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放射線教育授業実践事例28 : 福島県会津若松市立行仁小学校

 

 2016年10月31日(月)、福島県会津若松市立行仁小学校は、放射線教育の公開授業研究会として、4年生への道徳授業「風評被害や心ない言葉」を行った。福島県からの避難児童・生徒へのいじめが全国的に問題になっている折、示唆を与える研究会となった。

 

会津若松市立行仁小学校

 JR会津若松駅から約2km、若松城跡に近い住宅街に位置する。明治17年から在学した会津松平家の第12代当主(松平容保の七男)の松平容男子爵 が、「徳を以て仁を行う」という孟子の言葉から「行仁」(ぎょうにん)と命名した歴史のある学校だ。東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質の飛散による直接的な被害はあまり多くなかったが、県内から避難してきた家族の児童も少なくない。2016年度から、放射線教育の実践協力校に指定された。

 

■福島県出身者が自分の言葉でしっかり説明できるように

行仁小学校 校長 神田順一氏

 2016年度に放射線教育の実践協力校になったことをきっかけに、既に取り組んでいた各教科に加え、道徳、総合的な学習時間などで放射線に関する学習をどう充実させるか、検討し始めたところです。今回公開授業を行う4年生は、大震災や原発事故の発生時、幼稚園の年小から年中に丁度変わろうとする時期、地震や事故の記憶もほとんどありません。6年生でも当時小学校入学前で覚えていたり、いなかったりする状態です。

 私自身も県外に行った際に、いまの福島を知ってもらい、風評被害を払拭することは大変なことだと実感しています。将来、子供たちは、進学や就職などで福島県を離れることもあり、その時に否応なしに、福島県出身であることで、様々な思いをするでしょう。その時に、自分の言葉でしっかりと説明できるような知識とか情報を伝えなくてはと感じています。今日の道徳の授業もそのような考えに基づき実践したところです。

(写真)授業風景。左は室井美穂先生

 

■「うつるから、さわんなよ」と言われて……

 公開授業は、4年1組(31人)の道徳の時間。「風評被害や心ない言葉」をテーマに担任の室井美穂先生が指導した。「相手の身になって人を思いやり、進んで親切にしようとする態度を育てる」ことがねらいの授業である。

 室井先生は、まず、「あの地震で何があったでしょうか」と児童に問いかける。5年前に原子力発電所の事故で放射性物質が飛び散ったこと、たくさんの人が避難したことなど、これまでに勉強してきたことを振り返った。そのあと、ある「手紙」を紹介した。

 震災後、外での運動が禁止されて休みが続いたサッカーの練習が再開され、県外の学校と試合ができることにうれしい思いで臨む選手。だが、その選手は会場で県外の選手から「お前たち、福島だろ。放射能がうつるからさわんなよ」と言われてしまう。「ぼくは、頭の中が真っ白になってしまった。これまでのうきうきした気持ちは消え、試合に勝っても気持ちは晴れないままだった」。こう綴った手紙である。

(写真)授業風景 子供同士で考えたことを発表

 

■「他県の人に、ちゃんと教えてあげれば」と児童

 室井先生は、そう言われた時の「ぼく」の思いや、選手が心ない言葉を告げてしまった原因、さらに言われたのがもし自分であったらばどうするか、教室の児童に考えさせた。

 児童たちは、「うつるわけないじゃん」「ちゃんと避難もしているし、検査とかもされている」こと、そして、告げてしまった人に対しては「放射線について解っていないと思う」と自分の考えを答えた。

 そこで、自分がもしその場に立ち会ったとしたら、どの様な行動をとるか。思いやりのある行動について考え、話し合いをさせると、児童は「もし放射線がうつるっていうなら、先生とか大人の人に聞いた話の根拠を示す」「教えてくれた人に聞いてごらんと言う」「ちゃんと教えてあげたほうがいい」などと発言。他県の子は、放射線とか放射能とか正しく理解しているわけではなく、知らないから心配や不安を持ってしまうのではないかと話し合われた。

 最後に主人公に宛てて手紙を作成。ここでも児童は「放射線はうつったりしないよって、教えてあげられたらいい」「相手チームの人、きっと他の県だから放射能がどんなのか解っていないんじゃない」などと記していた。室井先生は「自分が福島県の出身だから尋ねられたり、聞かれたりすることがあるかもしれない。その時は、今日の勉強を思い出して考えて行動してもらいたい」と締めくくった。

 

■正しい情報選択と自信をもって伝える学びを

前香川大学総合生命科学研究センター・放射性同位元素実験部門教務職員

放射線安全管理功労表彰受賞(文部科学大臣賞)者

須田博文氏

(写真)講演をする須田博文氏

 

 公開授業のあとに講演した前香川大学教務職員の須田博文氏も風評被害の防止について触れ、「子供たちは、たぶんテレビとか新聞は読まないでしょうから、お父さんやお母さん学校から受ける情報が非常に多いと思います。いろんな情報がありますが、その中で正しい情報を選択できるようになってほしい」と指摘。「福島の子供は将来、心ない言葉をかけられることがあるかもしれない。その時に自信をもって、『それはね…』と言えるように、きちんと放射線に向き合って勉強できるように。そういう授業の展開をしていただければよいと思っております」と、放射線教育の留意点を挙げた。

 福島県教育委員会がまとめた「放射線等に関する指導資料(第5版)」には、「正しい情報を基に、自ら正しい判断をし、行動できる力や自分の言葉で他者に説明をする力を育む」ことの必要性を記しているが、須田氏も同じ視点だった。

 

 

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