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教員向け研修会

放射線教育実践事例38:福島県西郷村立熊倉小学校<下>(2018.06)

 

学校の森や水田で体験学習

 =近隣ボランティアやJAが応援=

 

 屋外で行う自然環境や食の教育を放射線教育にもつなげている福島県西郷村立熊倉小学校。地域のボランティアやJAなどの団体の協力を得ながら、年間を通したプログラムを進めようとしていることも、同校ならでは取り組みだ。

 

■学校の森で放射線を測定

学校林で放射線の測定をする4年生

 

 この保護者参観日に先立つ6月18日、子どもたちは学校林で放射線を計測する活動に取り組んだ。学校から歩いて5分ほどの「くまっこの森」で、4年生が森の中を散策しながら放射線量を計測。福島県と環境省で運営する「環境再生プラザ」のスタッフがサポートする中で、子どもたちはそれぞれ線量計を持ち、立ち止まって「1、2、3」と30秒まで数え上げてから計測器の数値をワークシートに記入した。

地図の計測地点に放射線量を書き込んでいく

 

 計測地点はあらかじめ決められた8カ所。森の入り口や田んぼのそば、山道など。全地点の線量は、およそ0.10~0.13 μ㏜/時の範囲で収まっていた。放射性物質そのものが減衰することと除染でここまで下がった線量だが、そもそも身近な場所で放射線を計測できるとは思っていなかった児童もいた。

 

■子どもたちを支える「森の案内人」

 くまっこの森は、昔、養蚕が盛んだったころの地域の人の桑山だった。学校に近く、自然環境を学ぶには最適な場所として、所有者が提供した山林だ。2011年に放射線量の高い場所だったが、除染することで子どもたちが入ることが可能になった。

 この森の面倒を見てくれている一人、高田雅雄さんは「ボランティアグループで観察路の草刈りをしたり、『森の案内人』として山に植わっている樹木の名前や性質などを子どもたちに教え、学習の手助けをしたりしています。学校の教科書で学ぶ『もちもちの木』(トチノキ)やブナもこの山になかったので植林しました。子どもたちが森に来て話を楽しく聞いてくれたり、観察してくれたりするのが何よりもうれしいですね」と話す。

 

森の案内人の高田雅雄さん(左)と長靴姿の佐藤悟校長

 

■田んぼでの観察、JAが応援

 6月29日、4年生は理科の時間に学校用の田んぼに入って生き物を観察した。この授業は、地元のJA(夢みなみ農業協同組合西郷支店)が子どもたちに体験を通じて農業を知ってもらいたいと応援した。

 いま農家の子でも水田に入った体験は少ないという。皆、最初はこわごわと畔でしゃがんで田の中を見つめていたが、元気な男児が網を持って中に入っていく。女児も「きもい」「なんかいそうでこわい」などと言いながら続き、見つける生き物に歓声を上げた。「ドジョウ、タニシ、タガメ、ヤゴ……」。JA職員が捕まえた魚や昆虫の名を教えていった。

「ここにいる」とJA職員が児童に田んぼの生き物を教える

 

 4年生の担任、佐々木由美恵先生は、「普段の理科の授業では、このように時間をかけてはなかなかできないです。教室ではメダカの観察をしますが、あとは下校して自分たちで見つける程度になってしまう。生き物を間近にみる絶好の観察の機会ですね。オタマジャクシがカエルになる姿もよく分かります。子どもの中には『先生、カエルに尻尾が生えている』と驚く子もいる。尻尾が取れて足が生える過程なのですが、子どもには実際に見ると、そう見えるのかと」と、先生自身の発見もあった。

 

■保護者の不安払しょく、ようやく

 「初めて田んぼに入る子がほとんどなので、楽しめたかなと思います。こういう生き物がいて、こういうお米が育つ、自然があってお米が育つことを分かってもらいたい」とJA担当者。

 この田んぼの生き物観察の授業応援は、以前からJAが行っていた活動だが、2011年の大震災で中断。その後の数年間、除染によって野外の放射線量が減るのを待った。そして昨年の2017年、JAは安全だと判断してこの授業応援をしようとした際に、一部保護者から「放射線は大丈夫か」との不安の声が出た。このため水田の土の放射線量を測定し、その結果を保護者に示し、ようやく理解を得た経緯がある。

 放射線教育との関係について佐々木先生は、「生き物を知るために田んぼの中に入っていける程度まで放射線量は少なくなったことを伝えています」という。そして「自分たちでお米を作ったという経験になるといい」と、子どもたちの収穫や餅つきを楽しみにしている。

 

■環境再生プラザとの取り組み

野外観察の後に基礎知識を学ぶ授業

 

 森での放射線測定や田んぼでの生き物調査を側面で見守り、サポートしている団体が、先に触れた環境再生プラザである。6月18日の野外観察ののちに校内で4年生に放射線の基礎知識についてスタッフがスライドを使いながら解説した。

 4年生にはやや難しい内容も含んでいたが、環境再生プラザの渡部拓哉ディレクターは、「1日だけで無理にすべてを教えようとは思っていません。私たちは1年を通じてサポートしていく予定にしています。森での放射線測定の活動は、子どもたちが放射線を自らはかるという体験を通じて、放射線への興味の引き出しをたくさん持っていただきたいと考えたのです。今後は、学校と話し合いながら、例えば、学校のモニタリングポストが示す数値と森の中で調べた数値を比較したり、子どもたちが育てたお米などを役場で検査をしてもらったりすることなどを考えています」と話す。

 

■食育、人権教育、地域の学びを一つに

 佐藤校長

 佐藤悟校長は、熊倉小学校で進める放射線教育について「教科を横断するような視点を持ち、子どもが知識を得るだけではなく、体験活動を通して実際の生活に活用できる資質や能力を育みたい」と語る。学校の森や田んぼ、畑などを有効に活用し、保護者や地域の方、環境再生プラザなど外部の専門家にも協力を求めることで、放射線教育や食育、人権教育、地域の学びなどを一つに結びつける方針だ。

 「あるとき子どもたちに、学校森にも生えている桑の木の実を昔はよく食べたということを伝えると、子どもたちから『今も食べられるかな』という疑問が出て、『放射線の量を測定してもらおう』という話に発展し、実際に西郷村放射線対策課で測定してもらったんです。こんな具合に環境教育と放射線教育、食育を一緒にすることができて、そこから子どもたちの生活の中で役立つ学びになっていくと思うのです」と佐藤校長。

 「田んぼに安心して入れるようになったのは、これまで努力した方々がいらしたことや、保護者の方に理解していただけたことなどによるものだと思います。地域ぐるみの取り組みは、学校の職員だけではできません。地域の方々や卒業生も来てくださいました。こういったことを今後も続けていけば、ますます良い教育ができ、地域の良さがどんどんつながっていくと思います」と地域の支えに謝意を示した。

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