コラム

ホーム > コラム

第11回

平成29年小学校学習指導要領下において理科で放射線に関する教育を実施する方法

北陸学院大学 人間総合学部 子ども教育学科
教授
川真田 早苗

 福島原発事故後は、放射線の健康影響等などについての社会的不安から、小学校・中学校・高等学校の各段階に応じて、放射線や放射能、放射性物質について学び、自ら考え、判断する力を育むことが大切であるとされ、学校における放射線教育の定着・継続が求められました。しかしながら、福島原発事故から10年を経た現在、原発事故とその影響による身の回りの取組を知らない世代が増え、学校における放射線教育は復興教育へと授業内容が変化しつつあります。

 この変化は、令和2年4月より完全実施された平成29年小学校学習指導要領解説(総則編)に示された放射線に関する教育の表記からも伺えます。ここでは、現代的な諸課題(放射線に関する課題)に対応するため求められる資質・能力として「放射線に関する科学的な理解や科学的に思考し情報を正しく理解する力を育成すること」が示されています。同書付録6には、放射線に関する教育で取り扱う主要な教科として国語科、社会科、特別の教科道徳が示されていますが、理科は示されていません。一方で、文部科学省は令和2年3月24日に放射線教育の実施状況調査の結果について、全国の小学校の約70%が主に社会科や理科で扱ったことや扱う予定があると報告しています。本報告から、小学校において放射線に関する教育で取り扱う主要な教科として理科が必要とされていることが伺えます。

 放射線の学習は、中学校第1分野(「エネルギー」「粒子」領域)で取り扱われています。このことから、小学校における放射線に関する教育は「エネルギー」「粒子」領域と関連することが推察できます。「エネルギー」領域では、児童が学習対象を主に量的・関係的な見方で捉え、「粒子」領域では、児童が学習対象を主に質的・実体的な見方で捉え問題解決を通して科学に関する基本的な概念等についての理解を図ります。したがって、具体的な学習内容が取り扱われていなくても、「エネルギー」「粒子」で働かせる理科の見方と関連付けた放射線に関する教育が小学校の理科においても実施できるのではないかと考えます。そこで、全国の小学生に配布された小学生のための放射線副読本(平成30年9月)の学習内容と理科の見方との関連を整理し、放射線に関する教育を理科でどのように実施できるのかについて考えてみました。

 小学生のための放射線副読本(平成30年9月)は、2章から構成されています。第1章は、主に理科と関連する「放射線について知ろう」、第2章は主に国語・社会科・道徳に関連する「原子力発電所の事故と復興のあゆみ」から構成されています。ここでは、小学校理科と関連する第1章の1「放射線って何だろう」、2「放射線を受けるとどうなるの」の学習内容について整理します。

1.小学校理科と関連する「放射線って何だろう」の学習内容
(1)自然放射線の存在:ここでは、「目に見えていなくても、私たちは今も昔も、放射線がある中で暮らしており、放射線を受ける量をゼロにすることはできない」ことを学習します。これは、目に見えない空気の存在を質的・実体的な見方で捉えるという第4学年の学習と関連付けることができます。
(2)放射線の性質:ここでは、「放射線には、光のように「もの」を通り抜ける性質がある。放射線はいくつかの種類があり、その種類によってはさえぎることができること」について学習します。これは、光の反射や日なたと日陰について関係的な見方で対象を捉えるという第3学年の学習と関連付けることができます。
(3)放射線・放射性物質・放射能の違い:これは、豆電球と発光ダイオードの点灯について量的・関係的な見方で対象を捉えるという第4学年の学習と関連付けることができます。
(4)放射線の利用:これは、人体のつくりと運動の学習において紹介されている骨のレントゲン写真を取り扱うという第4学年の学習と関連付けることができます。その際、管理された人工放射線の利用を取り扱う学習の中で(2)の放射線の性質で学習する「放射線や放射能が、風邪のように人から人へうつることもありません」という内容を再度取り扱うことにより、放射線の性質についての理解を深めることができます。

2.小学校理科と関連する「放射線を受けるとどうなるの」の学習内容
(1)放射線の測定についての学習:ここでは、実際に放射線測定器を使い身の回りの放射線を測定します。放射線を測定することにより、測定技能を身に付けるだけでなく、1-(2)の放射線の透過および遮蔽に関する内容についても理解を深めることができます。
具体的には、質的・実体的な見方を働かせ、条件を制御した実験を通して、放射線の透過の量は水や紙、木材、鉄板、鉛板等などの物質により差があること、放射性物質の種類や量により放射線の量が異なることについて実感を伴った理解を図ることができます。この時、1-(3)放射線・放射性物質・放射能の違いの学習内容を再度取り扱うことにより、より理解が深まります。また、量的・関係的な見方を働かせ、条件を制御した実験を通して、放射性物質から距離が離れるほど放射線の量は小さくなることについて実感を伴った理解を図ることができます。これらは条件を制御した実験・測定が望ましいため、第5学年での実施が適していると考えられます。
(2)体に受ける放射線量による健康への影響の学習:ここでは、「放射線が人の健康に及ぼす影響は、放射線の有無ではなく、その量が関係していること」を学習します。量的・関係的に捉える理科の見方を働かせ、放射線の量に対するガンの相対リスク等の資料を読み取る学習が中心となります。

 以上のことから、放射線に関する教育を取り扱う主要な教科として理科が取り扱われていない平成29年小学校学習指導要領下では、小学生のための放射線副読本(令和3年10月改訂)から理科の量的・関係的な見方及び質的・実体的な見方を働かせることができる学習内容を抽出し、それらを理科の授業に位置付けることが、放射線に関する教育を理科で実施する方法の1つであると考えます。

Copyright © 2013 公益財団法人日本科学技術振興財団