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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例34:福島県会津若松市立行仁小学校(2017.09)

 

 福島県の会津若松市立行仁(ぎょうにん)小学校は、もともと力を入れている道徳教育と連携させた放射線教育に挑んでいる。前年度に続き、今年度(2017年)も9月15日、放射線教育担当の先生が被災地から避難している児童の立場を思いやったテーマで4年生の道徳授業を展開した。

 

■会津若松市立行仁小学校

 JR会津若松駅から約2km、若松城跡に近い住宅街に位置する。明治17年から在学した会津松平家の第12代当主(松平容保の七男)の松平容男子爵 が、「徳を以て仁を行う」という孟子の言葉から「行仁」(ぎょうにん)と命名した歴史のある学校。福島第一原子力発電所事故の影響による放射線量は比較的低かった。(2017年9月12日現在、0.076μ㏜/h)。

 放射線教育の実践協力校に指定された2016年度は、放射線教育を取り入れた道徳の授業を実施。避難児童が県外の児童から「うつるから、さわんなよ」と言われたというストーリーを素材にした授業は、国内各地で起きている「いじめ問題」の対策にも示唆を与えた。2017年度も引き続き、道徳との関連での放射線教育に取り組む。

 

 

■校訓に基づく「思いやりの気持ち」が基本に

行仁小学校 神田順一校長

 神田順一校長先生に、学校での放射線教育への取り組みと考え方をお聞きしました。

 「本校は、放射線教育を学活の時間だけでなく、各教科や全学年のさまざまな機会で取り扱うようにしています。自分の言葉で福島県の現状をきちんと伝えられる力を養う基礎を小学生の段階で作りたいと考えているからです。また、本校の校訓は、『徳を以て仁を行う』で、思いやりの気持ちを持って良いことを率先してやろうという教えが教育のベースにあり、折に触れて指導しています。いま取り組んでいる道徳と放射線教育を結びつける試みも、この校訓につながっています。人権・福祉教育を重点にする4年生の道徳で放射線教育の授業を行い、放射線について幅広く考える力を育てたいと思っています。それで、この授業を校内だけでなく、いろいろな方に見ていただきたいと、今回も公開授業としました。」

 

■「おまえの弁当、毒入りじゃないの?」と言われて

 今回、行ったのは4年2組(男子12人・女子12人)の道徳の授業で、テーマは「わたしたちの生活向上プロジェクト」。学習指導要領では、〔第3学年及び第4学年〕の「主として他の人とのかかわりに関すること」の「相手のことを思いやり、進んで親切にする 」にあたる。

 指導する担任の二瓶純子先生は、「なにげない言葉」と題した読み物の自作資料を用意していた。内容は、福島第一原子力発電所の事故で会津若松市内の体育館に家族とともに避難してきた小学2年生の男子児童が、転校先の学校で「なにげない言葉」を掛けられ、深く傷ついてしまうという実話に基づいた話である。

 授業の最初に、二瓶先生はパソコンを操作しスクリーンに東日本大震災で起きた津波や福島第一原子力発電所の事故の映像を流し、これまでの学習を振り返った。避難所の体育館で過ごす人々の姿も映し出され、先生は「ここにはお風呂も台所もなかったんですよ。今日の話は、このような避難所から小学校に通っていた子の話です」と言って自作の資料を子どもたちに配付、それを朗読した。

 

 

 あるとき、お弁当を学校に持参する日があり、心配になった男の子「かず君」(仮名)。台所のない避難所で料理ができない母親は、なんとかお弁当を用意しようと、お弁当箱を購入して、それにコンビニの弁当を詰め直してあげた。「これなら買ってきたお弁当に見えないでしょ。かず君の好きなのり弁当だよ」と。男の子は喜んでのり弁当を学校に持っていった。ところが、楽しみにしていたお昼の時間に、友達から「あれ?おまえのお弁当、真っ黒だな。もしかして毒入りじゃないの?」と言われ、男の子は泣きながら避難所の体育館に帰った。

 

■主人公の心情への共感をつちかう

 この話を聞いた児童の一人が「本当にあった話ですか?」と尋ねると、「そう、本当にあった話です」と二瓶先生。子どもたちは、なにげない言葉「毒入りじゃないの」と言われたときの主人公の心情に共感していく。「こんなことを言われたらどう思う?」という先生の問いかけに、「せっかくお母さんが買ってきてくれたのにひどい」「悲しい」という発言が相次いだ。さらに「お母さんは、どう思ったのかな?」と投げかけると、子どもたちは「いやな気持ちになる」「やっぱり悲しい」と次々に答えていた。

 

 二瓶先生は、話し合いの中で、4年になって学んだ放射線の知識や風評被害のことを振り返った。先生が「福島で作っている桃は大丈夫?」と聞くと、子どもたちは「大丈夫!」と答えた。さらに「どうしてそう言えるの?」と問いかけると、「検査しているから安全」と一斉に答えた。

 「では、みんながこの主人公の周りにいたらどうする?」と問いかけると、子どもたちはグループで話し合ったうえ、主人公に掛けたい思いやりのある言葉として「おいしそうだね」「大丈夫と言って落ち着かせる」「気にしなくてもいいよ」などと発表。また、思いやりのある行動として「声を掛けてあげる」「一緒に下校して話を聞いてあげる」などと意見を述べた。

 最後に、二瓶先生は避難してきた人たちに対して会津の人たちはおにぎりを差し入れたことなどを話し、私たちの日々の生活が人々の心の支え合いで成り立っていることを教えた。

 

■「気持ち」と「知識」、両方の積み重ね

 今回の授業のねらいについて、二瓶先生は授業後の研究会で見学者に対して説明。「児童が自分たちの生活を向上させていくために、福島県が置かれている状況や放射線などを正しく理解し、風評被害やいじめについて、どのように考え、判断し、行動すれば良いかを話し合うことで、誰に対しても思いやりの心を持ち、相手の立場に立って親切にしようとする態度を養うことにあった」と話した。

 放射線教育を道徳に取り入れるにあたっては、子どもたちがこの道徳の授業で学んだことを日常の生活に生かせることが大事だと考えたほか、意図しなくても人の心を傷つけてしまうことに気付くことから始まり、「思いやり」に着地していく授業の流れを考えた、ということだった。

 二瓶先生は、放射線の基礎的な知識の大切さも実感したと振り返る。「この授業の前に、総合的な学習の時間や学活などで、放射線の正しい知識を学んでおいたからこそ、この道徳の授業ができたと思います」と二瓶先生。自身も担当になることで、放射線について勉強し直して、児童と一緒に深く学んでいったという。「正しい知識があるから『大丈夫だよ』とか『毒入りと言うのは間違っている』と判断できるし、共感もできるし、行動も起こせるんですね」と力を込めて話した。

 神田校長も「放射線については、科学的な知識を学習するだけではなくて、気持ちに関わることを学ぶ必要もあると考えています。これからは、この気持ちの部分の方が大きいとも思っていて、今回のような道徳の授業はとても大事だと考えています。発達段階に応じて、気持ちの面と知識の面の両方を積み重ねていきたいと考えています」と双方の統合した学びの大切さを強調した。

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