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第1回

新学習指導要領の下での放射線に関する教育の展望 ~教科等横断的な視点からの資質・能力の育成~

秀明大学学校教師学部
教授
清原 洋一

 平成29年・平成30年に学習指導要領1)が改訂され、令和2年度から小学校が、令和3年度から中学校が全面実施となり、高等学校も令和3年度入学生から順次実施となります。新学習指導要領では、育成すべき資質・能力を学校として明確にし、カリキュラム・マネジメント、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善などの中で、その育成が図られるように努めていくことが求められています。そして、放射線に関する教育についても充実が図られています。

■学習指導要領の主な特徴
 育成を目指す資質・能力については、
ア 生きて働く「知識・技能」の習得
イ 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成
ウ 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養
の三つの柱に整理し、各教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づく再整理が行われました。
 この資質・能力の整理をベースに、各学校においては、児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握し、教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと、教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと、教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して、教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(「カリキュラム・マネジメント」)に努めることが示されています。
 各学校が、カリキュラム・マネジメントを実践していくなかで、子供たちが、学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し、これからの時代に求められる資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにするためには、学習の質を一層高める授業改善の取り組みを活性化していくことが必要であり、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を推進することが求められています。

■放射線に関する教育の充実
 令和3年度から全面実施となる中学校学習指導要領(理科)では、放射線の内容がこれまでの中学校3年に加え中学校2年にも追加されました。しかし、これだけではありません。上に示したように、各学校においては、児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握し、教育の目的をより明確にし、学校全体でカリキュラム・マネジメントや「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善などに取り組んでいくことが示されています。それをより具体化していくための参考として、「小学校学習指導要領解説 総則編」「中学校学習指導要領解説 総則編」の付録に、現代的な諸課題に関する教科等横断的な教育内容の例がいくつか示され、その一つに「放射線に関する教育」が掲載されています。
 そこに示されている事項については、総則の第2の2の(2)「各学校においては、生徒や学校、地域の実態及び生徒の発達の段階を考慮し、豊かな人生の実現や災害等を乗り越えて次代の社会を形成することに向けた現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を、教科等横断的な視点で育成していくことができるよう、各学校の特色を生かした教育課程の編成を図るものとする。」と示した上で、複数の教科の要素が示されています。国語科では、情報の信頼性の確かめ方など、社会科では、飲料水、電気、ガスなどの安全で安定的な供給など、理科では、放射線やエネルギーの有効利用など、技術・家庭科では、食品の安全の確保など、保健体育科では、飲料水や空気を衛生的に保つための基準や管理など、道徳では、差別や偏見のない社会の実現に関わることなどが示されています。
 このようなことが示された背景には、平成20年改訂の学習指導要領(中学校理科)に約30年ぶりに「放射線」に関する内容が復活、しかし、その実施直前に東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故が発生、そこから派生した様々な教育的課題への学校の真摯な取り組みの蓄積といったことがあります。各学校において取り組まれてきた実践を、さらに広げ充実・発展していけるよう、新学習指導要領や学習指導要領解説が作成されています。

新学習指導要領の下、放射線に関する教育が充実し、子どもたちの資質・能力が育成され未来に向かって羽ばたいていくことを期待しています。

1)平成29・30年改訂 学習指導要領、解説等
 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

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