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放射線教育のコーディネーター養成で研修会 =福島県教委、被災5年の実践踏まえ指導= (福島県教育委員会主催)

 

福島県教育委員会は8月4日、県内の学校において放射線教育を進めていく上での指導的な役割を果たすコーディネーター養成研修会を三春町で開いた。各市町村の教育委員会の指導主事ら約70人が参加。県教育委員会が東日本震災後に独自に作成してきた『放射線等に関する指導資料』の最新版(第5版)を基に考え方を解説したほか、福島大学の山口克彦教授が各教科との関連について講話。日常生活から気づき、考え、判断する教育の重要性を伝えた。会場は、放射線を学ぶこともできる施設として7月21日にオープンしたばかりの福島県環境創造センター交流棟で、参加者は研修の最後に施設内を見学した。

 

■県独自の「指導資料」で重点を説明

國井博氏〔福島県教育庁義務教育課指導主事〕


 東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故で被災した福島県では、放射線教育の推進支援事業を展開しており、この日の研修も同支援事業の一環として開催した。放射線などの基礎的な知識について理解を深め、心身ともに健康で安全な生活を送るために、児童・生徒が自ら考え、判断し、行動をする力を育成することが支援事業の目的。つまり「中学生が卒業する際に、自分の言葉で放射線のことを伝えることができる子どもに育てたい」と主旨説明した。

 國井氏は、原発事故直後に教育現場で放射能、放射線などの知識を教育関係者でさえほとんど持たない状況で「大人でも知識がなければ、考えることも判断することもできなかった」として、県教育委員会が学校での指導の拠り所として独自に『放射線等に関する指導資料』を作成してきた経緯を説明。この5年間に改訂を重ねて平成28年3月に発行した第5版は、いわば指導資料の集大成という。


 内容は、事故の経過をはじめ、避難の状況、除染目標の考え方、放射線量の測定、健康、食の安全基準、放射線の基礎知識、指導用のワークシート、指導実践例のほか、新たに廃炉の計画、放射線教育の導入に使える学習教材のDVDの活用法、福島県環境創造センター交流棟の紹介などを盛り込んでいる。


 指導資料では、道徳や人権の教育からの解説ほか、防災や健康、エネルギーなど他の教育と関連させる考え方を打ち出している。学習指導案を例に國井氏は、小中学校の各学年とも保健、安全に関しての学級活動などで年2?3時間を目安に実施するほか、理科以外でも保健体育や家庭、特別活動、総合的な学習の時間などさまざまな教科で繰り返し触れることが必要だと説明した。


 26年度に制作したDVD教材は、「小学校低学年」「小学校中高学年」「中学校・高校用」の3種あり、全校に配布されたが、「いまでも放射線教育の指導の方法が分からないという先生にもいるので、活用してほしい」と薦めた。ただ、同じ福島県内でも放射線教育に対する姿勢に地域差があるのも事実。「震災のことを知らない子どもが小学校に入学してくる。福島に生まれ育った以上、放射線に触れない人生はない。福島に生きる人間として伝えていくのが教師の役目である」と全県内での持続的な教育の必要性を説いた。

 

■生活の中から考え、判断する力を

山口克彦氏〔福島大共生システム理工学類教授〕


 講話の演題は、「各教科等との関連を図った放射線教育の推進」について。文部科学省が全国的に始めていたタイミングとたまたま原発事故が重なり、被災地として放射線をどう教えるか課題を突きつけられ、まとめた集大成が第5版だとし、日常生活から気づき、考えていくことの重要性を強調した。


 「放射線教育は科学的な態度を育む一環だ」として、生活のなかで何を選択し、どう対応するか、数学的な背景を理解し、自分で決定するために放射線と向き合うことの大切さを指摘。目に見えない放射線に興味や関心を持たせるために、霧箱を使って知的好奇心を向けさせることや、モニタリングポストの放射線測定値など身近な所から意識づけをさせることが有効だとした。


 大切なこととして、放射線量などを自ら測定して一次情報を得ることを挙げた。続いて大人が地域社会で実施している除染や廃炉、食品チェックなどのさまざまな対策について知ること、また新聞などで報じられる記事や内容が分かる大人になるため、ベクレルやシーベルトなどの単位の知識、内部被ばく、外部被ばくについて理解することも必要だとした。


 放射線教育は理科、特に物理の知識が中心になりがちだが、科目の枠にとらわれない工夫や子どもの発達段階に応じた教育が求められるとした。例えば、学級活動や、食材に関係した家庭科や給食、保健体育、社会にも関連している。小学生段階では身の回りのことへの意識づけ、中学校では科学的な理解、さらに高校では原子レベルから環境レベルまで科学的な理解を広げて、半減期などの物理的な側面以外にも土壌などの地学、DNAへの影響などの生物への理解につながると解説した。

 福島第一原発の廃炉作業が今後30〜40年もかかる中で、未来に向けて放射線をどう扱うか、社会的なコンセンサスを担う県民の一人として安全を考える基盤になる教育だと締めくくった。

 

〔放射線教育実践協力校の発表①〕


■長期的な視点で小中連携の「仮キュラム」

西牧泰彦氏〔西郷村立羽太小学校校長〕

 「廃炉が終わるまで30〜40年間もかかる。あなたは今の自分の年齢に40を足した年まで生きて、廃炉を見届けることができますか? 今の子どもたちが、将来、大人になってその最後の作業を担うことになる。そのために子どもたちに放射線教育をしておかないといけないと思うのです」。放射線教育の実践協力校の西牧校長はこう問いかけた。

 子どもたちが将来にわたって健康で安全な生活ができ、福島県民として誇りと希望を持って生きていくための放射線教育を学校でどう進めるか。羽太小学校では、児童や保護者、教職員のアンケートを踏まえた課題や、同じ村で前年に実践協力校だった西郷第二中学校の実践研究との連続性を考慮した。この結果、「長期的な視点に立った放射線教育の実践」と「児童が放射線に関する基礎的な知識を理解し、将来にわたって実生活に活用できる資質や能力・態度の基礎を育む」こと、さらに「全教職員が無理なく、抵抗なく指導できる放射線教育を確立する」ことを推進すべき視点に位置付けた。

 「最長6年、早くて2年で転任する教師がいても後々に続くカリキュラムであり、児童の発達段階に応じて中学校と系統性を持たせた9年間の指導計画カリキュラム。とりあえず無理なく、子どもの実態に合わせて後に工夫や改善ができる『仮キュラム』として作成したものです」と西牧校長は文字通り長期視点に立ってスタートさせた。

 具体的には1・2年生には生活科で、3年以上は総合的な学習の時間で各学年年間2時間をかけて実施。環境省の除染情報プラザの協力も得て、紙芝居などを使った「ほうしゃせんってなぁに」(1・2年)、霧箱実験を生かした「放射線の正体を知ろう」(3・4年)、実際に測定する「身の回りの放射量と私たちの生活」(5・6年)をカリキュラムにした。特に5年生は今まで学習してきたことを、1・2年生に時間で教えた。「1・2年生に教えることで切実感が生まれる。調べ学習や話し合い活動を通して、ばらばらだった知識から正しい知識を身に付けさせることになる」という。

 今後、人権、道徳教育、さらに防災教育といったさまざまな「〇〇教育」のなかにどう放射線教育を組み入れるか、キャリア教育との関連を含めて、そのカリキュラム・マネジメントが課題だと西牧校長は考える。

 

〔放射線教育実践協力校の発表②〕

■総合的な学習の時間で「学び方」を教える

坂本晴生氏〔三春町立三春中学校教諭〕

 三春中学校ではスーパー食育スクール校になっており、加えて放射線教育の実践協力校に指定されて何ができるのかを模索した。「指定された数年間を担当教師で乗りきったとしても継続しない。せっかくならば、どの教師もできる系統的な指導法を確立しよう」として、教育課程に組み込むのは最低限にし、比較的集中できる1年生で実施する計画を組んだ。

 実際には、まず理科の時間(3時間、担当は理科教師)に2、3年の学習を先行して放射線の基礎を学習した。続いて保健体育(2時間、担当は保健体育教師または養護教諭)の「健康と環境」の単元で、被ばくや農作物の検査を学んだ。その際に専門家の応援を受けた。

 そして、これら「In put」したことを基に「総合的な学習の時間」(4時間、学級担任)で、自らの課題を見つけてポスターなど自分自身の表現方法で説明させた。稚拙でも自分たちでまとめ、発表(Out put)することで、学習の定着を目指した。

 この総合的な学習では、動機付けに県内産の風評被害の資料を用いた。生徒は「放射線の単位を間違って発信してはいけない」と注意点を挙げたり、福島の果物について科学的なデータを根拠に安全性の判断をしていることを伝えたりするなど、「自ら考え、判断し、よりよく問題を解決するという『学び方を身に付ける』学習に成果が見られた」という。

 同中学校は今後、同じ三春町にオープンした福島県環境創造センター交流棟と連携をとって教育を進めたいとしている。

 

〔見学〕

■福島県環境創造センター交流棟内の施設見学


 研修の参加者は、最後に福島県環境創造センター交流棟を見学した。センターは県の環境を回復し、県民が将来にわたり安心して暮らせる環境を創造するための施設として整備したもので、7月21日にオープンして間もない。展示やワークショップなどを通じて放射線への不安や疑問に答え、年齢に応じて学習、研修する場も備えている。

 交流棟展示室には、原発事故からのその後の歩みを伝える「ふくしまの3・11」、現在の放射線汚染と除染、避難状況を伝える「ふくしまの環境のいま」、放射線の測定方法や大型霧箱などを用いてα、β、γ線の特徴を学ぶ「放射線ラボ」などの4つのコーナーがあるほか、360度映写の球形シアターでは、地球の誕生から放射線の特性や人類の利用を伝える映像や、福島の自然や文化の映像を上映している。

 参加者は、二階の多目的室で同センター教育ディレクターの佐々木清さんが行った霧箱を使った実験を盛り込んだ研修プログラムを見学した。同センターでは、放射線教育の見学や研修を受け付けている。

 

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