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最優秀賞はWEBカメラを使って放射線を検出 ―2019年度 放射線教材コンテスト(2)―

 

 学生たちの熱のこもったプレゼンテーションがすべて終わると、審査員たちは別室に入り、すぐに審査が始まった。エントリーされた86作品の中で最優秀賞に選ばれたのは、九州大学大学院総合理工学府筑紫キャンパス(渡辺・金研究室)の大学院生が開発した教材「Webカメラを用いた放射線検出器の開発」だった。また優秀賞には、首都大学東京(現・東京都立大学)の学生たちが開発した教材「放射線を目で見てみよう」が選ばれた。どちらの教材もその画期性と波及効果の可能性の高さが多くの審査員に評価された。

 

■科学の面白さを感じるきっかけになれば

 午前9時30分から始まったコンテストは、昼までに全8チームのプレゼンテーションが終わった。別室での非公開の審査を経て、午後1時30分から表彰式がスタート。最優秀賞に選ばれたのは、九州大学大学院の学生たちの作品「Webカメラを用いた放射線検出器の開発」だった。応募代表者の佐藤光流さんが笑顔で賞状を受け取った。

 表彰式の後に感想を聞いた。佐藤さんは「放射線教育の教材として認められたことが何よりもうれしいです」と語った。一緒に開発してきた中野敬太さんは「この教材を通して、放射線に興味を持ったり、科学の面白さを感じるきっかけになったりしてくれたらうれしいですね」とコメント。同じく開発に携わった青木勝海さんは「高校生たちに、放射線を使った医療機器などの裏側には放射線計測などの工学の知識がたくさんあって、それをこの教材を通して少しでも知ってもらえたらと思っています。そしてその理解が広がることこそ福島の課題解決にもつながっていくと信じています」と、この教材に込めた思いを打ち明けた。

 

■自分たちの研究の面白さを伝えたい

 この九州大学大学院のチームが開発した教材は、2,000円ほどで売られているウェブカメラを学習者が自ら購入して分解し、その中にあるイメージングセンサーを利用して放射線を検出できるように改造していくというもの。そのデータをパソコンに取り入れ、この大学院生らが独自に作成したソフトウエアをダウンロードすると、数値化したり映像化したりできるようになっている。

 「もともとは、私たちの研究室を訪れる学部生や高校生に向けて、研究内容を伝えるために開発したものです。この自作ウェブカメラのノウハウとソフトウエアを提供すれば高校生用の教材にできると思い付きました。自分でつくれば、どうして検出できるようになるのか、原理がわかって放射線の理解が深まります。また、この検出器をつくって、私たちが提供するソフトウエアを使えば、高校生でもさまざまな実験ができるようになります」と、応募代表者の佐藤光流さんが笑顔で話してくれた。高校生たちは、分解・改造することに強い興味を示して熱心に取り組むことが多いという。

 6年ほど前から研究室の学生たちが自主的に開発し、先輩から後輩へと受け継がれ、バージョンアップを重ねてきたとのこと。特に、高校生や学部生が面白がってくれるように、ソフトウエアの機能を追加してきたという。「例えば、検出のカウント数を線量率に変換できるようにしました。その関係式を求めるために、わざわざ実験したりしました」と佐藤さん。中野さんも、先輩の開発した機能を活用して、鉛が放射線を遮蔽(しゃへい)する様子をイメージングできるようにしたという。「私たち3人以外にも、研究室の指導教員や学生たちが代々受け継いできたからこそ、ここまでつくりあげることができました」と青木さん。

 自分たちの研究や学んだことを伝えたいという熱意が、あの教材を生み出した。高校生たちは、検出器を自作していると、だんだんと放射線に興味を持っていくという。そんな感想をもらえると「とてもうれしくなります」と3人は語った。

 

 

最優秀賞を受賞した九州大学大学院の3人。左から中野敬太さん、佐藤光流さん、青木勝海さん

 

 

 

最優秀賞に選ばれた九州大学大学院の学生たちが開発した放射線検出器(左)

2,000円ほどのウェブカメラを学習が自ら改造して自作する(右)

 

 

■見えないものをどう見せるか

 優秀賞は、首都大学東京(現・東京都立大学)の学生たちの教材「放射線を目で見てみよう」となった。拡張現実(AR)を活用して、水や厚紙、鉛などさまざまな防護材が放射線をどれほど遮蔽(しゃへい)するかを擬似的に見せる教材を開発。放射線の種類もすぐに変えることができ、学習者は基本的な性質を短時間で体験的に学ぶことができる。

 応募代表者の西谷昌人さんは「中高生が見えない放射線を学ぶとき、どうすれば理解しやすくなるか。そのことをみんなで話し合って、可視化すればいいのではないかと思い至ったんです。以前、大学の授業でレントゲンを使う機会があって、ARを用いてエックス線をきちんと照射できているかを確かめたんですね。このやり方が教材にも使えるはずだと思いつきました」。審査員からは「身近ないろいろなものもバーチャルで見えるようにしてほしい。そうすれば、子どもたちが『ここからも放射線が出ているのだろうか』と疑問に感じながら調べられる」とコメントしていた。

 

 

優秀賞を受賞した首都大学東京(現・東京都立大学)の4人。左から廣岡佑弥さん、岡本眞璃さん、西谷昌人さん、吉田杏香さん

 

 

 

 

■教育的な波及効果が期待できると高評価

 コンテスト実行委員長の鈴木崇彦教授は、受賞した教材について次のように語った。「最優秀賞、優秀賞に選ばれた教材は、どの委員も高い評価をしていました。教育的な波及効果を期待できるものでした。『あれを測ってみよう』『これは放射線が出ているのだろうか』と実験がいろいろできる。そんな活動の中で、放射線に対する興味を深めたり、新たな不思議を見つけたりできるかもしれない。そんな可能性があることも高評価につながりました」

 また、今回のコンテストにゲームが多かったことについて、「それは、どのような教材なら学校で放射線教育が広められるかという観点や、教育現場でのアクティブラーニングで使える道具や教材が求められている現状を踏まえたのだと思います。どの教材も、とても良かったと思います」と評価。今後に向けては「放射線の人体影響を学べる教材がもっと出てきてほしいと願っています。多くの人にとって、放射線に対する関心は人体影響に関わるところにあります。生物から放射線を見るような教材をもっと開発してほしいですね」と期待した。

 

 

【2019年度 放射線教材コンテスト 受賞一覧】

 

<最優秀賞>
「Webカメラを用いた放射線検出器の開発」
九州大学大学院
佐藤光流、中野敬太 青木勝海

<優秀賞>
「放射線を目で見てみよう」
首都大学東京
西谷昌人、吉田杏香、岡本眞璃、廣岡佑弥

<全国中学校理科教育研究会特別賞>
「身近な地下水に含まれるラドンを調べよう」
東京学芸大学
岡田志織、小林郁巳

<日本理化学協会特別賞>
「ゲームで楽しく放射線防護「距離」の概念を導入する教育教材・演習法」
弘前大学
千葉 咲楽

<ディスカバリー・ジャパン特別賞>
「放射線による人体への影響を学べるコロコロクラッシャー」
帝京大学
鈴木晴菜、小山菜緒、齋藤しおり、榎本弥桜、江原芙美、尾高希咲、串田佳優、須永彩花、宮前琴葉

<放射線教育支援サイト“らでぃ”特別賞>
「デイラジ(daily radi)」
純真学園大学
長尾優花

<入選>
「ラジエーションカード~見えているものだけが世界の全てではない~」
鹿児島医療技術専門学校
有田実華、安山奈々穂、池田采音、田中里奈

「『ビーム・フセーゲル』でストップ放射線!」
帝京大学
渡邉拓也、田部井紀佳、中川 凌、日野俊平

「模型でわかる!放射線の発生原理」
茨城工業高等専門学校
石川桃子、川上舞子

「ペルチェ素子を用いた霧箱の作製」
愛媛大学大学院
宮内滉平、坪根虎汰

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