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北から南から福島を踏まえた放射線教育の全国展開Ⅲ〜新たな中学校放射線授業への展望〜(公益社団法人日本アイソトープ協会主催)

 2015年7月10日(金)、日本アイソトープ協会による「第52回アイソトープ・放射線研究発表会」が開催され、その一環として、東京大学弥生講堂において「北から南から福島を踏まえた放射線教育の全国展開Ⅲ〜新たな中学校放射線授業への展望〜」と題して実践事例紹介、講演とパネル討論が行われました。

 

実践事例(1)

「長崎市の中学校における実践事例について」

● 前田幸司氏(長崎市立東長崎中学校)

 

 全国の4人の教諭が、放射線教育の実践事例を報告。まず、長崎県の前田氏が、2014年度に行った中学3年理科の単元「地球の明るい未来のために〜自然と人間と科学技術〜」での実践事例を紹介した。「義務教育の最後に、すべての生徒に、これからどう生きていくべきかを考えてほしい」という願いを込めて全6時の授業を実施。第1時は「私たちのくらしとエネルギー」、第2時は「電気エネルギーのつくり方」として火力発電と水力発電、第3〜4時は原子力発電をテーマに、その長所と短所、しくみなどとともに、放射線とは何か、放射線の体への影響なども取り上げた。さらに第5時では、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを、第6時ではまとめとして「これからのエネルギーについて〜ベースロード電源をどうするか」「地球温暖化」などについて授業を行ったと報告。これらの授業は3学期の1月下旬から2月上旬に行われ、難しい面もあったが、真剣に耳を傾けている生徒が多く、手応えを感じたとした。

 

実践事例(2)

「東京都の中学校における実践事例について〜義務教育で放射線を学ぶことの意味〜」

● 青木久美子氏(世田谷区立千歳中学校)

 

 エネルギー・環境教育については教科書に採り上げられる前から行ってきたと言う青木氏は、福島第一原子力発電所の事故直後、生徒の興味や関心に応える根拠を示すことは難しかったとしたうえで、新聞の記事を使って授業を行い、自分の考えを持たせたいという狙いからレポートを書かせたり、また、2年生では粒子などを学習する時期に合わせて、放射線の測定と遮蔽について実験を行った、とした。現在は理科の授業で放射線教育を行っているが、世田谷区立の中学校の指導者にアンケートを実施したところ、「身近な放射線量の測定」のような実験や観察の実施は約3割だったと報告。今後は、実験機器などの整備はもちろんのこと、放射線教育のデータベース化、教諭のスキルアップ研修などの拡充が求められるとした。最後にエネルギー・環境教育について、中学校では生徒たちに自分で調べ、資料を読み取り、多様な考え方や内容について検証できる力を持たせ、義務教育から送り出す必要があると結んだ。

 

実践事例(3)

「桑折町の中学校における実践事例について〜放射線について正しい知識を身に付け、科学的根拠をもとに判断し、行動できる生徒の育成〜」

● 齋藤勇雄氏(福島県伊達郡桑折町立醸芳中学校)


 放射線教育を独自に推進する福島県から齋藤氏が登壇。「いまだ食や日常生活の不安は払拭されていない」としたうえで、放射線教育に対する関心度や知識量は生徒の個人差が大きく、当事者意識が全体的に低い、と報告。教える側も理科担当以外の教員の戸惑いが大きい、とした。そこで同校では、理科と他教科の教師が連携するTeam Teachingで指導。たとえば技術・家庭科と食の視点から「内部被ばく」について、社会科と「新しいエネルギー」について、学級活動では「福島で生きる」をテーマに地元の現状と生活のしかたについて、保健体育科では「放射線が関わるストレスへの対処」について授業を実施。それぞれの専門性を活かしたことで自信を持って指導ができ、学習効果も高まったとする一方、放射線への意識が風化する中で、こうした授業を継続していくことが重要だとした。

 

実践事例(4)

「徳島県の中学校における実践事例について」

● 紅露瑞代氏(徳島県立城ノ内中学校)


 中高一貫校である城ノ内中学校から、紅露氏が登壇。福島第一原子力発電所を中心とする福島の現状を視察する研修会に参加し、義務教育を通じて放射線の理解を深め、科学的に思考・判断する力を育てる重要性を実感したとした。そのうえで同校の「中学校学習指導要領理科改訂前後での指導計画の比較」を報告。平成20年度の3年生対象のカリキュラムでは「暮らしに役立つ科学技術」という視点から、近くにある火力発電所の見学や、発電所による出前授業などエネルギー資源に関するものに加え、京都議定書などを踏まえた環境に関する授業などを実践したことを報告。平成27年度に3年生に行う予定の指導計画では、1、2年生で学んだ「地震が起きるしくみ」「電子の存在と発電」などをベースに、「放射線の性質」「放射線の測定」「放射線の遮蔽実験」「放射線の利用」などの授業がカリキュラムに組み込まれているとし、これにより、生徒ひとりひとりが課題を見つけ、それを解決する力を育てたい、とした。

 

講 演

「新しい中学校理科検定済教科書に見られる放射線記述の傾向」

● 畠山正恒氏(聖光学院中学校高等学校)


 私立聖光学院の地学教員である畠山氏から、2016年度から使用される新教科書についての問題提起があった。まず、中学校の理科の教科書のページ数は1割程度増え、本文以外の注釈も増えていると報告。また、各分野とも高校へのつながりが重視され、防災・減災教育と放射線教育への対応が図られているが、その一方で、理科の授業時間数は変わらず過酷な授業が予想されると語った。さらに放射線の位置づけは、どの教科書でも原子力発電からの派生事項として記述され、電磁波としての放射線や放射性物質といった物理的・化学的な見方で記述されていないと指摘。このままでは「わからない理科」が蔓延し、高校での理科の忌避、消極的な回避につながるとし、全体を見渡すと科学教育のピンチと表現。理科を暗記項目にしないためには教員や生徒への継続的なサポートが必要だと結んだ。

 

パネル討論

ファシリテーター:高畠勇二氏(エネルギー・環境理科教育推進研究所)

 

 上記5氏とともに、全国の学校などで放射線の出前授業や研修会を行っている高畠氏が登壇。新教科書を踏まえ、放射線教育の(1)今後の指導法と補助教材、実験教材(2)Team Teachingのあり方(3)外部支援のあり方と可能性について、会場とともに討論を行った。指導方法としては教科書をベースに、「エネルギー」「復興」「科学技術」を視点としたものが考えられるが、限られた時間の中では精選していかなければならない、とした。学習教材については、本サイト「らでぃ」をはじめ、会場からの紹介(下記参照)があったほか、今後は地域の特性を考慮した「ご当地教材」の開発も必要だという声も上がった。また、「中学生に対してはどのレベルで?」という質問に対しては、最低限「自然放射線の存在」というものをスタート地点にするのがいいのではないか、とした。最後に「福島の経験をどう活かして、どう世界に貢献するか」が日本の課題とし、そのためにも義務教育の役割は重要だと結んだ。

 

※アイソトープ協会「放射線教育における参考テキストまとめ」

http://www.jrias.or.jp/seminar/cat8/804.html

※独立行政法人 科学技術振興機構「放射線ってなあに?」

http://sciencewindow.jst.go.jp/kids/02.html

※福島県教育委員会作成の放射線教育のためのDVDの内容がYou Tubeにアップされる予定

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