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中学校理科授業で活用していきたい発展的放射線教育コンテンツ ―名古屋経済大学市邨高等学校主催:令和4年度「中学理科で使える高校理科の技術」講座―

 

 令和4年8月26日(金)、中学校教職員を対象とする令和4年度「中学理科で使える高校理科の技術」講座が、名古屋経済大学市邨高等学校中学校の化学室で開催された。そこでは、平成29年告示の中学校学習指導要領で中学2年生の学習内容になったクルックス管に関する実験の扱い方について、高校理科の視点からの提案があった。また、ワークショップ形式で、自然放射線を観察することができる霧箱の製作や、製作した霧箱を用いた観察、実験が実施された。具体的には、次の2つのプログラムで示す内容で構成された研修会であった。

 

■プログラム1: クルックス管を用いた実験の安全管理、及び応用実験

 大阪公立大学准教授・秋吉優史先生による講義では、クルックス管からX線が漏洩する場合があることを踏まえ、距離、遮へい、時間といった外部被ばくの低減三原則の視点を踏まえた安全管理について紹介された。また、これまで線量計測、運用方法、線量評価やガイドライン等を検討してきた経緯の紹介に加え、カリキュラムや教材コンテンツの開発に向けた取組としての放射線教育プログラム普及に関する紹介がなされ、クルックス管プロジェクトの全体像が示された。具体的には、ペルチェ冷却式高性能霧箱と、簡易型大型霧箱による放射線観察、放射線検出器を用いた宝探しゲームなど、これまでに開発してきた様々な放射線教育コンテンツについて実物を交えながら紹介された。このように放射線教育の中で活用できる題材を研究者から届けるという内容の研修会となった。

 

秋吉先生による講義の様子

 

ペルチェ冷却式高性能霧箱

 

 続くワークショップ形式では、自然放射線を観察することができる霧箱の製作や、製作した霧箱を用いた観察、実験が実施された。完成した霧箱は、ドライアイスの上に置き、燃料用アルコールを入れ、しばらく冷やし、その後、暗くした会場で点灯したLEDライトの明かりで霧箱の中を覗くと、自然放射線の飛跡が見え始めた。参加された先生方から「見えた。」「すごい。」といったような歓喜の声が会場のあちらこちらから聞こえた。線源は掃除機の吸込み口にガーゼ等で蓋をし、輪ゴムで止め、空気に含まれる放射性物質(コンクリートから出るラドン等)を40分程度かけて集めたものを活用した。

 

製作した霧箱で観察を行う様子

 

 

使用した線源(空気中の塵)

 

 なお、マスクなど、目が細かい素材をフィルターとして用いると電気掃除機のモーターに負荷がかかり、また収集の効率が悪いため、ベンコットのようなガーゼを利用する方が良いとの説明があった。さらに、空気中の塵の放射能は半減期30から40分程度のため、授業時間内での減衰挙動の評価が可能であり、最も身近な線源として使用が可能であるという説明があり、実際にインスペクターUSBで計測したところ9:20には3,000cpmであったが、10:20には1,000cpm、11:20には400cpmと計測回数が減少していることが確認された。その後、応用的に、クルックス管から出るX線により、霧箱の飛跡が変化する様子も観察することができた。参加された先生方は、放射線の授業に関する新しいヒントを得られたようで、満足した様子がみられた。

 

秋吉先生による講義の様子

 

クルックス管から出るX線

 

 クルックス管から出るX線による、糸くずのような霧箱の飛跡は、X線が弾き飛ばした電子の飛跡であり、線源として用いた空気中の塵とは異なる様子が観察され、参加された先生方から「是非、中学校で使用していきたい。」といったような感想も述べられていた。特に、平成 29 年度告示の学習指導要領では、第2学年で「真空放電と関連付けながら放射線の性質と利用にも触れること」という記述が新たに加わったこともあり、クルックス管の漏洩X線を霧箱で観察する方法は、放射線の主な性質である「透過性」、「電離作用」を示す方法として活用され、発展していくことが期待される。         

 また、製作した霧箱の観察に加え、ペルチェ冷却式高性能霧箱の観察も行うことで、一言で霧箱と言っても様々な種類があることを理解することができた。

 

ペルチェ冷却式高性能霧箱の観察の様子

 

■プログラム2:霧箱で放射線の種類を調べる実験

 名古屋経済大学市邨高等学校中学校の大津浩一先生による講義では、霧箱でα線、β線、μ粒子を観察する霧箱実験が紹介された。この霧箱は、開発した名古屋大学理学研究科素粒子物理系基本粒子研究室(通称F研)客員研究員の林煕崇先生にちなんで名づけられている「林式高感度霧箱」であり、宇宙線をはじめ、身の回りにあるさまざまな放射線の飛跡を観察することができた。

 

大津先生による講義の様子

 

林式高感度霧箱を用いた観察の様子

 

 さらに、「林式高感度霧箱」を標高 3,000m(乗鞍岳)で観察したときの様子について説明があった。

 気圧の変化が霧箱の挙動に影響を与えるため、標高が高い方が霧箱の感度が高くなる可能性があるという傾向が報告された。この仮説を確実なものとするために、今後、乗鞍岳に出向き、再度実験を行う予定であることもあわせて報告された。

 また、極微量のウランをガラスに練りこんで作られたウランガラスが、ブラックライトで美しい蛍光緑色を呈する実験を行った。追加の実験として、このウランガラスを線源として霧箱実験を行った。本講座で実施された中学校理科授業で活用していきたい発展的放射線教育コンテンツは、いずれも目で見ることができない放射線を可視化させる工夫がなされており、放射線について多面的に考え、理解することの大切さを学ぶことができた。

 講座の最後に、大津先生は、次年度、霧箱づくりで自然放射線の観察をたくさんしていきたいという意気込みを語っていた。また、霧箱を自作する際、大きい霧箱や小さい霧箱など様々なものが想定されるが、放射性物質から放射線が出ることを理解するという目的であれば小さい霧箱が適しているし、自然放射線の存在への理解を深めることが目的であれば大きい霧箱が適していると考えられる。放射線の詳細を3次元的に観察できることもメリットである。このように、小さい霧箱や大きい霧箱等を、TPOに応じて、それぞれの霧箱の特性を活かしながら学習することが大切である、と述べられていた。この話を受け、参加した先生方は、また次回も参加していきたいという感想を述べられていた。

 

ウランガラスの蛍光を観察する様子

 

左から秋吉先生、大津先生

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