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防災教育とともに考える放射線教育(福島県教育委員会主催フォーラム)下

 

専門家、関係機関が集い協力

=学びに格差、県外への発信に期待=

 

 丸1日かけて実施した「放射線・防災教育フォーラム」には、さまざまな専門家や団体が応援した。昼休みには福島県環境創造センター(コミュタン福島)の会場で、子どもたちが展示や実験を楽しんだ。これだけ力が注がれている福島県の放射線教育は、今後、県外の放射線教育にどのように広がっていくか、その行方が期待される。

 

■体験・展示やシンポジウムも

会場のロビーで

 

 コミュタン福島の会場では、昼食後に、子どもたちが好奇心に応じて、放射線の理解ができるように見学時間が設けられた。ロビーなどで放射線医学総合研究所、環境再生プラザなど12団体がブースを設け、担当者が子どもたちに説明をしていた。

 午後には、三人の大学教授によるシンポジウム「これからの放射線教育・防災教育について」が開かれた。壇上に立ったのは、東京大学の飯本武志教授(放射線計測)、東北大学の佐藤健教授(災害科学)、滋賀大学の藤岡達也教授(防災教育)。放射線や防災に関わる自身の研究や取り組みについて説明しながら、午前中の子どもたちの発表で寄せられた子どもたちのさまざまな疑問について、専門家の立場から分かりやすく答えた。

 子どもたちの質問には、例えば「どうして水で放射線を防げるの?」とか「内部被ばくしないようにするにはどうすればいいのですか?」などの科学的な質問のほか、「放射線の人体影響は何年後に出ますか?」という医学的な質問や、「放射線の利用は未来にもあった方が良いのでしょうか?」という社会的な質問もあった。

 

■子どもの「素晴らしい質問」

3人の大学教授が子どもの質問に答えた

 

 難しい質問にも3人は積極的に答えていた。中でも飯本教授が「これはとても素晴らしい質問」と評したのは、「福島のお米は検査をされていますが、人によっては危ないから検査しているんだと言う人がいます。どう思われますか?」というものだった。

 この質問に対して藤岡教授は「いくら『これは安全です』と答えても、数字やデータがないと、それが正しいかどうか分かりません。科学的な証拠が必要です。安全だと皆さんに納得いただくためには、安全だと分かっていても検査する必要があって、きちんと納得されるまで証拠を出し続けることが重要なんです」と回答した。

 もう一人の佐藤教授は「これは私の研究で扱うようなテーマです。私が所属する東北大学災害科学国際研究所では、心理学の研究者もいて、工学系の研究者と一緒になってこのようなリスクコミュニケーションの問題について考えています。ぜひ大きくなったら私たちの研究所に来てください」と、この疑問を持ち続ける大切さを伝えていた。

 このフォーラムを企画した福島県教育庁の國井博先生(義務教育課指導主事)は、参加した子どもたちの言葉が「力強かった」とうれしそうだ。

 「子どもたちが自分の言葉で議論しながら互いに学び合い、自分の考えを見つめ直していく姿を、多くの方々に発信したいという思いから、このフォーラムを企画しました。苦労もありましたが、実際にやってみて、子どもの思い、子どもの考え、それを表現する工夫など、さまざまな子どもたちの素晴らしさを見ることができました」と振り返った。

 

■福島モデルを全国に広げてほしい

 フォーラムで扱った放射線教育や防災教育は、福島県のモデル事業として展開しているが、國井先生は「この取り組みは全国でもできます」と期待する。

國井 博先生

 

「どの地域でも災害は起きますし、放射線は世界の各地にあります。東日本大震災などをきっかけにして、自分の地域を見つめ直す取り組みをし、新たな未来を切り拓いていく。そんな教育を全国の先生方にしていただければありがたいです。私は、防災教育と放射線教育を一緒にやって良かったと思っています。さらに人権や道徳など、さまざまなものと関連させることで、より豊かな教育ができるということもわかりました」と感想を語った。

 日ごろは青森のテレビ局で仕事をしている、この日の司会役池田麻美さんにフォーラムを振り返ってもらい、感想を聞いた。

 「県外にいると、放射線の問題にかかわることが本当に少なくて、福島の人たちと一緒に考え、肌でどういうことを感じているかを知る、こういう機会があるのを待っていたくらいです。やはり想像していたように福島の人たちの知識は増えているのですが、その一方で、県外の人たちの知識のレベルとの格差が広がっているように思います。きょう小中学生が学んだことより知らない人が多いと思います。今後は、このようなフォーラムを福島にとどまらず、県外でも開いて伝える機会が増えればと願っています」

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