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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例32:福島県伊達郡川俣町立川俣小学校

 

 2016年11月15日(火)、福島県伊達郡川俣町立川俣小学校は、4年生には社会科の時間において、6年生には家庭科の時間において、それぞれ放射線教育に関連させた公開授業を行った。

 

■川俣小学校

 阿武隈高地北部の丘陵地域に位置する川俣町は、昔から養蚕業・絹織物業が盛んで繁栄期には鉄道が通り、山間の小工業都市として賑わう歴史ある町である。川俣小学校は町の中心街に近い、創立144年の伝統校。2016年11月現在、児童数199人(10学級)。東日本大震災で町内でも放射線量が高かった山木屋地区が避難区域に指定された(2017年3月で解除)。飯舘村や南相馬市から避難してきた児童が7名在籍している。

 

■生きるうえでの「必須の知識」

川俣小学校 佐藤陽一校長

 

 2011年3月の震災当時は、福島市のこどもの夢を育む教育文化複合施設の「こむこむ」で仕事をしていました。原子力発電所の事故後は、この施設で放射線に関するさまざまなデータを発行したり、基礎的な知識を説明したりしていました。当時、多くの人が放射線をウイルスと混同して、福島県から来た車を見て「出て行け」と言われたこともあったので、放射線は人にうつらないといった基礎的なことを説明していたのです。

 「こむこむ」で年配のボランティアさんに、私がいくら科学的、客観的にお話しても放射線について感情的になってしまい、どうしても恐怖心を拭い去ることができないことがありました。やはりこれからの子供たちには、きっちりと教えて、理解してもらい、それも自分で理解するだけでなく、人にも説明できるようにしていかないといけないと思っています。

 この川俣小学校の周辺では、現在(2016年11月)も除染作業をしています。山木屋地区はまだ避難中ですし、袋詰めされた(廃土)もまだ放置されたりしますし、ほんとに切実な思いです。

 校長室の横に設置されているリアルタイム線量計が何をしているのか、高学年の子どもは分かっていますが、低学年は分かっていないです。震災から5年経つと、1年生では1、2歳の頃の体験ですから記憶がないのかもしれません。これから震災を知らない子が入学してきますから、いろいろと考えないといけないと思っています。

 廃炉まで50年間は掛かるとのことで、除染したから終わりでは決してなく、我々はこれから何十年も放射線と付き合っていくことになる。そうしたなかで福島県民として生きていくには必須の知識というかリテラシーだと思います。また福島県の人が県外に出ていくと、やはり福島県出身ということで、理解のない方に心ないことを言われる機会もないとは言えなません。誰に何を言われてもきちんと説明できて言い返せる力が必要だと思います。福島県の人間として堂々と生きていける子供たちになってもらいたいです。

 

 ■身近な献立、食材選びから考える

小学6年生:家庭科

指導者:宍戸 宏先生

 

 公開授業のうち6年生の対しては、家庭科の「身近な食品でおかずを作ろう」が題材。身近で安全・安心な食品を使って、栄養バランスの良い1食分の献立を考える授業を行った。

 いきなり放射線のことを伝えるのではなく、料理に使う食材の選び方を考える際にポイントとなる「新鮮さ」や「安全性」などの中で触れたのが特徴だ。

  献立の参考にしたのは、子どもたちに身近な給食だった。主食、主菜、副菜、汁物などのバランスの良い組み合わせのほか、食べる人のことを考えること、いろいろな食品を入れること、そして安全・安心な食事を考えることに注目させた。知っている料理、経験のある調理を振り返り、同じ料理でも別の食材を使ったり、調理の仕方、味つけを変えたりすることでアレンジできることを学んだ。

 子どもたちは、教科書に載っている料理や知っている料理で、自分で調理ができる献立を作成。使う食品を3つの食品グループ(エネルギーのもと、体をつくるもと、体の調子を整えるもと)の中のどれに分けられるか確認し、栄養バランスが取れるように献立を考えた。

 

 

 

 実際に調理に使う食材の選び方で大事なのは、新鮮さ、安全性、金額、季節(旬)であることを宍戸先生は教えた。特に産地では放射線の影響が心配されるが、食材は店や市場に出ているものは放射線検査を受けていていること。家庭菜園などで収穫し、市場には出てない食材については、公民館なども身近な場所で自ら検査に出せることを伝えた。

 子どもの中には、採れた栗の放射線検査を自分で経験した子もいて、「基準値以下だったので安心できた」と周りに話していた。宍戸先生は「値段や質、消費期限もあるけれど、産地で売られているもので放射線に関しては大丈夫。売っていないのは自分で検査に出してから食べれば安心できるよね」と念押しした。

 

■農産業の回復への取り組みを調べる

小学4年生:社会科

指導者:菅野 知美先生

 

 4年生の社会科では「わたしたちの県 県の広がり」の単元で、放射線教育に関連させた。東日本大震災以降、県内の産業が落ち込んだものの、回復の兆しにあるのはどうしてなのか、資料をもとに考えることができることを目指した。

 

 

 

 授業では、2011年3月の東日本大震災で、地震や津波被害のほか原発からの放射能漏れ事故が発生。避難生活やそれによる風評問題など、さまざまな被害があった。菅野先生は、この影響によって県内の農林水産業の算出額のグラフに変動があったことに触れた。

 グラフを見ると、震災以降落ち込んだ産出額が少しずつ回復してきている。それはなぜかを考えようと、県内の主な産物の5つ(米、桃、魚、シイタケ、トマト)を取り上げ、現在の状況とこれまでの取り組みについて、子どもたちはグループごとに調べた。先生が用意した資料から大事だと思う情報を選び、その内容をホワイトボード記載した。

 

 

 

 米を調べたグループからは、放射性物質が付着している表層の土と汚染されていない下層の土をひっくり返して入れ替える「反転耕」を行ったほか米の全量検査が行われていると報告。桃のグループは、2011年から除染作業がされ、出荷前には定期的な自主検査が行われていることを紹介した。シイタケのグループは1パック10円でも売れなかったことや放射性物質を吸収しやすい性質を伝えた。魚のグループは他県産のものが流通していることなどを発表した。菅野先生は、反転耕や食品検査、果樹の除染についての説明には分かりやすいイラストも用いた。

 

 

 このほか他県の人の福島県に対するイメージも紹介され、いまだに根強い風評などがあることにも触れた。そうした中でも、福島を応援する動きや取り組みや、さまざまな被害にも福島の県民が負けずに頑張っていることも紹介して授業を終えた。

 

 ■放射線教育の留意点

 2つの公開授業を終えたあと、福島県で放射線教育を進めているリーダー役の2人の先生から、放射線教育の留意点やこれからの放射線教育の在り方についての講演があった。

 

富岡町立富岡第一中学校 校長

阿部洋己校長先生

 

 福島県教育委員会がまとめた指導資料にも載っていますが、放射線教育に課せられた課題を解決するには大きな3つのカテゴリーをしっかりと抑える必要があると思います。

 まずは、放射線などについての知識理解です。科学的な理解がない所で考えると、イメージでとらえてしまい、自分の勝手な想像で話を進めていくことになり、物事が先に進まないし解決できません。

 二つ目は、自分が放射線などから身を守る実践力です。どうやって自分自身の身を守ったらいいのか。これは当然食品などをどう選ぶか、線量の高い場所があればそこに対して自分がどのように距離を置いていったらよいか、どうやって速やかに離れていったらよいか、その辺の感覚だと思います。

 三つ目は、心の問題です。道徳とか人権教育も入ってきます。

 以上のように、知識だけ教えれば良いわけでもなく、一方、知識がないのに身の守り方や道徳教育を進めても、片手落ちになる(言い換え→完全でない)と思っております。

 

 指導資料に放射線教育をしっかり進めるうえでの留意点を以下のように挙げました。

    ①  放射線は自然にもあって身近なものである。

    ②  放射線は医療などにも利用されている。

    ③  放射線は量が多いと危険である。

    ④  災害時には身を守るための対処法を考える。

 

 つまり、自然放射線が元々あることを理解していないとだめなのです。それから利活用として、日常的には医療で使われている放射線、レントゲン撮影にも使うし、治療にも用いられます。放射線を上手に使うことによって、私たちの命を延ばせるかもしれませんが、放射線を誤解してしまうことで、その可能性を生かせない人が出てしまっては不幸です。

 ただ、抱き合わせで必ずやらなければいけないのが、多量に一度に浴びてしまったときには危険だということ。つまり利活用もできる、だけども危険な場合もあるってことをしっかりと踏まえることが大事だということです。

 

■復興や希望につなげる放射線教育

福島県教育庁義務教育課 指導主事

國井博先生

 

 横浜市で福島から自主避難していた子供がいじめにあったというニュースがありましたが、これからの福島県の課題の一つとして、放射線教育を絡めながらの人権道徳教育はこれまで以上に重要課題になってきます。また、各専門機関で連携してくださる県外の方も、日本全体で放射線教育が必要だと指摘しています。例えば、浜通りの人も会津地方の人も、茨城県の人から見たら、同じ「福島県民」。その茨城県の人も日本全国からすれば「福島の隣の県」なのです。世界から見れば福島とか関係なく同じ「日本人」と見られるわけです。だから放射線教育は福島だけやればよいというわけではないのです。

 県外や海外からの注目はこれからどんどん増えます。県教育委員会だけでなく、おそらく福島県で働く先生方にも、「福島の今はどうなんですか?」と聞かれるようになると思います。

 私見ではありますが、廃炉までには50年はかかると覚悟しないといけない。そのためにもこれからの復興を担う子供たちの新たな夢や希望の実現のために放射線教育の実践の継続が必要です。放射線教育はマイナスイメージに思われがちですが、そうではなくて、子供の夢や希望を持つための放射線教育でなくてはいけない。これは人材育成にもつながっていくもので、この学習をすることによって、「じゃあ、僕は復興のために役立つ人間になりたい」という子どもが出てくる、そういった授業の展開が大事になっていくし、続けていくことが大事だと思います。

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