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学習指導要領改訂に対応、教科の枠を越えて(NPO法人放射線教育フォーラム主催:平成30年度第1回勉強会)

 

 放射線教育のあり方を議論し提言しているNPO法人「放射線教育フォーラム」は6月10日、東京慈恵会医科大学アイソトープ実験研究施設で「平成30年度第1回放射線教育フォーラム勉強会」を開いた。新しい学習指導要領でも強調された教科の枠を越えた教育として実践する事例も紹介され、熱のこもった討論が繰り広げられた。5つの講演の概要は以下の通り。

 

5つの講演に質疑が交わされたフォーラム会場。

 

■小学校でも放射線の学習を実践できる

 北海道大学エネルギー教育研究会の平田文夫氏(元小学校教諭)は、エネルギーを教えるときなど、小学生には目には見えないものを見える形に置き換える学習が大切だと訴えた。その観点で、放射線は教材として魅力があると伝えた。

    平田 文夫氏 

 

 放射線はそれ自体が見えないものであり、かつ外からは見えない人体などの内部を見ることを可能にする。平田氏は、小学6年生の理科の単元「人や他の動物の体」で、子どもたちにレントゲン写真を見せ、エックス線の性質を教えるなどの実践例を紹介。「電離作用」「活性酸素」「抗酸化」などのキーワードを使って低線量放射線の人体影響の仕組みも説明できたという。

 また平田氏は、理科以外でも体育や家庭、総合的な学習の時間、特別活動でも放射線教育を、小学校の先生たちと実践し、野菜や果物の抗酸化力を調べる実験も行ったという。これには児童だけでなく、生活習慣病を教えることに苦労していた栄養教諭も強い関心を示してもらえたとのこと。放射線が教材として利用できる可能性が大きいことを強調した。

 

■原子力発電の是非を考え、主権者意識を育む

 新しい学習指導要領では「主権者教育」の充実も掲げられている。公職選挙の選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたこともあり、特に高等学校では新たな実践が求められている。名古屋経済大学市邨高等学校・中学校の大津浩一氏(特任教諭)は、放射線教育を絡めながら、生徒に社会的な課題を考えてもらう意欲的な実践例を紹介した。

    大津 浩一氏

 

 大津氏は、高校3年生を対象にした社会科の授業で、発電に原子力を利用する是非を生徒が考える場をつくった。事前学習をした上で、賛成と反対の立場の専門家を別々に招き、その講義を受けた後、グループごとに生徒同士で議論しながら意見をまとめ、発表したという。

 「科学的に100%断言できない事柄は多く、そういうとき科学者は断言をしません」といった科学の考え方や、専門家は必ずしもすべての分野を専門にしていないことを知るなど、情報を受け止めるスキルを教えた。それによって生徒たちは自ら異なる意見を交わし、その是非を論議。この活動によって深い学びができたという。講演後、会場からは科学リテラシーについての大津氏の考え方に対して意見が出たり、社会科教諭と連携する方法についての質問が出たりなど、議論が続いた。

 

■説明不足の専門用語に生徒は悩んでしまう

 元筑波大学附属高校教諭の廣井禎氏は、多くの生徒が学ぶ「物理基礎」で扱う放射線について、教科書の問題点をさまざまに示した。多くの教科書では、専門用語の説明があまりに不十分で、結果的に生徒たちを悩ませ学習意欲を低下させていると、自身の経験談を交えながら語った。例えば、放射能を「放射線を出す能力」と安易に説明すると、生徒がわかったつもりになってしまい、学習のつまずきの原因になるという。初学者には「放射物質の量」として教えた方が理解は深まりやすいのではないかと提言した。

    廣井 禎氏

 

 また、放射線の導入でアルファ線、ベータ線、ガンマ線の違いを説明するときに、発見当時は正体が分からないからそう呼んだことを踏まえさせながら、その正体が何であるかを教えるべきではないかとも指摘。知識を持たない高校生に対して適切に説明せずに、いきなり太文字で「放射性崩壊」「放射性同位体」などと載せる教科書の作り方に対して再考を求めた。

 

■人類史を通し、現代科学に親しめる授業を

 元日本原子力研究所の研究者で理論放射線研究所所長の大野新一氏は、素粒子の起源や宇宙進化の解明など現代の科学を学校で教えてほしいと求め、その素養は放射線教育を通して身に付けられると主張した。

    大野 新一氏

 

 大野氏は、科学の歴史を「古典科学」「現代科学への移行(19世紀末~20世紀前半)」「微細粒子(放射線)の性質」「現代科学(21世紀~:素粒子の起源や宇宙進化の解明)」に分け、学校の理科では主に古典科学だけが教えられると指摘。これでは日々のニュースから伝わる現代科学のトピックに親しめないと続けた。

 生徒にとって難しいことが多くても、科学がどのように物事を理解してきたかを伝え、科学を本質的に理解できるようになれば、現代科学にも親しめるようになると、会場の教育関係者に熱く語っていた。

 

■自信をもって放射線を教えられる先生を育てたい

 東京学芸大学の鎌田正裕氏(教授)も壇上に立ち、北海道教育大学(H)、愛知教育大学(A)、東京学芸大学(T)、大阪教育大学(O)が連携した「HATO放射線教育プロジェクト」を紹介した。(過去に関連記事を“らでぃ”の「実践紹介、教員向け研修会」欄に掲載している。https://www.radi-edu.jp/2017/11/08/4402 「理科教員が備えたい放射線リテラシーを身に付けるワークショップ」(HATO放射線教育プロジェクト主催、平成29年10月1日実施)

 

    鎌田 正裕氏

 

 鎌田氏は教員養成課程の学生が放射線について学ぶ新たな仕組みをつくり上げ、今後は幅を広げて「リスク教育」につなげていきたいと抱負を語った。また、戦後の学習指導要領の変遷において、放射線がどのように教えられてきたかも解説。現代の教育では、放射線を簡易に測定できる機器がいろいろとあり、これを活用することが重要だと語った。

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