいと願っている次第です。 

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小中学校での放射線セミナーで教えたこと、教えられたこと

 2011年3月の東日本大震災、福島第一原発事故から10年が経つ。放射線の健康影響に関する不安や関心が高まったことを受けて、3月18日に、渡邉正己京都大学名誉教授の声がけで、十数名の日本放射線影響学会有志によるメールを用いた質問の受付と回答を開始した。9月からは福島県および山形県、茨城県などの近隣県での一般市民を対象とした放射線に関する勉強会を行った。2014年頃から小中学校でのセミナーが増えてきた。これまでに実施した勉強会、セミナーは約250回、そのうち約100回が小中学校でのセミナーである。特に、郡山市では教育研修センターとの連携のもと、市内の小中学校で計94回のセミナーを実施した。2019年度までは1回あたり2〜4名のメンバーが講師として小中学校を訪問し、年間15回程度のセミナーを開催していた。700名を超える生徒を対象に開催したこともあれば、10名程度の児童・生徒を対象に開催したこともあった。
 私自身が注力してきたことは、できるだけ感じて学ぶことである。1〜2クラスのセミナーでは、理科室を使用して、霧箱を製作し、マントルやウラン鉱石から放出される放射線の飛跡観察などを行った。自分で作ったもので放射線の飛跡が見えたときの感激はひとしおのようで、いつも歓声が湧き上がっていた。多数の児童・生徒が体育館などに集まって行うセミナーでは、ガイガー・ミュラー式サーベイメータを持参し、減ナトリウム塩(高血圧予防のため、ナトリウムを半分にし、その代わりにカリウムを加えたもの)からかなりの放射線が出ていることを実演で示すと、驚きの声が漏れるのが聞こえた。小学校3年生を対象としたセミナーでは、線量計を持って校内や校庭を歩き回り、児童のリクエストでいろいろな場所の測定をした。すると、配管の曲がり角に「マイクロスポット」が見つかった。放射線は五感で感じられないとは言うが、学習においては五感で感じるのが非常に効果的であることを教えられた。
 毎回楽しみにしているのは、児童・生徒の質問である。ときに想定外の質問があり、児童・生徒の感性や発想の豊かさに驚かされる。小学4年生を対象としたセミナーで、私が「原子はそれ以上分けられないものだ」と言った後に、「原子は陽子と中性子と電子からなる」と説明した。すると、「陽子、中性子、電子はそれ以上分けられないのですか」という質問があった。素朴であるが、極めて鋭い質問である。通常小学校で学習する範囲を大きく超えた内容であるが、児童はたとえ一部であってもしっかりと理解するのだということを感じた。流れで少しだけではあるが、さらに高度な素粒子の話をした。ある中学校でのセミナーでは、周期表を説明するときに、113番元素ニホニウムの話をした。すると、「もし自分が新しい元素を見つけたら自分の名前をつけてもいいのですか」という質問があった。私の回答は割愛するが、研究者の生き方に関わる質問と言えよう。このような体験から、セミナーを通して、研究者・専門家である私たちが児童・生徒と交流することの意義を教えられた。
 この活動も2020年度には大きな変化があった。一つは新型コロナウイルス感染拡大の影響であるが、もう一つは単年度ながら環境省の放射線の健康影響に関する調査研究事業に採択されたことである。これにより、細胞内でのDNA損傷と修復過程を目で見て感じることができるように、移動が容易な簡易型の蛍光顕微鏡を導入することができた。当初は実施校に搬入して観察を行う予定であったが、オンラインセミナーとなったため、コンピュータを介して顕微鏡をインターネットに繋いで、観察像をリアルタイムで送信した。オンラインセミナーでは、接続トラブルのほか、児童・生徒の側からは画像が見づらい場合があること、講師の側からは児童・生徒の反応が見づらいことなどの不便もある。しかし、移動の時間やコストがかからないのはオンラインのメリットである。さらに、オンラインだからこそできることもある。郡山市のある小学校のセミナーに、1000キロ以上離れた長崎県のある小学校がオブザーバー参加することとなった。すると、質問の時間の最後に、郡山市の小学生が、私たち講師陣に向けてではなく、長崎県の小学生に向けて「福島県産の食品について、放射能が気になりますか」と質問していた。これも想定外であった。長崎県の小学生は「特に気にしていません」とさらりと答えていたが、終了後のアンケートでは、「福島県産の食品の安全性が分かった」とか「間違っている大人に注意したい/教えたい」などの感想があった。これは風評被害を抑止する大きな原動力になるのではないか。オンラインのコミュニケーションの大きな可能性を教えられた。
 このような活動で目指してきたのは、放射線に関する正しい知識をもとに、過剰な不安を取り除き、風評被害などを防ぐこと、そして、将来に向けて、自ら判断し、行動する能力を身につけてもらうことである。これに加えて、放射線や関連する科学(例えば、原子、元素、DNAなど)に対する興味、関心を育むことで、将来のリスクコミュニケーションの一端を担う研究者・専門家の育成にもつながることを期待している。いつの日か、小中学校で放射線セミナーを受けた児童や生徒が大学生や大学院生となって再会することを楽しみにしている。

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放射線に関する教育を通した小学生の資質・能力の育成 ~発達の軸と個別の実情の軸~

 前任校の話ですが、以前に比べれば少なくなり、福島から避難してきていた在籍児童はМ子一人となっていました。高学年になったМ子は、仲の良い子とは談笑するものの、口数は決して多くない物静かな子でした。ある年の冬、М子のクラスで外部の専門機関のスタッフによる放射線についての出前授業が行われました。子どもたちは放射線を測定する実習をしたり、物質による放射線量の違いを調べたりしました。グループに分かれての活動は、教具の準備が行き届いていたこともあり、子どもの興味を引いて随分と熱中したものとなっていました。私はその時のМ子の姿が忘れられないのです。グループの中心になり、実に活発に活動し、物質によって放射線が遮られていること等を友達に自分から説明していたのです。そのような彼女の姿を見たことがありませんでしたから、私も担任の教員も驚きました。М子にとって放射線への関心がもとより高く、内容的にもある程度知り得ているものだったからかもしれません。あるいは「放射線」という言葉自体にこれまで学校で使われる日常性があまりなかったからかもしれません。実際のところはどうであったのかは、М子に直接尋ねることをしなかったため分かりませんでした。

 この前任校は自由学区制で、半数ほどが電車やバスを利用して通学してきていました。通学範囲のほとんどは柏崎刈羽原子力発電所のUPZ圏内でした。また、若干名ではありましたが自宅がPAZ圏内であるという児童もいました。それでも日頃の学習や生活の中で「放射線」という言葉がどれほど使われているかというと、現任校でも同様ですが極めて少ない状況でありました。さらに話題として遠ざけている壁があったとしたら、テレビなどの報道から感じ取る怖さや、理解不足からくる健康に影響する漠然とした不安感が関係し、関わり方を消極的なものにしているのではないかと思われました。

 しかし、そうであっても、学習内容として放射線が学習指導要領に示されたり、教員養成のカリキュラムの中に位置づけたりしていくことで、全国の児童に計画的に指導することが可能になるものと考えます。学校で児童が学習すれば、それを家庭に持ち帰って、逆に保護者を啓発することもあるでしょう。また、30年も経てば小学生は親となり、その子どもも学校で放射線を学ぶというサイクルが生まれてくるのではないでしょうか。

 では、現行の学習指導要領には「放射線」がどのように示されているのでしょうか。
 「学習指導要領 総則」の「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力」の項に以下のように示されています。

 「本項は,「生きる力」の育成という教育の目標を,各学校の特色を生かした教育課程の編成により具体化していくに当たり,豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に照らして必要となる 資質・能力を、それぞれの教科等の役割を明確にしながら,教科等横断的な視点で育んでいくことができるようにすることを示している。
 特に,未曽有の大災害となった東日本大震災や平成28年の熊本地震をはじめとする災害等による困難を乗り越え次代の社会を形成するという大きな役割を担う児童に,現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を教科等横断的に育成することが一層重要となっている。そのため,今回の改訂では,例えば,放射線の科学的な理解や科学的に探究する態度(中学校理科),電力等の供給における県内外の協力について考察すること(小学校社会科),健康の成り立ちについての理解(中学校保健体育科),食品の選択についての理解(中学校技術・家庭科(家庭分野)),情報と情報の関係(小学校,中学校国語科)や情報の信頼性の確かめ方(中学校国語科)などの内容の充実を図っており,放射線に関する科学的な理解や科学的に思考し,情報を正しく理解する力を育成することとしている。
 このような現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力として,中央教育審議会答申では
・ 健康・安全・食に関する力
・ 主権者として求められる力
・ 新たな価値を生み出す豊かな創造性
・ 自然環境や資源の有限性等の中で持続可能な社会をつくる力   (一部略)
 などが考えられるとされたところである。各学校においては,児童や学校,地域の実態及び児童の発達の段階を考慮して学校の特色を生かした目標や指導の重点を計画し,教育課程を編成・実施していくことが求められる。
」 (下線松井)

 この他、総則の付録6「放射線に関する教育(現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容)」には、具体的に教科等横断的に教育内容を構成する例が示されています。

 例示されている教科は国語、社会、道徳のみです。それぞれで求められている資質・能力として、国語では、原因と結果など情報と情報との関係について理解することが示されています。また、社会科では、飲料水,電気,ガスを供給する事業が,安全で安定的に供給できるよう進められていることや,地域の人々の健康な生活の維持と向上に役立っていることを理解することが示されています。そして、道徳においては、誰に対しても差別をすることや偏見を持つことなく、公正、公平な態度で接し、正義の実現に努めることが示されています。

 科学技術的な部分での資質・能力については、小学校段階での例示はされていないものの、情報の扱い方や人々の生活環境を支える事業についての理解、社会正義の実現に向けての勇気や構えが、中学校段階での学びにつながるという考え方であることはよく理解できます。しかし、その一方で、放射線はこういうものなのだなと小学生なりにおおよそでよいから理解させることが安心につながることもあります。前出М子やМ子のクラスの子どもたちに放射線の出前講座をしていただいたことは大きな意味があったのではないかと考えています。子どもの発達という軸とともに、学校や地域の実態、時には一人一人の児童の実態に応じるという軸についても何かしらの例示をしていくことが必要だろうと考えます。

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「生きる力」の育成が求められる時代の放射線教育

 令和2年度から,新学習指導要領による教育課程が小学校より順次全面実施され始めた。「生きる力」の育成を謳った学習指導要領は,今期で3度目となる。「生きる力」という言葉は「阪神淡路大震災」発生後の平成10年版学習指導要領改訂時に登場した。当初,「生きる力」とは何かについて,教育現場では,新たに誕生した「総合的な学習の時間」の教育実践と共に様々な戸惑いと模索が生じた。つまり「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,・・・」が掲げられた中教審答申以降の教育の内容・方法の具現化についてである。

 「生きる力」とは何かの問いかけは教育界以外からも上がり,それに応じて平成20年版学習指導要領では,より理論構築され,一層その重要性が指摘された。ところが全面実施直前の2011年3月11日に東日本大震災が発生し,東北地方を中心に教育現場は混乱に陥った。その後,平成29年版学習指導要領が実施される前に,新型コロナウイルス感染症の影響によって,学校・教職員は子供たちが登校さえできない状況での対応に追われた。皮肉にも先述の「いかに社会が変化」の時代に生きていく子供たちにどのような教育が必要か,教育そのものが大きな課題を突き付けられている。

 これからの時代は,知識の集積だけで問題を解決することができない。科学・技術・社会の相互関連を取扱う教育の重要性はこれまでも指摘されてきた。これらの関連から生じる問題は正解が一つだけとは限らず,場合によっては正解が存在するのかどうかも不明である。何よりも課題そのものを自ら見つけ出す必要がある。科学技術と社会との関連した問題はそれぞれの発達や発展によって解決されると期待していたこと自体が違っていたことも多くの人は気付き始めたと言える。

 また,これまで,科学技術への取組は専門家だけに任せておけばよいと考えられていたが,必ずしもそうではないことが明らかになってきた。医療の世界ではインフォームドコンセントが一般的となり,セカンドオピニオンも勧められるようになっている。つまり専門家(医者)は,一般人(患者)に対して,置かれた状況や治療の方法,そのリスク等を理解できるように説明しなくてはならない。一方,患者は不明なこと不安なことがあれば,納得がいくまで尋ね,場合によっては別の医者に伺うこともある。この場合,患者にとって自分のことだけに医者に任せっぱなしにするわけにはいかず,今まで無関係と思えていた高度な科学的な知識すら理解しようとする。今日,科学技術と社会との関わりは深く,自分たちの生活も,インフォームドコンセントが求められる内容となっている。自然災害への防災・減災,環境問題やエネルギー問題,いずれも自分自身に直結する。ただ,専門家の知見の正確性は範囲が限定されており,最終的には,各人の意思決定に委ねられ,個人の価値観に依存することが多い。その場合,個人と個人,社会と社会等によっても価値観が異なることも珍しくない。そこでは,合意形成が必要となる。

 言い換えれば,これまでの学校教育では,100%確実である知識・技能を系統的に学習者に与えればよいのであり,教育内容・教育方法が明確であった。大人の世界でも価値観が異なることは取扱う必要がなかった。しかし,今日では,従来の教科教育にあてはまらない教育が増えつつある。環境教育,道徳教育,情報教育,キャリア教育,さらには健康教育,安全教育,消費者教育なども見られる。いずれも現在においては無視することが不可能な内容であり,これらを取扱うことが求められる学校や教員はたまったものではない。ただ,これらの教育には共通点がある。それは,従来の教科教育が,知識・技能を習得することが重要であったのに対し,それらを実生活や将来の自分の生活等にも学んだ結果,行動として示されなくてはならないからである。当然ながら,教員側も評価は難しくなる。知識・技能の習得を問うことは容易であるが,成果としての行動を評価することは困難である。そもそも教育活動にはねらいがあり,それが達成できたかどうかを評価することが求められるが,上で記した様々な教育にはねらいがあっても,具体的な評価項目で表すことと自体にも難しさがある。

 現在の学校教育の中で,教科教育には,これまでの取組を踏まえた内容・方法が確立されている。それらは法的拘束力を持つ学習指導要領というナショナルカリキュラムに明確に示されている。ただ,発達の段階も意図したり,各教科の整合性があったりするため,取扱いは容易ではない。放射線教育はその典型的な例であろう。新学習指導要領では,現代的な諸課題の一つとして放射線教育が上げられている。教科横断・総合的な内容として扱う意義は述べるまでもない。しかし,カリキュラムマネジメントを考えるにしても小学校理科では取扱われない現実がある。カリキュラムマネジメントの展開としては,開かれた教育課程とPDCAサイクルがキーワードとなっている。しかし,放射線教育は,むしろOODAサイクルの観点がより重要であると考える。OODAサイクルとは,観察・状況把握(Observe)- 情勢への適応・行動の方向づけ(Orient)- 意思決定(Decide)- 行動(Act)によって,適切な意思決定を実現するものであり,理論の名称は,これらの頭文字から命名されている。放射線教育はじめ,自然災害に対する防災・減災教育,復興教育,などにおいて,この取組は,これからの先行き不透明な時代に生きていく子供達よりもむしろ,大人に備わっている必要がある。加えて,コロナ禍を過ごす児童生徒にとって大人になってからではなく,子供の時から,この視点も重要であることが指摘できる。

 さらに,近年国際的にもSTEM教育が注目を浴び,日本の教育界も動き始めてきた。今後の放射線教育もこの視点から展開される可能性が期待できる。

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冷静・適切な判断ができる市民の育成を目指して (大局的・俯瞰的な放射線教育を)

 令和3年(2021年)とは、改訂された学習指導要領が中学校で全面実施される年であるのとともに、東日本大震災発災から10年目となる年でもあります。また、さらには東京オリンピック・パラリンピックの年であり、新型コロナウイルス感染症への対応が正念場を迎えることとなるであろう年でもあります。中学校教育に携わる者からすると、おそらく長く強く記憶に残る1年になるものと思います。この1年を過ごすにあたり、中学校教育における放射線教育をどのように受け止め、推進することが重要なのかということを改めて整理してみたいと思います。

 まず学習指導要領の改訂について確認をしたいと思います。その解説には、改訂の経緯としての冒頭に、「今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。」と示されており、これまでにはない極めて厳しい書き出しとなっています。その背景には生産年齢人口の減少やグローバル化の進展等により社会構造や雇用環境が大きく急速に変化し、予測困難な時代を迎えることなどがあり、今現在、教育現場に身を置いているものとしては、きわめて重い責任を感じるのとともに、ここでの対応の過ちは、取り返しのつかない結果へと直結するのだという緊張感があります。

 また、新学習指導要領においては、育成すべき資質・能力が「生きて働く『知識・技能』の習得」、「未知の状況にも対応できる『思考力・判断力・表現力』の育成」、「学びを人生や社会に生かそう『学びに向かう力・人間性等』の涵養の三つの柱で整理されています。

 中学理科の授業者には、放射線教育において、この三つの柱をすべて満足させる授業を心がけ実践すること期待しています。

 具体的には中学2年生の内容として真空放電を通して電子の存在を理解するとともに、X線やそれと同様に透過性などの性質をもつ放射線が存在し、医療や製造業で利用されていることを学ぶこととなっています。また、中学3年生では、原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取り出していることや宇宙からの放射線、地球上の自然放射線などについて学ぶこととなっています。特に、新学習指導要領の中学理科解説においても「東日本大震災以降、社会において、放射線に対する不安が生じたり関心が高まったりする中」という記述があるように、放射線の危険性に関する社会の関心は明らかに高まっています。一方で医療分野や工業分野等においては放射線の利用なしでは、私たちの社会生活が成立しないことも多く存在するということも事実です。中学校の理科教育における放射線教育においては、この危険性と有用性の2つの側面から放射線や原子力の扱いについて、自己の考えを明確にもてる冷静な市民を育成することが重要であると考えます。

 ここで、エネルギー問題に目を転じてみたいと思います。2020年には2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを内閣総理大臣が示しました。現在の発電方法の内訳を確認してみますと、東日本大震災前は化石燃料による火力発電が6割前後、原子力発電が3割前後となっていたのに対して、東日本大震災後は化石燃料による発電が9割近くを占めるように変化をしました。また、原子力発電には核燃料の最終処分等の問題もあり、環境問題等への適切な対応と豊かな国民生活の保障との両立が成立するエネルギー政策の在り方というものは、今後の極めて難しい国民的課題であります。2050年というのは、今の中学生が45歳前後で正に働き盛りとなり、社会の中心を担う存在となる頃です。彼らが、この難しいエネルギー政策のあり方等について的確かつ冷静に判断できるようにするためにも中学校における放射線教育が極めて重要であると受け止めています。

 ところが、中学校における放射線教育は、教科書に記載されていることなどの知識伝達にとどまってしまっていることが多いのが現状です。中学校の理科教員には放射線を専門に学んだ者は稀であり、多くの教員は放射線に関して手探り状態からのスタートとなります。教員の口からは「正確な知識を入手する方法がよくわからない」、「自らの知識が希薄なことにより、政治的な中立ということに対する自信がもてないので、表面的な浅い授業になってしまう」などという声が聞かれることも多く、それぞれの教員が正確な知識等を確実に身に付けられる手立てを確立させることが放射線教育を充実させる上で特に重要だと考えます。

 本放射線教育支援サイト「らでぃ」を活用していただくことが、そのことを解決する極めて有効な手立てとなるものと確信しております。「らでぃ」内での放射線に関する基礎知識習得はもとより、放射線教育に関する実験・観察に関する情報や「放射線授業事例コンテスト」、「放射線教材コンテスト」などによる、教育現場ですぐに使える事例も豊富であり、中立性にも配慮された情報であることから、ここでの情報をそれぞれの授業改善に大いに活用されることを期待しています。また、本サイトにおける放射線測定器具等の貸し出し事業も活用していただき、知識伝達にとどまることなく、生徒の主体的な取組を促す仕掛けをより多く授業内に取り入れてほしいと思います。

 中学校理科における放射線教育ですので、専門的になる過ぎることを避けるように留意し、正確かつ適切な知識を与え、一人一人の生徒が主体的・能動的に放射線というものに向き合う姿勢を持たせることを目標に大局的・俯瞰的な放射線授業を実践してほしいと思います。そして、それにより生徒自らが今後の放射線の活用の在り方やさらにはエネルギー問題等につても冷静・適切に判断できる資質・能力を育成していきましょう。

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放射線をもっと良く知るために

 福島原発事故以来、放射能や放射線に対する一般の関心が急に高くなりました。それから今年で10年が経ちましたが、放射線や放射能に対する理解と知識がどれだけ増えたかは、学校教育での取組みに掛かっています。10年前に私は頼まれていわき市で放射能・放射線は危険かと題する講演会をした時に、次のようなことを話しました。
1.他の有毒な物質やウィルスと比べてどうか。
2.危険かどうかは、人が放射線を受ける量による。
3.目に見えない、匂わない、知らないことからくる恐怖が生じる。
4.ウィルスと違って、放射能・放射線は測定器で誰にでも測定できて、非常に検知しやすい。また他の人にうつることはない。
5.放射能・放射線は大地、大気、宇宙線、人体、動植物、温泉、火山等自然界のどこにでもある。
6.放射線の人体への影響は、自然放射線でも人工放射線でも全く同じである。
 今、まさに新型コロナウィルスが世界的に流行している時にこれを思い出しました。
正しい知識を持つことは、特に青少年教育にとって極めて重要であり、放射線教育にとっても非常に重要です。放射線は測定器で測ることが出来ますので、授業等で話を聞くだけではなくて実際に学校等で測定してその存在を知ってもらうことは、理解を深めるのに非常に役立つ教育法です。宇宙からは常に多くの放射線が地上に降り注いでいること、標高が1000m高くなると2倍くらいに増えること、地球が38億年ほど前に出来て以来様々な放射性物質が土壌や海水中に含まれていて、半減期が長いU-238、Th-232、K-40、C-14などが今でも存在していること、これらはもちろん植物や動物の体内にも取り込まれています。それを食べている我々人間の体内にもK-40が4,000ベクレル、炭素14が2,500ベクレル、ルビジウム500ベクレルなどが含まれています。今、福島原発事故で溜まり続けているトリチウムの海水放出が議論されていますが、もともと海水中にはトリチウムが自然に含まれていることも知っておく必要があります。
 今、宇宙が注目されていて、宇宙旅行などにも関心が集まっています。地球は地磁気や大気によって太陽や銀河系から来る放射線を遮っているのですが、宇宙空間では遮るものがないので放射線の量は非常に多くなります。例えば地上から約400km上空にある宇宙ステーションでは、一日滞在すると約1mSvの放射線を受けます。地上の約数千倍の線量です。ですから、宇宙飛行士は滞在時間が国際的に決められています。
 放射線には様々な種類があります。一般に広く存在するのは、α線、β線、γ線、X線、中性子です。このほかにニュートリノやミュウオンなどもありますが、これらは地球を貫通するくらいで、物質にほとんど影響を与えません。最近ミューオンを測定して、エジプトのピラミッドの中に未発見の室を見つけたという報道がありました。また、ニュートリノは岐阜県北部の1000m程の山中にある旧神岡鉱山の奥に設置されたカミオカンデという巨大な測定器で測定されています。電気を帯びているα線は空中を数mm、β線は空中を数m飛ぶと吸収されますが、電気を帯びていないγ線、X線、中性子は空中をもっと長く飛びますので、遮蔽することが必要になります。どのような遮蔽が有効かは放射線の種類とエネルギーによって異なりますので、実験で確かめることが必要です。γ線、X線の遮蔽には原子番号の大きい鉄や鉛が効果的で、中性子の遮蔽には水素を多く含むポリエチレンなどが効果的です。これらの放射線は様々な測定器で測定することが出来ます。放射線測定器は電離箱、GM検出器、シンチレーション検出器、半導体検出器等様々な種類がありますので、放射線の特徴に合わせて適切なものを選んで測定することが必要です。
 また、これらの放射線は様々な目的で利用されています。工業利用、農業利用、医療利用などです。工業利用では、様々な物の厚さを測る、鋼管の溶接箇所を調べる、様々な物質の性質の改良等に広く使われています。農業利用では食品の滅菌による保存、新しい品種の開発、害虫の駆除等に使われています。医療分野の利用はどんどん広がっていて、がんなどの病気の放射線治療、人体の内部を透視してコンピューター画像を見て病気の診断に広く使われています。日本は世界的に見て、放射線の医療利用が最も進んでいる国の一つです。陽子線と炭素線によるがん治療装置は20数台と世界で最も台数が多く、がん等の診断に用いる放射性薬剤を製造する装置は150台ほどもあります。胸のレントゲン検査は学校等でも健康診断で広く行われています。
 このように放射線はコントロールして使うことによって、私達に様々な恩恵を与えてくれますので、これからも利用は進んで行くことでしょう。
 これからの放射線教育にとっては、放射線と放射能の違い、放射線の単位、放射線の利用とその影響などが必要なテーマになると思います。特に放射線の単位はベクレル(Bq)、グレイ(Gy)、シーベルト(Sv)とあって混乱することに加えて、吸収線量、線量当量、実効線量、周辺線量当量、個人線量当量などと様々な単位があって、専門家でも混乱するくらいです。測定器で測定している数値が何を示しているのかを理解することが必要です。測定によっては単に検出した数だけを毎分当りのカウント数(cpm)として示すものもありますので、その時はこれを線量当量のSvに変換することが必要になります。自然界にはもともと放射能を持つ物質(NORMと言います)がいろいろありますので、それを用いて実際に放射能を測定することが放射能・放射線に対する理解を深めるのに役立つことになるでしょう。

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中学校理科で放射線について学習することの大切さ

 今年度(令和3年度)から中学校の新しい学習指導要領が全面実施になリました。新しい学習指導要領の下で3年間の全てを送る中学1年生は、現在12~13歳。2008年4月~2009年3月の生まれになります。2011年3月11日に起こった東日本大震災とその後に発生した福島第一原子力発電所の事故について詳しく記憶している年齢ではありません。ということは、今後入学してくる中学生は、リアルタイムに経験した世代ではなくなり、情報として知った世代になります。
 東日本大震災のとき、私は前任校に赴任したばかり、中学1年生の担任でした。6時間目、理科準備室にいた私は、大きな揺れを感じて身構えました。大きな揺れに準備室の棚がズレそうになったのを押さえたことを覚えています。それを聞いて、事務主任がすぐに防止の金具をつけてくれました。準備室が担任していたクラスの向かいに位置していたので、すぐに担当のクラスに駆け付けて、生徒たちを安心させ、職員室からの指示を待ちました。とりあえず校庭に避難することになりました。6時間目だったことから、そのまま下校することになり、荷物をまとめさせてから校庭に避難し、生徒は下校しました。自分は家が帰れる距離ではなかったため、早々に帰宅を諦め、職員室で過ごしていました。実はその日、3年生は卒業遠足でディズニーランドに行っていて、現地で被災していました。職員に連絡も取れず、居残り職員としてはその対応もすることになるんだろうと思っていたのでした。当時を覚えている方は、携帯電話も含め電話は通じなかったことを覚えているでしょう。その中で3年担当職員たちは生徒たちをまとめ、近くの小学校に避難していました。ちょうど帰ろうという最中の出来事で、待ち合わせ場所に集まっている生徒、向かっている生徒、まだギリギリまで遊ぼうとしている生徒とバラバラで、集まるだけでも大変だったようです。夜になって帰宅困難者を受け入れて体育館で宿泊してもらい、貸切バスで帰ってくる3年生の迎えをお願いするために夜中に各家庭へ連絡したりと忙しいり1日だったことを今でも覚えています。今になれば、そのまま生徒を下校させることがよかったのか、帰る途中の注意は十分だったのか、色々なことを考えてしまいます。その後の計画停電は、立地の関係か学校では経験しませんでしたが、他地区からは話が聞こえてきて、東京の電力事情も含めて話をしていました。当時のクラスの生徒たちは、その後の計画停電などのことを含めて、自分のこととして捉えていると感じていました。
 今の生徒たちに同じような話をしても、簡単にまとめれば「へー」という感じになるでしょう。なかなか実感を伴った理解にまでいきません。何故なのでしょう。ヒトが他の生物と違う部分は想像力だと思っているのですが……。想像力を掻き立てる授業のできない自分を悔やめばいいのでしょうか。
 今回の指導要領改定で放射線学習がどうなったかを確認してみると、今までいわゆる第5単元として3年生の最後に学習していた内容を、2年生と3年生に分割して学習する計画になっています。具体的には、まず2年生の電子線(陰極線)の学習時に、放射線が発見された経緯を踏まえて放射線の種類や基本的な性質や利用を学習します。次に3年生の第5単元で、科学技術の発展とエネルギー事情を踏まえて放射線の性質や人体への影響を学習することになっています。理科以外の教科についても、放射線に関する記載を調べてみました。社会科で資料提示の項目はあリましたが、学習内容としては記載されていませんでした。技術・家庭科では、エネルギーについての学習はあるものの、放射線そのものについての学習はありませんでした。小中学校の連携が強くなっていく現状を踏まえて、小学校における放射線学習について調べてみましたが、小学校理科の学習指導要領では総則に「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」として放射線に関する教育が小学校・中学校合わせて取り上げられていますが、国語・社会・道徳の扱いで、産業や差別についての扱いになっているためか、学習場面は各小学校に委ねられているようです。インターネットで検索してみても、福島県の指導事例が最もヒット数が多く、教科の学習というよりも総合的な学習の時間や特別活動で扱ったものが多いようです。つまり、義務教育段階において、放射線に関する科学的な学習は、中学校理科で行うものがほぼ唯一のものであり、その意味においても中学校の理科で放射線について学習することの重要性は高いというしかありません。
 放射線は目で直接見ることができません。そのため、存在を確認するだけでも放射線測定器や霧箱等の間接的手段を用いる必要があります。霧箱は放射線の通った跡を、放射線測定器は数値や音で確かめるわけで放射線そのものが見えるわけでないことは押さえておく必要があります。博物館や科学館等で大型のものが展示されている場合もあるため、修学旅行や校外学習の行程にあらかじめ組み入れたり、見所として指導しておくとよいでしょう。ちなみに国立科学博物館 おうちで体験!かはくVR(※1)で地球館を見てみると、大型の霧箱が設置されていることがわかりますが、リアルタイムの表示でも動画でもないため、放射線の軌跡が見えるわけでないところがもったいない気がします。あらかじめ紹介し、実際に来館するときに備える助けになるでしょう。当ホームページ「らでぃ」では、大型霧箱で放射線の軌跡が見られる動画を用意していますので、そちらをご覧いただくとよいでしょう(※2)。また文部科学省の「放射線副読本」は小学生版と中高生版があるので、少しずつ指導していく意識をもつと良いのかもしれません(※3)。放射線に関する基礎的な知識を得ることはもちろん大切ですが、科学的な立場を踏まえて議論したり、印象論や感情論ではない立場で物事を検討したりする態度を育てるためにも、教員は公正で理路整然とした指導を心掛けたいものです。その上で、自分たちの生きる社会をどのようなものにしていくのか、民主的に選ぶ社会の構成員をたくさん育てていきたいものです。

 

(※1)国立科学博物館 おうちで体験!かはくVR(https://www.kahaku.go.jp/VR/
(※2)らでぃ(https://www.radi-edu.jp/)。ユーザー登録すると便利です。
(※3)それぞれ文部科学省のWWWサイト(https://www.mext.go.jp/)からダウンロードすることができます。

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放射線はリスクリテラシー教育における最適な教材

 1980年代の終わりにドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは、彼の著書の中で近現代の社会は「リスク社会(Risk Society)」であると説いた1)。私たちの住む世界には様々なリスク因子が存在する。いわゆるゼロリスクなるものは現実の世界には存在し得ない。それどころか、科学が発達すればするほどブーメランのように新たなリスクをさらに生み出すという構造的な宿命さえ我々の社会は負っている。ならば、次世代を担う子供たちや若者たちは、現存するさまざまリスクを知り、これらに向き合い、そしてリスクに対処する術を幼いうちから学んでおくべきだと考える。これまで筆者は、研究の傍ら小中学校や高校、大学などで放射線入門知識を普及するための活動に取り組んできたが、その源泉には子供たちが将来「自分の力でこのリスク社会を泳ぎきれるような市民になって欲しい」といった切なる祈りのようなものがあったように思う。さまざまなリスクとうまく付き合う方法を大人になるまでに身に着けて欲しいと願うばかりである。

 科学技術に関するリスクリテラシー教育については、英国の教材「Twenty First Century Science: GCSE Physics」が大いに参考となる。日本の中学3年生から高校1年生に相当するナショナル・カリキュラムKSG4の学年を対象とした教材で、放射線の物理化学知識について広く学べると同時に、上級者向けでは低線量被ばくについても考察するようなユニットも用意されているという2)。我が国も見習うべきではないだろうか。

 ところで、児童や生徒たちがリスクと向き合う方法を学ぶという目的において、放射線ほど適した教材はない。理由は4つある。一つ目は、五感でとらえることができないリスクであるということ。このようなリスクは放射線以外にもたくさん存在する。例えば、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)もこれに該当するだろう。放射線学習を通じて、温度も色も匂いもないものへの処し方を学べるのではないか。二つ目は、定量定性的に数値化できること。目には見えないものであっても数量データに置き換えてしまえば、対象を客観視できるようになる。世界共通言語ともいえる数字を用いた表現や説明の手法も学べる。そして、データに基づいて話すということが、立場の異なる者と共存するための重要なツールとなることも知るだろう。三つ目は、しきい値を設定し難いリスクに対処する術を学べること。科学的知見が日々更新されていることや、他のリスク因子と比較して総合的にリスクを考えるといったことにも触れるだろう。そして最後に、エネルギー問題や復興に関する課題など、現在の我が国に抱える放射線にまつわる社会的課題について多角的な視点で考察できること。例えば、置かれた立場により二律背反となる問題についてディベートを行えば、他者の意見を自分事として考えることの訓練にもなるだろう。これについては筆者も高校生を対象とした取り組みを実施したことがある3)。たった3回のディベートであったがその学習効果は大変に大きいものだった。

 安全工学の分野には「リスクアセスメント」という言葉がある。リスクアセスメントとは、リスクを特定・分析した上で、そのリスクが受容可能かどうかを評価する行程のことで、リスクをマネジメントしなければならない場面における意思決定の重要な根拠となる。一つの方法論として、リスクアセスメントのトレーニングを幼い頃から行っておくということが考えられる。放射線でこの行程を考えると、リスクの特定・分析は即ち線量率測定や放射能分析のこととなる。放射線測定の重要性については今さら言うまでもないが、たとえば理科学習が始まっている小学校中学年の児童には、自然の放射線量率くらいは体験として測定し、私たちが常識として平熱の体温を知っているように、平時の線量率を当たり前のように知っておくことはとても大切なことだと考える4)。そして、放射線量の数値化を学んだ後に、じっくりとリスク評価について学ぶ。ただし、現在の教材や副読本では評価のために必要となる知識のうち、「人体影響」については不足しているように思われ、そのせいか、小中高で放射線の人体影響についてとりあげる学校は現在ほとんどみられない。これは提案となるが、高校で生物学の基礎を一通り履修した後に、いわゆる放射線取扱者に求められる知識の入口ぐらいのことを学ぶ機会を設けてはどうだろうか。例えば、DNAや細胞レベルでの損傷と修復のしくみ、線質による影響の違い、変異と放射線影響との関係、確定的影響と確率的影響の違いなどについては、放射線以外のリスク因子による影響にも応用ができるので知っておいて損はない。英国のように、習熟度の高い生徒たち向けに線量率効果や低線量被ばくに関する最新知見について学ぶ機会があるとさらに良い。あるいは、現在政策として推進されている学校におけるがん教育と連携するのも良いと考える。

 もちろんこのような「リスクアセスメント教育」を実現するには、克服すべき様々な課題がある。放射線測定ひとつとっても、測定器にかかるコストの問題を克服しなければならない。また、人体影響まで学ぶとなると、学校で教える側の人材補強も不可欠となる。長期の計画と予算の確保、そして綿密な準備が必要であるが、それでも、原爆投下と原発事故、これらふたつの悲惨な体験を持つ私たち日本国民だからこそ実現すべき学習方法があるのではないだろうか。  

1) Ulrich Beck、「Risk Society: Towards a New Modernity」SAGE Publications Ltd(1992)、邦訳版「危険社会: 新しい近代への道」法政大学出版局
2) 笠潤平「原子力と理科教育 次世代の科学的リテラシーのために」岩波ブックレットNo.886、岩波書店(2013)
3) 角山雄一、「BER2018「大阪春の陣」高校生たちに未来を見た」、日本原子力学会誌ATOMOΣ、60 巻 8 号、p.442-443 (2018)
4) 角山雄一、「被ばく体験国だからこそ、世界に誇れる放射線学習プログラムを」SYNODOS、https://synodos.jp/fukushima_report/21611 (2018.05)

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『放射線教育』何をどう教えるか?

 新しい学習指導要領において、放射線に関する内容が第2学年と第3学年の二単元に分けて組み込まれた。指導内容は、第2学年「電流とその利用」の「静電気と電流」では「真空放電と関連付けながら放射線の性質と利用にも触れること」と示され、第3学年「科学技術と人間」の「エネルギー資源」では「放射線にも触れること」と示されている。つまり、原子力発電の仕組みに触れる中で、核燃料から放射線が出されることや、放射線の性質や利用について2年から3年と継続的段階的な放射線学習を行うこととなる。
 前学習指導要領(平成24年度全面実施)で30年ぶりに中学校理科で放射線教育が行われることとなり、それからの10年間、放射線の指導法についての研修や研究報告が途切れることなく全国各地で数多く行われてきた。これは、多くの教師が放射線学習の難しさに直面し悩み続けている証であると言える。福島第一原子力発電所の津波による事故で飛散した放射性物質の影響から10年経った今でも多くの方が避難を強いられている。これまでもこれからも、この事故について教師が触れることなしに放射線の学習をすることはありえない。つまり、学習指導要領で記されているように「放射線について触れる」程度で終わるのではなく、放射線の人体への影響や今後の原子力発電のあり方について学習するための計画的・総合的な授業計画が必要である。この場を借りて、私自身がどのように放射線教育と向き合い、授業を実践してきて何を感じたかをお伝えしたい。
 まずは、生徒が放射線に対してどのように考えているかを確認することから授業を始める。生徒一人一人がもつ疑問点や関心が高い項目をクラス全体で共有し、課題を設定することで、放射線を学習する必要性を意識させる。「放射線」という言葉から連想することを聞いたところ、大多数が『原子力発電所』をはじめ『福島』『地震』といった東日本大震災関連のものであった。ニュース等で何度も耳にしているせいか、『シーベルト』『セシウム』といった用語についても、「聞いたことがある」と感じた生徒が多かったようである。これらのことからも、放射線の学習をするうえで、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故について、どのように取り上げ、どのように展開していくかが大切になってくると言える。
 放射線は目に見えない。よって、自然界に放射線が存在することやその性質を理解させるためには、霧箱や放射線測定器といった教具が必要となる。霧箱であれば班に一つ以上、放射線測定器であれば一人一つずつは用意したいところである。霧箱の作製を生徒に行わせたり、放射線測定器による測定を校外で行わせたりすることで、より放射線への関心が高まると考えられる。
 放射線の人体への影響については、まだはっきりしない部分や、専門家でも意見が分かれている内容が多く、授業での扱い方が難しい。生徒へどこまでをどのように教えるべきかの一つの基準として活用できる資料の一つに文部科学省が発行した「放射線等に関する副読本がある。例えば、低い放射線量と健康との関係についての記述は、「自然にある放射線やX線検査など日常で受ける量であれば、健康への心配はありませんが放射線を受ける量はできるだけ少なくすることが大切です。」とある。また、厳選された最新のデータが掲載されており、資料集としても活用できる。
 単元の最後では、放射線に関する基礎的な知識・理解を総合的に活用し、放射線との付き合い方を生徒一人一人に考えさせたい。クラス内で意見を共有する中で様々な意見が出てくることが望ましい。放射線や原子力発電所について肯定か否定に偏った考えでなく、放射線のリスクとベネフィット(便益)を理解したうえで、科学的に考え、判断できる力を養うことが大切である。授業後に生徒が記入した感想の一部を以下に示す。

・福島県での立ち入り禁止区画のことや、地元の野菜・作物などのことは、放射線・放射能の正確な知識を得たうえで対策をすべきだし、もっと放射線の知識を広める必要があると思った。
・放射線のことについての話を聞くたび、良い面もあれば悪い面もあったので、正直放射線のことをどう思えばいいのかよく分からなくなった。原発の問題があったから、まだあまりいいものだとは思えないけど、良い使い道が見つかればいいと思った。
・放射線は体に悪いイメージしかなかったけれど、医療などにとても大切な役割りを果たしているということが分かりました。早く福島の飯館村や南相馬に住んでいる人が今まで通り楽しく暮らせるようになればいいなと思いました。

 放射線測定器による測定実験を通して、放射線が身近に存在していたことを体感できたことは、生徒にとって大きな衝撃だったようである。どんなに詳しい資料を提示したとしても、実際の測定値にかなうものはないように思える。また、レントゲン写真等の医療の現場で放射線が利用されていることも授業で初めて知った生徒が多く、「放射線のイメージが変わった」と表現している。原子力発電所の利点と問題点に関しても、教科書通りに伝えることだけで終わることはしない。福島の現実をしっかり伝えることが必要であり、そうすることで原子力発電所の事故が引き起こした大きな混乱と福島の方々の苦しみを生徒に教えることも教師の役割ではないだろうか。「早く福島の飯館村や南相馬に住んでいる人が今まで通り楽しく暮らせるようになればいい」と書いた生徒が、どのように行動すればよいのかを一緒に考えていける教師であり、理科の授業でありたい。

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“サイレント・マジョリティ”に科学的思考を拡げよう -科学教育はDreams come trueへの種まき-

 私が放射線生物学の駆け出し研究者だった頃の話から始めよう。外部機関で4日ほどの放射線計測の研修を受けた後に個人線量通知をもらった。確か、50マイクロシーベルトには満たない高精度の測定結果であった。大学では「検出限界(これとて実は100マイクロシーベルト)未満」の通知ばかりを受け取っていた中、数字が入った初めての通知に一瞬ドキッとし、何度も見直した記憶がある。専門知識は持っていたはずなのに、いつもと大して変わりないのに、数値があると印象が大きく違ったのである。それなりに学んだ人間でさえこれだから、一般市民の方々が放射線被ばくの数字に大きな不安を持つことは容易に想像がつく。

 さて、大多数の一般市民(ここではマジョリティと表現する)にとって、放射線の生体影響とは何であろうか?私自身の四半世紀にわたる講演会や膝詰め勉強会などで多くの市民の皆さんと接した経験から推察するに、正直「自分たちの近くになければ関係ないし、興味もない面倒くさい話」である一方、自分や自分の近親者に降りかかった途端に「量はそっちのけで相当恐ろしい得体の知れないもの」、あるいは「何とかして避けるべきもの」に変わってしまうのだと思う。基本は原爆やチョルノービリのような悲惨なイメージで止まっているのである。

 ところで、何事もない平穏な状況で、わざわざ放射線の生体影響に関わる話を聞きたいと思う一般市民がどのくらいいるだろうか。2001年に茨城大学に赴任して以来、私は放射線の生体影響に関する公開講座で何度も講演してきたが、2010年までは市民の方が10人も来てくれれば御の字であった。ところが、2011年の福島第一原子力発電所事故から数年間は、数百名収容の会場が半分以上埋まる状況が続き、10年を経た今は再び以前の状況に戻りつつある。つまり、今や大多数は近くになければどうでも良いと思っている「放射線影響についての“サイレント・マジョリティ”」に戻りつつあるのだ。

 「放射線被ばく」という現実が降りかかってきた時、マジョリティが知りたいことはただ1つ、「その被ばくによって自分や自分の身内に何か悪いことが起こるのか否か」である。つかんだ情報が科学的根拠に基づかないものだとしても、人はもっともらしい最初の情報、しかも「危ない」という情報の方に目が行きがちであり、その気持ちには駆け出しの頃に初めて数値の入った被ばく通知を見た私自身の感覚ともつながるところがあるように思う。

 福島第一原子力発電所事故の放射性プルームが茨城県に届いた2011年3月15日の朝、持ち歩いていたサーベイメーターでRI実験室でも見たことのない値にまで自宅の空間線量率が上昇していることに気付いた私は、心底驚いて県の測定機関に確認の電話をした。その一方で、高校生を筆頭に小学校低学年までの子供たちを含めた私の家族は茨城での生活を続け、地元の新鮮な農産物はもちろん、福島県産が入ってくれば積極的に購入した。これは知識と経験に基づいてリスクを比較した結果である。我が家のある小学校区がそれなりに落ち着いていたのも事実で、地域の中に科学的な情報(データは必須であるが)に基づいてリスクを客観的に比較し、判断を行動で示せる住民がいれば、地域全体のリスクを最小にする方向に機能するのではないだろうか。

 ネットに玉石混交の情報があふれる今の時代、どれが科学的情報なのかを判断するにはある程度のバックグラウンド知識が必要である。地域に判断の参考となる住民がいない時はどうするか。少なくとも科学的に合理性のない情報に対して、マジョリティが「これはおかしくないか?」という気付きを持てることが、同じ混乱を繰り返さないためには重要と感じる。とりわけ「放射線リスク」には、マジョリティが苦手とする確率の考え方が加わる。個別事象と集団確率の区別をつけられるかどうかは、科学的な見解を受け入れられるかどうかに深く関連する。今の世界を混乱におとしめているCOVID-19まん延に関しても、感染拡大防止のための真に適切な行動の普及、感染者や医療関係者への差別的扱いの収束、ワクチン接種の早期展開のいずれにも放射線と同じくリスクへの理解が鍵となる。

 長い目でとらえることになってしまうが、根本的な解決には初等・中等教育での情報提供や科学的な考え方の普及がとても重要になると考える。学校で聞いたことがあるかどうかは、あやしい情報に疑いを持つかどうかの分かれ目になり、確率の考え方を身につけることは、不当な差別やバッシングの抑止、冷静な行動につながるはずである。放射線影響に限らず、真の科学(ここでは「理科」と区別し、考える力も要求されるのが「科学」と定義する)を初等・中等教育から社会に広めたいものである。

 科学の根底には、生物としてのヒトが「人」たるために重要な特徴のひとつである知的好奇心がある。知的好奇心を満たそうとする先人達の情熱と努力が今を支える重要な発見につながってきた。「わからないから、やったことがないから無理」なんて発想は科学には無い。今あるデータや過去の知見を元に合理的に考え、判断して計画すれば、高い成功確率で未知へのチャレンジが可能なのである。2020年に大成功を収めた「はやぶさ2」、その前の「はやぶさ」だって未経験を現実に変えた。これこそが科学の力であろう。マジョリティに科学的な考え方を拡げることは、未知への憧れを実行に移し、夢をかなえる「種まき」だと思う。

 私は今も福島県の小中学校での放射線セミナーに参画している。ちょっと難しい話が含まれているにもかかわらず、目を輝かせて反応してくれる子供たちがたくさんいる。彼らの中から未来の科学を支える人材がひとりでも多く出てきてくれることを夢見ている。

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放射線教材コンテストを振り返って

 放射線教育の普及促進を目的に開催される「放射線教材コンテスト」の実行委員を3期務めた。本コンテストは、放射線を学ぶ大学生、大学院生、専門学校生等に向けて、放射線教育ツールと手法の創造と、それらの教育実践の機会を提供し、もって従来にない放射線教育の創発を促し、次世代層へ向けた発信を図ることを目的とする1)。実行委員として、コンテストの基本方針の策定に始まり、審査基準策定、審査員を経験する中で、放射線教育について学び、考える貴重な機会を得た。

 提案された教材は、学生ならではの新鮮な発想とアイディアに基づいたもので、教育現場の教員が実践するにあたり、参考となるものも多かった。プレゼンテーションからは、若者の熱意が伝わってきた。コンテストの回を重ねるに、完成度の高い教材も多くなってきた。しかし、教育現場ですぐに使える教材を創出するのは簡単ではない。いわんや、放射線教材のゴールドスタンダードともなればさらに難しい。このコンテストは「放射線教材の創造」を目的にしてはいるが、それ以上に重要な意義があるように思われる。

 筆者は自治体(現相模原市)の文化振興に関わった経験を持つ。社会教育施設である博物館だが、その新しい取り組みである「エコミュージアム」の基本計画策定、推進に関わって15年になる2)。詳細は割愛するが、エコミュージアムは1960年代にフランスで提唱された概念で、地域全体を一つの博物館に見立て、地域の自然環境、歴史・文化、産業遺産などの資源を現地において保存、復元、展示するものである。日本においては、生涯学習の観点で、活動の主体である市民と専門家、行政の協働により運営される。構成員は定年で職場をリタイアした人がほとんど。地域のことを学んだ後、「市民学芸員」として来訪者に対応する。来訪者向けの説明も当初は心もとないも、2年目ともなれば堂に入ったものである。筆者は、この活動の意義は来訪者への学習の機会の提供もさることながら、つくり手自身の学びの深化、成長、生きがいづくりにあることを目の当たりにしてきた。

 さて、コンテストでは教材のつくり手はいわゆるプロ(教員、専門家)ではなく、学びの過程にある学生だ。学生たちは、コンテストを期に主体的に放射線を学び、放射線教材の創出、発信までのプロセスを体験する。この過程を通じて、放射線を真に理解することができたのは、まさにつくり手の学生たちである。放射線教育のうけ手のみならず、つくり手への教育効果にも目を向けた放射線教材創出は本コンテストの独創的な点ではないだろうか。

 コンテストは、筆者にとって放射線教育の意義や目的など、放射線教育の本質を考えるきっかけにもなった。最近、長く放射線教材の開発と実践に関わって来られた名古屋大学名誉教授、森千鶴夫先生の「放射線教育は必要か?」と題する論考が放射線教育フォーラム誌に寄稿された3)。「福島事故前、放射線教育は原子力エネルギーと放射線利用の両輪で進められてきた」「事故後、前者の安全性については見直しが求められたが、医療における放射線利用には元々国民的理解はあり、医療を含む放射線利用に関してはことさら放射線教育の必要がなかった」。「放射線教育の意義は、物理、化学、生物、電気、機械のような縦割り的な科目を連携させて、社会的な意義を含めた総合的な理解にこそある」と主張する。放射線教育は、放射線を特別な存在と捉えるのではなく、物理、化学、生物などの基礎科目と結びつけて進めてゆくべきなのか、コンテストにおいても今後の課題となろう。一方、文部科学省は、情報化社会が進展し、子供たちを取り巻く環境が大きく変化している中、子供たちが必要な情報等を正しく選択して、適切に行動できるようにするための「生きる力」を育む教育を推進している。2011年の福島第一原子力発電所の事故は本当の意味で放射線を身近なものにした。「放射線」は生きてゆくために必要な知識の一つとなった。さらに10年、コロナ禍の今、リスクのあるものにどう向き合ってゆくのか、放射線教育の重要性は増したように思われる。

 最後に、下限数量以下の放射性同位元素の放射線教育への活用について述べたい。2005年、国際原子力機関(IAEA)が提唱した国際基本安全基準を国内法に取り入れる形で、放射線障害防止法及び同政省令が改正され、下限数量以下の非密封放射性同位元素を管理区域外において使用できるようになった。これに伴い、これまで大学や研究施設などの限られた場所でしか使用できなかった放射性同位元素が、学校教育の現場でも利用できるようになった。例えば、トリチウムであれば1GBqを管理区域外で使用することができ、大方の非密封放射性同位元素を用いた放射線実験は、下限数量以下で実施することができる。また、下限数量以下の非密封放射性同位元素を用いた実験・実習例や安全取扱マニュアルも公開されており4)、学校教育に放射線実験を取り入れたいと考える教員や初学者の助けになる。筆者らも、放射線施設のない大学や学校における放射線教育に下限数量以下の放射性同位元素を活用すべく、新しい概念のジェネレータ(Ge-68/Ga-68、Cs-137/Ba-137m)を開発した5)。このジェネレータは密封線源化されており、外部からの制御によってミルキングを繰り返すことができる。密封線源内から放出される娘核種の放射線を検出器で測定することで、放射性同位元素に触れることなく半減期の計測などの実験を安全に行なうことができる。しかしながら、残念なことに下限数量以下の放射性同位元素の利用は、普及しているとはいえない。微量の放射性同位元素(法的には放射性同位元素等でない)を含む廃棄物の引き取りが、その普及を阻む一因となっている。下限数量以下とはいえ、廃棄物を引き取る産業廃棄物収集業者を利用者が見つけなければならず、それが簡単ではないのである。放射線の社会的理解が進まないことが問題の根底にあり、その解決のためには放射線教育が必要だ。堂々巡りの議論から抜け出すには、下限数量以下の放射性同位元素を利用する教員の決断と、勇気ある行動と実践が必要だ。

1)https://www.radi-edu.jp/contest
2)https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kurashi/kyouiku/1010057/1010060/index.html
3)放射線教育フォーラムニュースレター、 No.77、 p.7、 2020.11.
4)https://www.jrias.or.jp/report/cat1/308.html
5)Sasaki T、 Aoki K、 Yamashita R、 Hori K、 Kato T、 Saito M、 Niisawa K、 Nagatsu K、 Nozaki T、 Development of an externally controllable sealed isotope generator. Appl Radiat Isot、 133(3): 51-56、 2018

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平成29年小学校学習指導要領下において理科で放射線に関する教育を実施する方法

 福島原発事故後は、放射線の健康影響等などについての社会的不安から、小学校・中学校・高等学校の各段階に応じて、放射線や放射能、放射性物質について学び、自ら考え、判断する力を育むことが大切であるとされ、学校における放射線教育の定着・継続が求められました。しかしながら、福島原発事故から10年を経た現在、原発事故とその影響による身の回りの取組を知らない世代が増え、学校における放射線教育は復興教育へと授業内容が変化しつつあります。

 この変化は、令和2年4月より完全実施された平成29年小学校学習指導要領解説(総則編)に示された放射線に関する教育の表記からも伺えます。ここでは、現代的な諸課題(放射線に関する課題)に対応するため求められる資質・能力として「放射線に関する科学的な理解や科学的に思考し情報を正しく理解する力を育成すること」が示されています。同書付録6には、放射線に関する教育で取り扱う主要な教科として国語科、社会科、特別の教科道徳が示されていますが、理科は示されていません。一方で、文部科学省は令和2年3月24日に放射線教育の実施状況調査の結果について、全国の小学校の約70%が主に社会科や理科で扱ったことや扱う予定があると報告しています。本報告から、小学校において放射線に関する教育で取り扱う主要な教科として理科が必要とされていることが伺えます。

 放射線の学習は、中学校第1分野(「エネルギー」「粒子」領域)で取り扱われています。このことから、小学校における放射線に関する教育は「エネルギー」「粒子」領域と関連することが推察できます。「エネルギー」領域では、児童が学習対象を主に量的・関係的な見方で捉え、「粒子」領域では、児童が学習対象を主に質的・実体的な見方で捉え問題解決を通して科学に関する基本的な概念等についての理解を図ります。したがって、具体的な学習内容が取り扱われていなくても、「エネルギー」「粒子」で働かせる理科の見方と関連付けた放射線に関する教育が小学校の理科においても実施できるのではないかと考えます。そこで、全国の小学生に配布された小学生のための放射線副読本(平成30年9月)の学習内容と理科の見方との関連を整理し、放射線に関する教育を理科でどのように実施できるのかについて考えてみました。

 小学生のための放射線副読本(平成30年9月)は、2章から構成されています。第1章は、主に理科と関連する「放射線について知ろう」、第2章は主に国語・社会科・道徳に関連する「原子力発電所の事故と復興のあゆみ」から構成されています。ここでは、小学校理科と関連する第1章の1「放射線って何だろう」、2「放射線を受けるとどうなるの」の学習内容について整理します。

1.小学校理科と関連する「放射線って何だろう」の学習内容
(1)自然放射線の存在:ここでは、「目に見えていなくても、私たちは今も昔も、放射線がある中で暮らしており、放射線を受ける量をゼロにすることはできない」ことを学習します。これは、目に見えない空気の存在を質的・実体的な見方で捉えるという第4学年の学習と関連付けることができます。
(2)放射線の性質:ここでは、「放射線には、光のように「もの」を通り抜ける性質がある。放射線はいくつかの種類があり、その種類によってはさえぎることができること」について学習します。これは、光の反射や日なたと日陰について関係的な見方で対象を捉えるという第3学年の学習と関連付けることができます。
(3)放射線・放射性物質・放射能の違い:これは、豆電球と発光ダイオードの点灯について量的・関係的な見方で対象を捉えるという第4学年の学習と関連付けることができます。
(4)放射線の利用:これは、人体のつくりと運動の学習において紹介されている骨のレントゲン写真を取り扱うという第4学年の学習と関連付けることができます。その際、管理された人工放射線の利用を取り扱う学習の中で(2)の放射線の性質で学習する「放射線や放射能が、風邪のように人から人へうつることもありません」という内容を再度取り扱うことにより、放射線の性質についての理解を深めることができます。

2.小学校理科と関連する「放射線を受けるとどうなるの」の学習内容
(1)放射線の測定についての学習:ここでは、実際に放射線測定器を使い身の回りの放射線を測定します。放射線を測定することにより、測定技能を身に付けるだけでなく、1-(2)の放射線の透過および遮蔽に関する内容についても理解を深めることができます。
具体的には、質的・実体的な見方を働かせ、条件を制御した実験を通して、放射線の透過の量は水や紙、木材、鉄板、鉛板等などの物質により差があること、放射性物質の種類や量により放射線の量が異なることについて実感を伴った理解を図ることができます。この時、1-(3)放射線・放射性物質・放射能の違いの学習内容を再度取り扱うことにより、より理解が深まります。また、量的・関係的な見方を働かせ、条件を制御した実験を通して、放射性物質から距離が離れるほど放射線の量は小さくなることについて実感を伴った理解を図ることができます。これらは条件を制御した実験・測定が望ましいため、第5学年での実施が適していると考えられます。
(2)体に受ける放射線量による健康への影響の学習:ここでは、「放射線が人の健康に及ぼす影響は、放射線の有無ではなく、その量が関係していること」を学習します。量的・関係的に捉える理科の見方を働かせ、放射線の量に対するガンの相対リスク等の資料を読み取る学習が中心となります。

 以上のことから、放射線に関する教育を取り扱う主要な教科として理科が取り扱われていない平成29年小学校学習指導要領下では、小学生のための放射線副読本(令和3年10月改訂)から理科の量的・関係的な見方及び質的・実体的な見方を働かせることができる学習内容を抽出し、それらを理科の授業に位置付けることが、放射線に関する教育を理科で実施する方法の1つであると考えます。

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らでぃキッズページをリニューアルしました

このたび、らでぃキッズページを児童生徒のみなさんにも活用できるようリニューアルいたしました。
ぜひご覧ください。

 

https://www.radi-edu.jp/kids/

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2022年度 放射線教材コンテストの募集を開始しました

2022年度 放射線教材コンテスト の募集を開始しました。

 

https://www.radi-edu.jp/contest

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2021年度 放射線授業事例コンテストの受賞作品一覧を掲載しました

2021年度 放射線授業事例コンテストへ沢山のご応募をいただきありがとうございました。

受賞作品が決定しました! 審査結果をご覧ください。

 

放射線授業事例コンテスト

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「放射線副読本」改訂のお知らせ

令和3年12月(情報提供:文部科学省)

 

 

文部科学省が作成した「放射線副読本」が改訂されました。
令和3年改訂版では、”らでぃ”掲載の霧箱実験の動画がQRコードにより紹介されております。
下記ホームページよりご覧いただけます。

 

文部科学省 放射線教育 放射線副読本
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/housyasen/index.htm

 

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