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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例46:福島県本宮市立白岩小学校

 

教科横断型の放射線教育を実践
=知識を活用できる力を育む=

 

 令和2年10月23日、福島県の本宮市立白岩小学校で放射線教育の実践事例が紹介された。当日は1年生と4年生のクラスの授業が公開され、単なる知識の獲得で終わらせない、子どもたちの知識の活用力を育もうとする、同校の取り組みの一端が披露された。

 

【白岩小学校】

 明治6年創立の伝統校。所在地の本宮市は福島県中通り中部に位置する。この地では古くから「珪石」(けいせき)」と呼ばれる白い石が多く産出され、そこから小学校に「白岩」の名が付けられた。教育目標は「かしこく、たくましく、共によりよく生きる白岩の子」。令和元年度から福島県教育委員会の「地域と共に創る放射線・防災教育推進事業」における放射線教育実践協力校の指定を受けている。2年目となる令和2年度では、「安全・安心な社会づくりに貢献できるこころ豊かな子どもの育成」を研究主題に設定。児童が学び得た知識・技能・物事の考え方などを自ら意思決定して、今後に生かせるように指導している。

 

■防災教育の中で放射線を学ぶ

 白岩小学校では、令和元年度に放射線教育実践協力校に指定される前から、全ての学年において継続的に放射線を学べる機会を設けてきたという。鈴木茂校長は放射線教育の意義について、「広島県民や長崎県民が原子爆弾に基づく平和教育の推進を責務としているのと同じように、福島県民は原子力発電所の事故を教訓としなければならない。学校教育として、放射線教育を推進していく必要がある」と語る。

 放射線の特性や有効利用、危険性などの知識のほか、危険回避や事故対応への技能の理解を深める学習も実践しているとのこと。さらに、原子力発電所の事故によって困っている人に対する思いやりや、風評被害を乗り越えてきたふるさとに対する誇りを学ぶ機会も意識的につくってきたという。

 ただ、放射線教育を単体で展開する中で、その知識を原子力発電所などの事故と結び付けるのは小学生にとって難しいところがあるとも感じてきたとのこと。「防災教育の中に放射線教育を位置付けることによって、子どもたちが抵抗なく放射線の学びに入っていけるようになるのではないかと考えています。その中に、放射線の有効活用や代替エネルギーの開発といった未来志向の議論など発展的な学習内容や活動も含めて計画したい」と鈴木校長。

 

今回は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点からオンラインによる発表となった。鈴木校長も校長室からオンラインで関係者や参観者にあいさつした。

 

■何ができるようになるのか

 研修主任の髙野舞子先生の話によれば、放射線教育実践協力校に指定された1年目は「教師が何を教えるかという視点が強くなり、知識・技能の習得にとどまってしまった」という。そこで2年目は、「資質・能力の育成」と「活用」に重点を置く方針に転換。「何ができるようになるのか」を意識して、これまでに身に付けた知識や技能を土台に、それらを活用していくことができる力の育成を目指してきたとのこと。

 各学年の授業では、学級活動を要として、社会科や道徳科、総合的な学習の時間などでも放射線を取り上げ、横断的な学びを展開。例えば、昨年度に学んだ放射線や原子力発電所の事故の知識を生かしながら、道徳科などで新型コロナウイルスの感染拡大の中でどのように行動すればいいかを考えたり、感染者の多い地域から帰省した人が差別された例について学び、なぜそのような差別が起きるのかを応用的に考えたりする授業をしたという。放射線教育の取り組みの成果を今後も生かすため、防災教育や道徳教育など他の「○○教育」や教科を横断的に関連させた「放射線教育年間指導計画」も作成している。

 

 白岩小学校では、放射線教育を中心にして関連する「○○教育」の位置付けを整理。上図は4年生の場合。(クリックすると図を拡大することができます。)

 

■放射線について「わかった!」ことを活用してクイズに

 1年生の教室では、学級活動の1コマとして「がっこうくいずたいかいをひらこう」(学校クイズ大会を開こう)という催しが開かれた。それまでに学校について調べたことなどを、3グループに分かれてクイズとして出題。他のグループの児童や参観の保護者が答えていく。グループごとにテーマがあり、そのうちの1つが放射線に関するものだった。

 放射線グループの1問目は「放射線は目で見ることができる? ○か×か」という問題。保護者も含めて全員が「×」に手をあげた。正解を告げられると、子どもたちは「イエーイ」と手をたたいて大喜びだった。続けて、「放射線は体を通り抜けることができる?」や「放射線を少しの量でも浴びると体に悪い影響がある?」という健康に関する質問。友達同士で話し合って○か×を検討。正答する度に喜びを体全体で表現していた。

 また、出題した子どもたちは、単に答えを言うだけでなく、「放射線を目で見ることはできません。音や匂いもしないそうです。見えないし、音もないのに、どうやってわかるのかなと、とても不思議だと思いました」とか、「放射線は体を通り抜けるけれど、悪いこともするそうで、気を付けなくてはならないと思いました」などと、自分の思いや考えをセットにして放射線の知識を解説していた。

 

1年生の授業「学校クイズ大会」。放射線に関するクイズもたくさん出た。

 

 給食で出される食材の放射能検査についてのクイズもあった。この問題の作成には、学校で毎回測定している放射能測定員に取材したという。その他、「モニタリングポスト」「除染」などの専門的な言葉を使って出題したり解説したり、ときには保護者の回答が割れる難問もあったりなど、小学1年生のクイズとは思えないレベルで大人も楽しめる内容になっていた。感想を求められた保護者の一人は「小学1年生の皆さんから放射線のことをクイズ形式で出してもらって、しかも解説もきちんとしていて『すごいな!』と感心しました」などと高く評価。子どもたちは満面の笑みを浮かべていた。

 担任の安藤絵美先生によれば、この学級活動で保護者を招いてクイズ大会を開こうとなったとき、子どもたちの方から放射線を取りあげたいという声が出たという。学級活動や生活科などいろいろな場面で放射線を学んでいく中で、「何も知らなかった放射線のことが『わかった』といううれしさとなり、それがクイズにして出したいという気持ちにつながったのではないかと思います」とのことだった。確かに子どもたちは知識を活用して、出題し解説できていた。

 

■学んだ知識や技能を災害時に生かせる力に

 4年生の教室では社会科の授業が公開された。「自然災害からくらしを守る」という単元の1コマで、その中で放射線について考える機会もうまくつくりだしていた。授業は、まずそれまでの学習を振り返ることから始まり、1年前の「令和元年東日本台風」がもたらした市内の水害の写真を見たりしながら、すでに学んだ地震の備えの重要さを確認。次に、原子力発電所の事故のときに役立つ避難グッズについてクラスで考えた。

 それまでの学びで得た知識から、「救急セット」「タオル」「レインコート」「ウエットティッシュ」「非常食」「水」「ブランケット」「笛」などの避難グッズが出た。担任の髙野舞子先生は選んだ理由もていねいに聞いていく。「レインコートは、放射性物質から身を守るために必要」など、子どもたちはこれまでに得た知識を根拠に説明し、防災グッズを選んでいた。

 

4年生の社会科の授業。正しい情報や知識に基づく行動の重要性にも自ら気付いた。

 

 高野先生が「これだけ避難グッズがあれば災害が起きても大丈夫だよね?」と、さらなる気付きを促すように質問を投げかける。すぐに「いいえ」「だめです」との声があがり、「正しい情報を手に入れるためにはラジオが必要」「普段からどんなことが起きるかを考えておく」など災害への備えについて指摘した。また、「自助、互助、共助、公助」という言葉や、放射線の知識の必要性に関わる話も出た。災害発生時はグッズの備えだけでなく、混乱状態では信頼できる情報や正しい知識に基づく行動も大切であると、自ら考えて気づくことができたようだった。

 担任の髙野舞子先生によれば、今年度は、特に定着が不十分だった放射線の性質や利活用について専門家を招いた講義や実験のほか、国語(戦争の物語)や社会(災害)、総合的な学習の時間(福島の復興)でも意識して取り上げるようにしてきたとのこと。「繰り返し、繰り返し、授業などで少しずつ種をまいていくことで、身に付けた知識や技能をいろんな場面で活用できるようになると実感しています」と高野先生。

 

放射線を学ぶきっかけの1つとして、廊下に放射線クイズが掲示されている。

 

■放射線教育で先生たちも教える力を高める

 鈴木校長は、放射線教育を実践するにあたって、特にカリキュラム・マネジメントに力を入れてきたという。放射線の知識・技能を習得して、自らの生活をより良くしていく実践的な態度を身に付けるなどの活用・探求につなげられるように、教育計画の改善を図り、特定の教科や学級活動などに限定することなく、横断的に放射線を関連付ける授業を進めてきたとのこと。特に、昨年度までの学びを活用する場面を意図的に設けるようにしてきたという。

 放射線教育に取り組むと、それを切り口にすることで、全体のカリキュラムの改善策を探ることができると鈴木校長。「今年度、新しい学習指導要領が小学校において全面実施となり、教員1人ひとりが広い視野と創造性をもって教育課程を編成する能力を高めていくことが一層求められるようになりました。放射線教育でなければできないわけではありませんが、1つの『○○教育』に、他の『○○教育』や各教科等の指導を関連付けると、より深められるということを経験的に学べる機会となると思います。この経験を自校の教育課程の編成や、放射線教育以外の教育計画を立案するときなどに役立たせることで、より充実した教育を児童に提供できるようにしたいと考えています」と今後の抱負を語った。

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