教員向け研修会

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教員向け研修会

熱意あふれる情報交換と研修の場(日本科学技術振興財団主催、2022年度 放射線教育発表会)

 

 放射線教育の実践者に向けたイベント「放射線教育発表会」(主催:日本科学技術振興財団)が2022年12月28日に開かれた。場所は東京都千代田区の科学技術館1階のイベントホール(オンライン同時配信)。前年度までの学生を対象にした「放射線教材コンテスト」、今年度からは教員向けの「放射線授業事例コンテスト」の入選作品の発表や福島県での実践を紹介する講演会も同時に開催。これまでより充実した内容で、午後1時から5時までの4時間にわたって教育現場で役立つ情報交換や研修の場が次々に開かれ、放射線教育にこめる関係者の熱意が随所に感じられた。

会場

 

■実演する学生たちから情熱が伝わってくる

 最初に開かれたのは、学生たちが参加する放射線教材コンテストと教員が参加する放射線教育授業事例コンテストの発表。会場には、放射線教育授業事例コンテストに入選した先生たちの授業の資料がポスター形式で並べられた。また、放射線教材コンテストでは、入選した学生たちがブースでデモンストレーション。会場を訪れた教育関係者が、熱心にポスターを見たり、学生たちが実演する教材を実際に試していた。

 印象的だったのは学生たちの表情。そして、その説明を受ける来場者たちの反応。学生たちが緊張しながら自作の教材を一生懸命に説明すると、聞いていた教育関係者は「そこはわかりにくい」「ここはもっとこうしたら」などと次々に助言。学生と現場の教員の間で、どうすれば教材をもっと良くできるかと対話が始まる場面も見られた。

 放射線教材コンテストの審査委員長である鈴木崇彦さん(元帝京大学教授)は、「対面で作品の説明を受けると、皆さんの情熱が加わり、教材の良さがよく伝わってきた。おそらく説明した相手から『わかった』などと言われたのではないか。そう言われた喜びを糧にして、今後も学びを継続してほしい」と、入選した学生たちの熱意をたたえた。

 

実演風景

 

 ■学生たちのアイデアが光る教材

 今回で5回目となる放射線教材コンテストでは、毎回、学生たちのアイデアによる新しい教材がいくつも提案される。今回も独創的な発想が光る教材があった。

 例えば、東海学園大学の酒井彩名さんたちが考えた「概念パズルでマッピング」は、ジグソーパズルのような形をした3種類の型紙を使った教材。小学生がいろいろな放射線の知識を楽しくつなげられるのが特徴だ。

 この教材は、放射線教育の授業を受けた最後に取り組むワークを想定。児童が「農業」などと自ら設定したテーマをパズルピースに書き込み、そこに絵(野菜やレントゲン画像、タイヤなど)が描かれたイラストピースを選んで連結させ、白紙の説明ピースをつないで絵と放射線の関連性を示すキーワードを書き込む。さらにそのピースから連想できるイラストピースや説明ピースをつなげていくと、いつの間にか放射線の知識を全体的にマッピングできる。

 放射線にかかわる分野は基礎から防護、応用まで幅広く、知識が断片的になりがちだ。この教材は、バラバラになりがちな放射線の知識を楽しくつないでいけるという点に工夫が感じられた。

優秀賞・公益社団法人日本理科教育振興協会特別賞 東海学園大学 酒井彩名さん

 

■「透過率」からレントゲン原理がわかる教材が最優秀賞

 今回、最優秀賞に選ばれたのは、駒澤大学の髙橋里さんが作った「偏光板でわかる!レントゲン画像の仕組み」だった。これは「透過率」という概念をまず感覚的に捉えることに重点を置いた教材。初めて学ぶ者が戸惑いやすいレントゲンの原理を直感的に理解できる。

 独創的だったのは偏光板をうまく活用したところ。光の透過率を場所によって巧みに変え、2枚の偏光板が重なる角度によって色(黒・白・灰色)を作り出す。その偏光板で手と骨に見立てたサンプルを作成。その際、骨の部分は光を通す角度、肉の部分は斜めの角度、手以外のところは光を通さない角度にしておく。

 この作成したものを光が通る場所に置くなどしてから、もう一枚偏光板を重ねると、骨の部分は真っ白になり、肉の部分は灰色になり、何もないところは真っ黒になる。何度も繰り返すと、透過率の違いによって体内の様子が見えるようになるというレントゲンの原理を感覚的にわかっていく。審査委員長の鈴木さんは「どう工夫すれば放射線の知識を相手に伝えることができるかと、とても深く考えて作った教材だ」と評した。

最優秀賞 駒澤大学 高橋里さん

 

■福島の事例に学ぶ放射線教育

 今年度の発表会からは、教材のコンテストだけでなく、放射線教育の研修の場も提供することにもなった。会の冒頭で開会の辞を述べた若林光次理事(日本科学技術振興財団)は、被災地である福島県の放射線教育にスポットを当てた講演会を開催する目的または狙いについて「福島に学ぶことが日本全国の放射線教育の普及につながると」と力をこめて語った。

 午後3時10分からは、福島で放射線教育をリードする二人の講演会がスタート。司会を務めたのは、文部科学省で主任視学官を務めた清原洋一さん(秀明大学教授)。講演会に先立って、自身が手がけた中学校の理科の学習指導要領の改定について、どのような考えや思いをこめたかを解説した。

 一人目の講演者は福島県教育庁義務教育課指導主事の白井孝拓さんで、演題は「福島県における放射線教育の取り組み」。白井さんの話によれば、令和2年度で「地域と共に創る放射線・防災教育推進事業」が終了したとのこと。その後は、「放射線」と冠した教育事業は行われていないが、「福島県内では令和3年度まで小学校と中学校で放射線教育・防災教育が100%継続されている」と報告した。これまでの取り組みの実践事例や資料が広く共有されて、地域の実態に合わせた活動が実践されているということだった。

秀明大学教授 清原洋一さん     福島県教育庁義務教育課指導主事 

                    白井孝拓さん

 

■教科横断型、実践的に使える形に

 もう一人の講演者は、福島県福島市立松陵中学校長の阿部洋己さん。演題は「放射線教育の実践を通して」。阿部さんは福島県の放射線教育を率先してきた人物の一人。この日は、東日本大震災の原発事故後、どのように福島県内の放射線教育を作り上げていったかを語った。その中で、「出前講座を専門家の先生にお願いすれば大丈夫という形だけの授業」になってほしくはないと指摘。専門家の協力を生かしながら、学校としての独自のテーマをもって放射線教育を実践することが重要であるという考えを示した。

 熱が入ったのは、講演後の質疑応答。「放射線教育は教科横断型の授業として有効だと思うが、何か良い案はあるか」との質問に、白井さんは「放射線の問題は複合的で、放射線の性質だけを知っていればいいという話ではなく、社会的なことや政治的なことなども含まれる。いろいろな立場もあって、単純に賛成・反対の二項対立でもない」と言及。子どもたちには、科学的な見方や考え方を働かせながら、社会的なことも調べていくような問題解決の力を育てるのが大切だと語った。

 阿部さんからは、松陵中学校では2023年度から「災害から主体的に身を守ることができる資質能力の育成」と題した取り組みを始めるとの情報提供があった。まず、理科を中心としながら、知識や思考、判断に関する学びを展開。次に実践の場として避難訓練を活用したり、さらに道徳や総合的な学習の時間、学級活動、保健体育を巻き込んだりしながら、理科の知識をより実践的に使える形にもっていきたいとのことだった。

 

福島県福島市立松陵中学校長 阿部洋己さん

 

 1時間ほどの講演会のあとには、放射線教材コンテストと放射線授業事例コンテストのそれぞれの受賞作品を表彰。結果は下記の通り。教材コンテストの受賞作品は、放射線教育のウェブサイト「らでぃ」で、デモ映像や抄録、教材の詳細を自由に閲覧できる。


放射線教材コンテスト

 優秀賞、NPO法人放射線教育フォーラム特別賞、公益財団法人日本科学技術振興財団理事長賞 宮城教育大学の指導教員と学生

 

 

放射線授業事例コンテスト 優秀賞 愛知教育大学附属名古屋中学校 奈良 大さん

 

  【放射線教材コンテスト】

https://www.radi-edu.jp/contest/list-of-award

 

【放射線授業事例コンテスト】

https://www.radi-edu.jp/radi/wp-content/uploads/2020/11/2022_jireicontest_resuit.pdf

 

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