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理科教員が備えたい放射線リテラシーを身に付けるワークショップ(HATO放射線教育プロジェクト主催)

 

 平成29年10月1日、放射線教育に関わるワークショップが、東京都千代田区にある一橋講堂(学術総合センター2F)で開催された。集まったのは、中学校の理科教諭など、放射線教育に関心を持つ人たち。放射線照射された食品の実物を見ながら保存技術を学ぶ実習や、温泉水に含まれる放射性核種の半減期を調べる実験など、新たに開発した授業を紹介し、放射線のリテラシーを高めていた。

 

■放射線教育を実践できる教員を育てる授業を開発

 この日のワークショップは、大規模教員養成系単科大学である北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学の4つの大学が、文部科学省国立大学改革強化推進補助金事業として取り組む「HATO(ハト)プロジェクト」の一環で開催された。「HATO」とは、四大学の頭文字を取ったもの。プロジェクトの目的は、教員養成教育が共通して抱える諸課題を協働で解決できる体制を整備するとともに、全国の教員養成系大学・学部とのネットワーク化を図り、日本における教員養成の高度化支援システムを構築することにある。複数のプロジェクトが並行して進んでおり、そのうちの一つ「放射線教育プロジェクト」が今回のワークショップを主催した。

 冒頭、プロジェクトの責任者である鎌田正裕教授(東京学芸大学基礎自然科学講座)が「放射線教育プロジェクトの6年間とこれからの放射線教育について」と題して講演し、これまでの取り組みと展望について語った。また、副責任者の平田昭雄講師が、次期学習指導要領における放射線教育の位置づけについて解説した。

 

■HATOプロジェクトで開発された数々のワークショップを実施

 次に、4つの会場を使って7種のワークショップが開かれた。中でも、多くの参加者を集めていたのが食品の放射線照射を学ぶものだった。日本では、じゃがいもの発芽を防止するために150 Gyのガンマ線を照射することが認められており、実際に商品として売られている。このワークショップでは、照射したものとそうでないものの両方が用意され、参加者は興味深そうにその違いを観察していた。また、現在の食品保存にはさまざまな技術があり、どのような利点と問題があるのか、実物を示しながら解説していた。

 別の会場では、参加者たちが温泉水(放射能泉)を用いた放射化学実験に取り組んでいた。増富ラジウム温泉の温泉水を用いて放射性核種を活性炭などに吸着させ、それを測定して半減期を調べたり、霧箱で放射線の飛跡を確認していた。

 そのほか放射線検出器の原理や構造を学んだ後に、エマルジョン(原子核乾板)で放射線を観察するワークショップや、HATOプロジェクトで制作した授業パッケージやビデオクリップを用いた金属イオン捕集の講義、本物の岩石資料や鉱物標本を用いた放射線量を測定するデモンストレーションなども開かれていた。

 これらの実習は、HATOプロジェクトに参画する4つの大学の学生向けに毎年実施されている。鎌田教授によれば、ほとんどの学生が「将来役立つ」「授業や実験で使いたい教材やスライドがあった」などとアンケートで回答するという。

 

 

 放射線が照射されたじゃがいもに触れながら食品保存技術の利点と問題点を学ぶ実習。

 

■築いた人的ネットワークを発展させたい

 このプロジェクトが立ち上がった背景には、平成20年の中学校学習指導要領の改訂で理科に「放射線の性質と利用」が加わったことがある。この改訂に対して、鎌田教授ら4大学のメンバーはHATOプロジェクトの中で、放射線教育を実践できる教員の養成を目指して、「放射線教育プロジェクト」を平成24年に立ち上げ、学部生向けの放射線教育の講義・実習「放射線教育Ⅰ」「放射線教育Ⅱ」開発を決めた。

 この「放射線教育Ⅰ」は、中等理科における放射線教育の授業を設計し実践する上で基礎となる関連諸科学および科学技術に関する専門的知見の習得を意図した内容。「放射線教育Ⅱ」は、実際に授業を設計して検討し、最終的に附属学校での実践を通してその妥当性を検証するという内容。平成25年度から教材・カリキュラム作りに着手した。

 平成26年度からは東京学芸大学で開講し、翌年度以降は「放射線教育Ⅰ」の授業のうち、実験実習を「四大学連携合同集中授業」の形で実施するようになった。四大学の力を合わせて、放射線教育に強い中等教育の教員を育成するための一つの形を作り上げた。

 鎌田教授は、これまでの5年以上にわたる取り組みを振り返り、「最初はどちらの方向に行くのかわからないところもありましたが、『四大学連携合同授業』を一つの柱としてきちんとした形ができました。学生たちのアンケートを見ても、満足度はとても高いようです」と、一定の成果は出たという認識を示した。

 今後は、教員研修への展開や制作した実習用ビデオコンテンツや授業パッケージの広範な活用を図るほか、「このプロジェクトを通して学内外の多くの人たちとネットワークを築けたことも大きな収穫で、今後はこの人的ネットワークを何らかの形で生かしたい。学会に発展できればいいですね。より完成度の高い放射線教育をこれからも突き詰めていきます」と抱負を語った。

 

プロジェクトの責任者 鎌田正裕教授(東京学芸大学基礎自然科学講座)

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