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教員向け研修会

放射線教育実践事例37:福島県西郷村立熊倉小学校<上>(2018.06)

 

食の安全、給食や検査に学ぶ

 =保護者とともに地域ぐるみで=

 

 福島県西郷村立熊倉小学校では、3・11から7年経過し、原子力発電所の事故による放射性物質の除染が進み、環境の放射線のレベルが低くなってきている。一方で、子どもたちや保護者も放射線について関心が薄らぐことが懸念されている。保護者参観の日の6月28日に、全学年15クラスで授業参観が行われ、放射線に関連する授業では父母もともに学んだ。地域ぐるみで学校の教育を支える動きが活発で、食の安全や健康を学ぶ姿勢が特徴的だ。

 

■バランスのよい食事で放射線影響を少なく

 4年1組では、「健康で安全な食生活」の単元で、放射線の影響の少ない食材を食べていることや、栄養のバランスを考えた食事をする大切さを学ぶ授業を行った。

 担任の阿部浩昭先生は、2011年以降、学校給食では食材を放射線検査して作っていることなどを紹介。そのうえで西郷村給食センターの栄養教諭、田原智代子先生が放射線との関係も含めて「バランスのよい食事とは何かを考えよう」と学習指導した。

 

バランスの良い食事について指導する田原先生

 

 田原先生は「自然放射線は空気や大地や食べ物にも含まれ、毎日の食事のなかにも少し入っているかもしれませんが、それはなるべく少ない方がいいですね。少なくして食べることと、体の中に入った放射性物質を外に出すことです」と話し始めた。

 「少なくして食べる方法は、土が付いている野菜や食べ物をしっかり洗ってから用意する。一方、体の中から外に出すためには、健康な体をつくる。そのためには、食べ物の働きを知ってバランスのよい食事をとることが大切です」と説明した。

 食べ物には栄養素の働きから、3つのグループに分かれることを子どもたちは既に学んでおり、復習した。「赤色グループ(肉、魚など)は、体の骨、歯、筋肉をつくる。黄色のグループ(ごはん、パンなど)は 頭や体を動かし、体温を保つ働きがある。そして緑色のグループ(野菜や果物,キノコなど)は、体の調子、特にお腹の調子を整えます。ウンチを出し、体に必要のないもの、放射線を出すものを、しっかりと体の外に出す働きをします」と田原先生。

 この3つのグループからきちんとしっかりとバランスよい栄養を取ることが大事で、この日の給食や明日の給食の具体的なメニューを例に、3つのバランスがとれていることを、説明した。

 

■親子一緒に霧箱で観察する

 3年生には1、2組の合同で、「霧箱で放射線を見てみよう」と題する授業が行われた。授業参観に来た保護者も校舎中央の多目的ホールに集まり、約50個も用意された霧箱で親子一緒に放射線の飛跡を見た。

 講師は、鳥取大学助教で研究推進機構研究基盤センター(アイソトープ管理部門)の北実(きた・まこと)先生。「鳥取県から来ました」と、ラジウム温泉として古くから有名な同県の三朝(みささ)温泉を紹介し、露天湯に浸かっている自分と家族の写真をスライドで見せた。

 「福島県にも温泉があるけど、みんな温泉は好きですか? ラジウムというのは放射性物質の名前です。入ってみたいですか? ちょっと心配ですか?」と、北先生は子どもたちの関心を引き込んでいく。

 「自然の中にも放射線があるのです。宇宙から、地面から、食べ物から。そして空気の中にも飛んでいます。それを霧箱で見ることができます。風船で集めてみましょう」と、棒状のゴム風船を膨らませた。こすって表面に静電気を生じさせた風船を壁面にピッタッとくっつけた。あとで表面に付着した空気中の塵に含まれる放射性物質を霧箱の線源にするためだ。

 

ゴム風船を使って自然放射線の存在を伝える北先生

 

 北先生は、「放射線が体に当たってもその量が少しなら傷ついた遺伝子も治せ、悪くなった細胞を取り除く力がある」と話し、内部被ばく、外部被ばくの違いを説明。放射線を測定するものとして、子どもたちにも覚えのある「ガラスバッチ」や、校庭に設置してある「モニタリングポスト」があると伝えた。

 親子で一緒に観察した霧箱は、マントル(ランタンの芯でトリウムを含有)が線源。ドライアイスで冷やした容器の中に白い線状の飛跡が見えると、あちこちで親子が驚きの声を上げた。親子一緒の体験に対話が生まれる。「放射線を見つけたキューリ夫人はノーベル賞を獲ったんだよ」と小3の女児が父親に言うと、父親は「漫画で読んで知っているんだね」と笑った。

 会場の後方で、北先生が持参した温泉水を使った実験を見せた。温泉水の入ったペットボトルをよく振って、その容器内の空気を霧箱に送ると放射線が飛んだ跡が見える。「ラジウム温泉水から放出されるガス(ラドンガス)が放射線を発生させているのです」と北先生。このほか空気中の塵を付着させた風船ゴムをしぼめ、そこからも放射線が飛んでいることも紹介した。

 

親子揃って霧箱で放射線の飛跡を観察する

 

■保護者との地域の放射線について学ぶ

 授業のあと保護者だけを集めた地域教育懇談会が開かれた。「放射線に対する関心が地域で少しずつ薄れているなかで、再度、勉強する機会にしたい」とPTA役員があいさつ、北先生が「西郷村の放射線教育の取り組み」について講演した。

 北先生は、3年生の授業でも触れた三朝温泉の周囲で測定した放射線量について改めて解説。温泉が出ているところは、一か所は1.057μ㏜/時という値もあったが、実際に湯に入っている時間やその場所から離れている時間などを計算した結果も踏まえて、「住民や観光客が安心している」と話した。

 また西郷村で実施している、農産物などさまざまな検査結果を紹介。熊倉小学校周辺の環境で雨を測定した結果、放射性セシウムの値も検出限界値未満なので、「洗濯物の外干しは危険ではありません」と説明した。

 小学校1,2年生の子を持つ親は「事故後、当初は水も飲めない、洗濯物を外で干せなかった。祖父や祖母はいまでも心配をしているのだけど、今日の話を聞いて安心をしました」と話した。

 佐藤悟校長は「この地域で安心してくらしていくための情報を示してくださった。食品も検査体制が取れており、山菜の一部やイノシシ以外は安全。今は風評被害が課題です。子どもたちに正しいことを発信できる力を身に着けていきたい」と話した。

 

北先生

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