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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例14:島根大学教育学部付属中学校

放射線教育授業実践事例14:島根大学教育学部付属中学校

 島根県松江市は,日本で唯一原子力発電所が立地する県庁所在地である。島根大学教育学部附属中学校は,島根原子力発電所から直線距離で8.7kmに位置している。平成24年度に中学校学習指導要領が完全実施となり,約30年ぶりに放射線について学習することになった。しかし,ほとんどの中学校教師は放射線について教えた経験がなく,戸惑いが大きいのが現状である。 そこで,島根大学教育学部自然環境教育講座 栢野彰秀教授,同 秦 明徳元教授,同 大学教育学部大学院生と共に,放射線に関する実験・観察の方法や学習計画を検討し,平成24年度の島根大学教育学部附属中学校3年生4クラス136名を対象に授業実践をした。

 学習の目標を設定するに当たって,生徒の放射線に対する意識や関心を探るために事前調査を行った。まず,「放射線について知っていること」「放射線について疑問に思うことや調べてみたいこと」を自由記述によって調査した。その結果から,放射線に関する基礎知識のための授業を構想することにした。さらに,基礎知識に関する生徒の実態を知るための調査を行った。以上の事前調査を踏まえて,学習の目標を,「放射線についての実験や観察を通して,放射線の性質についての基礎的な知識を身につけ,放射線の利用とリスクについて理解する。これらの学習を通して,持続可能な循環型社会構築のための科学的な根拠に基づいた判断材料を得るようにする。」とし,3時間の授業を展開した。

 

 第1時は,パワーポイントを使って,原子の構造と放射性同位体,放射能と放射性物質,放射線の種類などについて説明をし,放射線が出るときは原子核が変化すること,放射線は高いエネルギーをもっていることを押さえた。

 

 次に,霧箱を使って放射線の飛跡をグループごとに観察した。まず,空気中のラドンによる自然放射線を観察した後に,霧箱にマントル(ランタンの芯)を線源として入れた。線源を入れたときと入れていないときそれぞれの飛跡の数を数えて比較した。これにより,生徒は自然放射線がどこにでもあることや,身近な物に放射性物質が使われていることに気付いた。

 第2時は,「はかるくん」を使って,放射線を測定した。まず,放射線の単位について説明し,理科室の自然放射線を測定してバックグランドとした。また,これをもとに,年間被ばく量を計算し,単位に関する理解を深めた。

 次に,マントル,花こう岩,校庭の砂,塩化カリウム,カリ肥料,池田温泉の水の放射線量を測定した。これにより,大地から自然放射線が出ていることや,カリウムは植物の成長に必要で,人間にも必要な栄養素であり食べることで体に入ることなどを説明した。温泉の水から放射線が出ていることに生徒は驚いていた。

 次に,マントルを放射線源として,放射線測定器との距離を2cmごとに変えて,放射線量を測定し,グラフに表した。これにより,距離依存性を見いだすことができた。

 

 第3時は,まず,遮蔽実験をした。ランタン用の芯(マントル)を放射線源として,放射 線測定器との間に,いろいろな遮蔽物(紙・アルミニウム・鉛)を置き,放射線量を調べた。紙やアルミニウムでは遮蔽できないが,鉛1枚である程度遮られることを見いだした。さらに,鉛の板の数を10枚まで1枚ずつ増やしていったときの教師実験のデータを示し,厚くなるほど遮蔽できることに気付くようにした。

 次に,放射線の種類によって透過する能力に違いがあることを説明し,さらに,放射線の利用とリスクについて説明した。放射線の利用については,当サイトの「資料集」を使用させていただいた。授業の終わりに,「外部被ばくによる放射線量をできるだけ少なくするにはどうしたらよいかを考えさせた。

 以上のような授業実践の後,事前調査と同じ項目で事後調査を行い生徒の変容の分析を行った。放射線に関する基礎知識が増えたことが分かったが,さらに検討を重ねていくべき課題もあり,さらに研究していきたい。

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