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クルックス管を安全に使って科学の歴史を伝える(NPO法人放射線教育フォーラム主催:令和元年度第2回勉強会)

 

 NPO法人放射線教育フォーラムは2019年11月24日(日)、「放射線教育フォーラム第2回勉強会」を東京慈恵会医科大学の高木2号館南講堂で催した。この記事では、勉強会で開かれた四つの講演のうち、放射線教育に関連する二つの講演を紹介したい。

 

 新しい学習指導要領の実施が迫り、中学校の理科では「静電気と電流」の単元で「真空放電と関連付けながら放射線の性質と利用にも触れること」となった。この勉強会でも、クルックス管が現代科学の進展に寄与した歴史を解説する講演からスタート。また、このクルックス管から放射線が漏れ出る可能性があるため、教育現場でクルックス管の実験を実施する際の安全確保のためのガイドラインを策定するプロジェクトの進行状況についての報告もあった。

 

 

■現代科学の基礎を作ったクルックス管

19世紀の後半、英国の科学者のウィリアム・クルックスが開発した実験用の真空放電管「クルックス管」は、エックス線の発見をもたらし、科学の進展を促した。京都大学名誉教授の柴田誠一氏は「X線発見から原子構造の解明へ」と題して、科学の歴史をたどりながら、現代科学の重要な基礎を築いたクルックス管の果たした役割について熱心に解説した。

 

 2019年はメンデレーエフの周期律の発見から150年目だった。「当初は元素の周期表の配列は困難を極めていた」と柴田氏。しかし、クルックス管などを用いた陰極線の研究の中で1895年にレントゲンがエックス線を、1897年にJ.J.トムソンが電子を発見し、その後に特性エックス線も発見されることで流れが変わったという。

 

 1913~1914年にモーズレーが特性エックス線のスペクトルで元素を系統的に調べる実験を実施すると、原子番号を実験的に決定でき、それが原子核の電荷数と同じであることが示された。「原子核の電荷が元素の性質を規定できることが明らかになって、周期表の配列も決められるようになった」と柴田氏。また、クルックス管によるエックス線の発見は、原子構造に関する研究にも発展し、ラザフォードの原子核の発見やボーアによる水素原子の構造の解明にもつながったとのこと。

 

 柴田氏は「今の我々が当然のこととして享受している科学的基礎の中には、このエックス線の発見がきっかけになって明らかになったものが多くある」と強調。会場にいる学校の先生たちに向けて、これまでのクルックス管の実験に加えて「現代の生活を支えている科学技術の基本の多くがこのクルックス管によってわかったということを理解しておいてほしいし、これを用いて生徒にもぜひ放電現象を見せて、どうしてこのようなことが起きるのかを考えさせるきっかけをつくってもらいたい」と語った。

柴田誠一氏

 

■暫定ガイドラインの実効性を検証

教育現場でクルックス管を安全に運用できるガイドラインを策定する「クルックス管プロジェクト」。これを立ち上げて中心的に取り組む大阪府立大学放射線研究センターの秋吉優史准教授が進捗状況を伝えた。

 秋吉准教授は、学校の理科室にあるクルックス管からエックス線が多く放出されている場合があると指摘。その上で、「低電圧で確実に安全なクルックス管に買い替えることが理想。もし予算の関係でクルックス管を買い替えられなくても、誘導コイルの設定やクルックス管からの距離、放電時間の短縮などの運用を行うことでエックス線の量を少なくすることができる」と助言。関連の知識を正しく持って使うことの重要性とガイドラインを参考にする必要性を説いた。

 

 現在、教育現場の第二次調査として、暫定ガイドラインの実証実験を学校で取り組んでいるとのこと。学校関係者の希望者には測定機器としてガラスバッチを郵送。2019年8~10月には、検証を実施。学校で暫定ガイドラインに沿って使用してもらい、8月に測定した27校の92本のクルックス管については「暫定ガイドラインを適用すると、クルックス管から漏えいするエックス線の量が極めて低いことが、多くのクルックス管で確認することができた」という。また、教科書会社に対して、教師用の指導書に今後完成するガイドラインを掲載するように依頼し、「すべての会社が掲載を認めてくれた」とも報告した。

 

 講演後の質疑応答では、中学校の先生から「クルックス管からエックス線が出ていること初めて知った」という声が出ていた。別の中学校の先生からも「羽根車を回すタイプのクルックス管からは高いエネルギーの放射線が出ているイメージがあるが、実際はどうなのか」という不安の声も聞かれた。秋吉氏は、「羽根車を回るのは『ラジオメーター効果』と呼ばれる現象によるものであり、クルックス管から出る陰極線エネルギーとは関係ない。このクルックス管から出てくるエックス線の量は羽根車がないクルックス管から出る量とさほど変わらない」と答えた。

 

秋吉優史氏

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