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第16回

中学校理科で放射線について学習することの大切さ

杉並区立富士見丘中学校
指導教諭(理科)
中島 誠一

 今年度(令和3年度)から中学校の新しい学習指導要領が全面実施になリました。新しい学習指導要領の下で3年間の全てを送る中学1年生は、現在12~13歳。2008年4月~2009年3月の生まれになります。2011年3月11日に起こった東日本大震災とその後に発生した福島第一原子力発電所の事故について詳しく記憶している年齢ではありません。ということは、今後入学してくる中学生は、リアルタイムに経験した世代ではなくなり、情報として知った世代になります。
 東日本大震災のとき、私は前任校に赴任したばかり、中学1年生の担任でした。6時間目、理科準備室にいた私は、大きな揺れを感じて身構えました。大きな揺れに準備室の棚がズレそうになったのを押さえたことを覚えています。それを聞いて、事務主任がすぐに防止の金具をつけてくれました。準備室が担任していたクラスの向かいに位置していたので、すぐに担当のクラスに駆け付けて、生徒たちを安心させ、職員室からの指示を待ちました。とりあえず校庭に避難することになりました。6時間目だったことから、そのまま下校することになり、荷物をまとめさせてから校庭に避難し、生徒は下校しました。自分は家が帰れる距離ではなかったため、早々に帰宅を諦め、職員室で過ごしていました。実はその日、3年生は卒業遠足でディズニーランドに行っていて、現地で被災していました。職員に連絡も取れず、居残り職員としてはその対応もすることになるんだろうと思っていたのでした。当時を覚えている方は、携帯電話も含め電話は通じなかったことを覚えているでしょう。その中で3年担当職員たちは生徒たちをまとめ、近くの小学校に避難していました。ちょうど帰ろうという最中の出来事で、待ち合わせ場所に集まっている生徒、向かっている生徒、まだギリギリまで遊ぼうとしている生徒とバラバラで、集まるだけでも大変だったようです。夜になって帰宅困難者を受け入れて体育館で宿泊してもらい、貸切バスで帰ってくる3年生の迎えをお願いするために夜中に各家庭へ連絡したりと忙しいり1日だったことを今でも覚えています。今になれば、そのまま生徒を下校させることがよかったのか、帰る途中の注意は十分だったのか、色々なことを考えてしまいます。その後の計画停電は、立地の関係か学校では経験しませんでしたが、他地区からは話が聞こえてきて、東京の電力事情も含めて話をしていました。当時のクラスの生徒たちは、その後の計画停電などのことを含めて、自分のこととして捉えていると感じていました。
 今の生徒たちに同じような話をしても、簡単にまとめれば「へー」という感じになるでしょう。なかなか実感を伴った理解にまでいきません。何故なのでしょう。ヒトが他の生物と違う部分は想像力だと思っているのですが……。想像力を掻き立てる授業のできない自分を悔やめばいいのでしょうか。
 今回の指導要領改定で放射線学習がどうなったかを確認してみると、今までいわゆる第5単元として3年生の最後に学習していた内容を、2年生と3年生に分割して学習する計画になっています。具体的には、まず2年生の電子線(陰極線)の学習時に、放射線が発見された経緯を踏まえて放射線の種類や基本的な性質や利用を学習します。次に3年生の第5単元で、科学技術の発展とエネルギー事情を踏まえて放射線の性質や人体への影響を学習することになっています。理科以外の教科についても、放射線に関する記載を調べてみました。社会科で資料提示の項目はあリましたが、学習内容としては記載されていませんでした。技術・家庭科では、エネルギーについての学習はあるものの、放射線そのものについての学習はありませんでした。小中学校の連携が強くなっていく現状を踏まえて、小学校における放射線学習について調べてみましたが、小学校理科の学習指導要領では総則に「現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容」として放射線に関する教育が小学校・中学校合わせて取り上げられていますが、国語・社会・道徳の扱いで、産業や差別についての扱いになっているためか、学習場面は各小学校に委ねられているようです。インターネットで検索してみても、福島県の指導事例が最もヒット数が多く、教科の学習というよりも総合的な学習の時間や特別活動で扱ったものが多いようです。つまり、義務教育段階において、放射線に関する科学的な学習は、中学校理科で行うものがほぼ唯一のものであり、その意味においても中学校の理科で放射線について学習することの重要性は高いというしかありません。
 放射線は目で直接見ることができません。そのため、存在を確認するだけでも放射線測定器や霧箱等の間接的手段を用いる必要があります。霧箱は放射線の通った跡を、放射線測定器は数値や音で確かめるわけで放射線そのものが見えるわけでないことは押さえておく必要があります。博物館や科学館等で大型のものが展示されている場合もあるため、修学旅行や校外学習の行程にあらかじめ組み入れたり、見所として指導しておくとよいでしょう。ちなみに国立科学博物館 おうちで体験!かはくVR(※1)で地球館を見てみると、大型の霧箱が設置されていることがわかりますが、リアルタイムの表示でも動画でもないため、放射線の軌跡が見えるわけでないところがもったいない気がします。あらかじめ紹介し、実際に来館するときに備える助けになるでしょう。当ホームページ「らでぃ」では、大型霧箱で放射線の軌跡が見られる動画を用意していますので、そちらをご覧いただくとよいでしょう(※2)。また文部科学省の「放射線副読本」は小学生版と中高生版があるので、少しずつ指導していく意識をもつと良いのかもしれません(※3)。放射線に関する基礎的な知識を得ることはもちろん大切ですが、科学的な立場を踏まえて議論したり、印象論や感情論ではない立場で物事を検討したりする態度を育てるためにも、教員は公正で理路整然とした指導を心掛けたいものです。その上で、自分たちの生きる社会をどのようなものにしていくのか、民主的に選ぶ社会の構成員をたくさん育てていきたいものです。

 

(※1)国立科学博物館 おうちで体験!かはくVR(https://www.kahaku.go.jp/VR/
(※2)らでぃ(https://www.radi-edu.jp/)。ユーザー登録すると便利です。
(※3)それぞれ文部科学省のWWWサイト(https://www.mext.go.jp/)からダウンロードすることができます。

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