教員向け研修会

ホーム > 実践紹介 > 教員向け研修会

教員向け研修会

平成29年度放射線教育フォーラム第1回勉強会(NPO法人放射線教育フォーラム主催)

 

教材開発の実践者が「これから」を語る

=平成29年度放射線教育放射線教育フォーラムで=

 

 放射線の教育のあり方を提案しているNPO法人「放射線教育フォーラム」の発表会が2017年6月3日、東京都港区の東京慈恵医科大学 高木2号館南講堂で開催された。放射線教育を全国で実践したり、現場が求める教材を独自に制作したりするなど、多くの経験を持つ4人の実践者が登壇し、その取り組んできた事例を報告し合った。

 

■教科横断的に風評被害やいじめの問題にも対応を

 最初に発表したのは、高等学校の元教員で放射線教育フォーラムの教育課程検討委員会の委員長を務める黒杭(くろくい)清治氏。同委員会での約20年間の活動を振り返り、今後の抱負を語った。

 

 黒杭清治氏

 1998年に設立された委員会での活動は大きく三つあったとのこと。一つ目は、『児童・生徒の放射線リテラシー育成のための指導支援資料集』の制作。二つ目は、教科書の中の放射線に関わる記述の検討。三つ目は、パワーポイントで制作したスライド教材の制作。そして、学習指導要領に放射線教育を盛り込む活動も積極的に展開してきた。

 2011年3月、東日本大震災による原子力発電所の事故が起き、制作した教材については、見直す必要が生じて改訂を進めている。また、原子力発電所事故で生じた放射線対する悪いイメージから起きる風評被害やいじめについても考えていく姿勢を見せた。

黒杭氏は「この問題に取り組むには、理科以外の教科でも放射線教育を考える必要がある。文部科学省も、次の学習指導要領の総則で災害などを乗り越えて次代の社会を形成するための資質や能力を育むために教科横断的に取り組むという旨を書いている。この委員会では、この総則に表れているような時代背景を踏まえて、活動を続けていきたい」と語った。

 

■放射線を“素直に”理解してもらう教育を実践

 次に登壇したのは東北大学名誉教授の工藤博司氏。「放射線教育から学んだこと――東北放射線科学センターでの経験――」という題目で、12年にわたる出前授業の経験から得た、放射線教育の眼目を伝えた。子どもから大人まで、延べ2万人に教えてきたという。その中には、学校の先生や福島県内の被災者も含まれるとのこと。

 

 工藤博司氏

 工藤氏は、小学生に教えるときには「放射線になじんでもらう」ように授業を進めるという。一人一人に「放射線 なるほど なっとく ハンドブック」という冊子と、放射線の飛跡を見られる霧箱を配布して、対話をするように説明していくとのこと。中学生以上の場合は、ケースの中に入れた昆布や米から出て来る放射線を測定するなどして、放射線が身近なものであるとことを実感させる。「原子力発電所がなければ放射線はないと誤解している人が多い。だから、放射線は特別なものではないということを何度も伝える。初めは分かってくれないが、自然界にも存在することを自ら測って実感できれば、最後は理解してくれる。大事なのは、その正体と働きを知って、正しく怖がること。これを教えていく」

 理科の授業のように教え。決してエネルギー教育と混同させない。その方が、放射線を「素直に」理解してもらえると、工藤氏は主張する。「福島県の仮設住宅で開く基礎講座のときも、そう教える。すると、『もっと知りたい』と多くの質問が出て来る。周期表もあえて出しますが、興味を持ってもらえる。その上で、福島県で教えるときは、人体への影響もていねいに説明するようにしている」と報告した。

 

■簡易放射線測定器「はかるくん」がなくなった今

 3番目の講演者は日本科学技術振興財団人財育成部主査の掛布智久氏。放射線教育支援サイト“らでぃ”と今後の展望について語った。

 

 掛布智久氏

 「らでぃ」は、学習指導要領に「放射線」が扱われることが決まったことを受けて、2010年に立ち上がったサイト。掛布氏は放射線教育の水先案内の役割を担うべく、福島県をはじめ全国の学校で実践される放射線教育の実例を紹介。また、授業でそのまま使える画像や動画の資料も独自に制作して掲載し、内容を一つ一つ積み上げるように充実させてきた。

 「らでぃ」のホームページの運営のほかにも、惜しまれながら貸し出しが終わった「はかるくん」の代わりとなる新型測定器や、あえて感度の性能は約1/3に落としながらも価格も同程度に抑えた低コストの測定器も開発。「学校の先生方から、測定結果の表示の仕方についてさまざまな要望を受ける。そこで、パソコンと連動させて多くのニーズに応えられる表示方法にした」と掛布氏。教材や実験の道具を開発するときは、参加者の体験に重点を置いているという。

 

■教育現場で実際に使える実験道具の開発を急ぐ

 最後に壇上に立った大阪府立大学放射線研究センター准教授の秋吉優史氏は、「現場に届く放射線教育コンテンツ支援プロジェクト」と題して、これまでに取り組んだ放射線教育コンテンツ開発の経験を披露した。

 

 秋吉優史氏

 開発のコンセプトは、誰でも確実に、時間も費用もかけずに実施でき、かつ教育内容に富んだコンテンツを作ること。特に力を入れているのは、悪天候の日でも確実に観察できる、安価な霧箱の開発。ドライアイスが不要なペルチェ冷却式を採用し、改良を重ねた結果、今では電源を入れて10秒程度で放射線の飛跡が見えるようになるという。

 このほか、小学生でも短時間で霧箱を制作できる格安の工作キットをはじめ、現場で実際に使える多数の教材を開発してきた。現在は、中学校の新しい学習指導要領に対応できるように、クルックス管と霧箱を組み合わせてX線を可視化する教材の開発を急いでいる。

 

■総合討論―制作した教材や道具をどのように生かしていくのか

 講演の後、4人の講演者がそろって登壇し、来場者も交えて討論が繰り広げられた。

 会場での討論

 黒杭氏が、膨大な画像資料と自作のアニメーションを用いて、東日本大震災での原子力発電所の事故の経緯を時系列に解説したスライド資料を制作し改訂もしているという話題を出すと、会場から「優れた資料を多くの人が制作しているが、いざ探すとなると見つけるまでに手間がかかる。共有できる良い方法を考えるべきではないか」という意見が出された。また、「教材を作った人には強い思いがあるはずで、何を学び取って欲しいのか、そこを前面に出して伝えて欲しい」という要望も出た。

 来場者の間で討論する場面も見られた。一人が「放射線の教育で困難さが伴うのは、学校で放射線を教えてこなかった30年の空白が影響しているからだろうか」と質問すると、会場にいた元教員が「その空白は大きいが、その責任は教育関係者だけでなく、放射線について詳しく知らせようとしなかった企業側や、その問題を追及できなかったマスコミにも責任がある」と発言。さらに、社会の中で放射線教育をどのように実践していくか、その意図と計画を考えて表明する重要性にも言及した。

Copyright © 2013-2017 公益財団法人日本科学技術振興財団