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学生の熱い思いが生み出す多彩な教材アイデア ―2020年度 放射線教材コンテスト(1)―

 

 全国の大学生などが放射線教育の教材を提案する「放射線教材コンテスト」の発表会が2020年12月27日に開催された。新型コロナウイルスの感染状況の収束が見えないことから、発表会はオンライン形式に変更した。

 3回目となった今回のコンテストで多数の作品の中から最優秀賞に選ばれたのは、兵庫医療大学の嶋津佑弥さんらの「市販試薬の放射線計測による新規放射線教育プログラムについて」と、帝京大学の芦澤胡乃花さんらの「放射線の強さ・大きさを視覚的にとらえる絵本型教材」だった。

 

■前年度よりも増えて100作品以上に

 「放射線教材コンテスト」は、放射線について学んでいる大学、大学院、短期大学、高等専門学校、専門学校等の学生が学校で学んだ知識を活用して、小・中・高校生向けに放射線教育の教材を創作して競い合うというもの。3回目の開催となった今回は全国の大学などから101作品が集まった。コロナ禍の時期にかかわらず、前年度の86作品より15作品も増え、この教材コンテストの認知度が広がっていることをうかがわせた。

 この多数のエントリー作品から、最優秀賞2作品、優秀賞9作品を選出。さらに最優秀賞、優秀賞の中から、特別賞(ディスカバリー・ジャパン賞、全国小学校理科研究協議会賞、全国中学校理科教育研究会賞、日本理化学協会賞、放射線教育支援サイト“らでぃ”賞)として、各1作品が選ばれた。

 

■福島復興への思いが強く込められた最優秀賞作品

 「放射線教材コンテスト」の開催目的は大きく2つ。1つは学校などにおける放射線教育の普及と啓発、もう1つは放射線に関する正確な知識の理解である。これら2つの目的は審査基準のポイントでもあり、特に2つ目については、福島第一原子力発電所の事故後の今も根強く残る風評や偏見、差別の払拭に寄与できていることが大きな加点対象となっている。

 以下の最優秀賞の2作品には、教材としての画期性に加えて、作成した学生たちの福島復興に対する思いも強く込められていた。

 

教材で使用した測定器や試薬を手にした兵庫医療大学の受賞者のみなさん

 

■生徒が知識を活用して試薬が何かを特定していく

 兵庫医療大学の嶋津佑弥さんらは、高校生向けに、入手しやすい市販試薬と教育用計測器を用いた放射線教材「市販試薬の放射線計測による新規放射線教育プログラムについて」を開発した。特徴は、天然核種を含みながらも放射線管理が不要な3種類の試薬を線源に用いること。教育用計測器と遮蔽(しゃへい)物、放射線の知識、計算力などをフル活用して、試薬を特定していく。コンテストの審査では、実験を通して放射線の知識をていねいに伝えられる点や、知識を活用して知りたいことを求めていく内容が高く評価された。

 「誰でもどこでも取り組める教育プログラムを目指しました。線源は塩化カリウム、塩化ルビジウム、酸化ルテチウムを充填した試料皿を用います。これらの試薬は取り扱いがしやすく、かつ核種が天然に存在するものです。また、計測機器もなるべく安いものを選びました。身近なところにも放射性物質があることを知ってもらいたい」と嶋津さん。

 「私たち薬学生は実習などで患者さんに接して、その方たちの不安に寄り添いながら薬の説明をしていく大切さを学んでいます。今回、放射線の教育プログラムを開発しながら、いろいろなことを考えることができました。放射線に対する不安をまず受け止め、それから放射線についてわかりやすく説明できるようになりたいと思いました。今回の努力はその力につながるものだと思っています」と熱く語っていた。

 

最優秀賞を受賞した帝京大学の芦澤胡乃花さん、百瀬葵さん

 

■見ているだけでも楽しく学べる絵本教材

 帝京大学の芦澤胡乃花さんらは、児童向けに、放射線の強さなどを学べる「放射線の強さ・大きさを視覚的にとらえる絵本型教材」を作成した。

 絵本はさまざまなクイズと仕掛けが盛り込まれ、例えばページ内の小さな扉から細長い色紙が飛び出したりする。子どもたちは、そんな仕掛けを動かしながら、レントゲン写真で受ける放射線と自然放射線、飛行機に乗ったときに受ける放射線など、その値を相場感として比較していく。審査では、絵本の中で放射線の量が視覚的にうまく表現されていた点や、科学の基本の1つである「比較」に具体性があったこと、またページをめくる度にいろいろなものが飛び出す驚きで読者の興味を抱かせる工夫が高く評価された。

 「立体的な仕掛けを自分の手で動かすことで放射線を体験的に理解できたり、クイズの答えを考えることで知識の定着を図ったりできると考えました」と芦澤さん。限られた文字数やページ数でも正しく伝えられるような説明、巻末に大人向けの補足説明を入れることなどの工夫を凝らして、大人と子どもが一緒に学べるように意識したとのこと。

 「日本や世界、宇宙での放射線の量を比べてみたり、日々の生活の仕方によって受ける放射線の量は異なってくることを学んだりして、正しい放射線の知識を身に付けることが福島の復興につながると考えています。この教材を通して、福島を特別視して差別するものではないことを理解してほしいと願っています」と教材に込めた思いを聞くことができた。

 

■学びから生まれる興味や感動を伝えてほしい

 放射線教材コンテストの実行委員長を努める帝京大学の鈴木崇彦教授は、このコンテストに込めた思いや学生たちへの期待を次のように語った。

 「今回も、放射線について学んでいる多くの学生が、教材の制作を通してその知識や面白さ、不思議さを子どもたちに伝えようとしてくれました。このような場を設けたのは、若い方であれば私たち大人や専門家には思い付かないようなアイデアや工夫が生まれるのではないかという期待もあったからです。同時に、人に知識を伝えるためには自らがより深く学ぶ必要があり、教材作成を通してそれを実感してもらいたいという思いも込めています。何か子どもたちに新しい知識を伝えるには、驚きや不思議さ、面白さといった興味を引く要素が必要だと言われています。今回、最優秀賞に選ばれた2作品は、いずれもそれらの要素がうまく取り入れられていて、とても感心しました。その他の作品についても、福島の風評被害をなくしたいという思いを込めてつくった作品や、楽しみながら放射線について知ってもらいたいという思いが入っていました。どれも印象深いものでした。参加した学生の方たちには、これからも自分が学んだことから生まれた興味や感動を人に伝えることの楽しさや難しさ、思いが伝わったときの喜びを経験してもらいたいと思っています」

 

※下記サイトでは、受賞した各教材の説明動画を見ることができる。

https://www.radi-edu.jp/contest/list-of-award

 

 

多彩な教材アイデアの優秀作品 ―2020年度 放射線教材コンテスト(2)―

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