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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例43:福島県三春町立三春小学校

 

小学1年生が放射線を身近に感じていく授業
 =まずそこにあると知ることから始める=

 福島県田村郡にある三春町立三春小学校では、この地域の特徴を生かしながら継続した放射線教育を目指し、全ての学年において放射線に関する授業を毎年実施している。令和元年12月6日、この授業の様子が公開された。1年生の授業では、子どもたちが紙芝居や実験などを通して、見えない放射線の存在を実感しながら、放射線の性質や利用法などを学んだ。

 

三春小学校_授業の様子

 

【三春小学校】 

三春町は、福島第一原子力発電所から直線距離で約48 kmに位置している。
 東北地方太平洋沖地震による当時の揺れは周囲に比べて比較的小さく、高い放射線量も記録されなかった地域である。
 三春小学校は、明治6年の創立。前身は江戸時代の三春藩の藩校で、「明徳堂」と呼ばれていた。現在の三春小学校の教育目標にも「『明徳の精神(くもりのないりっぱな徳性)』を基調とした未来に生きる人間性豊かな子どもの育成」とある。震災当時は、浜通りから避難してきた被災者を数多く受け入れ、現在も避難している児童が在籍している。中には、9年近くが経過し、三春町に定住することを決めた被災者も少なくない。
 福島県教育委員会の「地域と共に創る放射線・防災教育推進事業」の実践協力校である。

 

■放射線教育を継続して実施していく

 東日本大震災で生じた福島第一原子力発電所の事故から9年近くが経ち、小学校では震災後に生まれた児童の割合が高くなってきている。放射線を子どもたちにどのよう に教え続けていくかが課題となっている。
 「放射線教育というと、特別な教育というイメージや、一時的に取り組む教育活動というイメージがありますが、私はそうあってはならないと思っています。特に低学年の児童に放射線を教えることは難しいのですが、小さい頃から放射線を意識することはできますし、経験を通して知識を身に付けることもできます。強引な教え方になってしまうところはあるのですが、1年生から毎年2時間ずつ学びの時間をつくり、6年にわたって継続して実施しています。シンプルな取り組みでも、その積み重ねが、やがて中学校や高校で放射線を学ぶときに役立ち、知識を確実に身に付けることができます。そうなれば、何かあったときに適切な行動をとることも、正しく怖がることもできるようになっていくと思うんです。」(箭内校長)

 三春小学校の近くには、福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」があり、県内の子どもたちを中心に放射線教育や環境教育が日々行われている。三春小学校では、「コミュタン福島」の協力を得ながら、放射線教育を積極的に推進している。

 

三春小学校_箭内校長

 

■読み聞かせで紙芝居の世界へ

 1年生の教室では「ほうしゃせんについてしろう」についての授業を行った。児童は、男子11人・女子12人の計23人。2012年4月から2013年3月に生まれた子どもたちで、震災を経験していない。放射線について初めて学ぶ授業であり、指導者は担任の赤沼佳子先生。福島県環境創造センターの3人のスタッフもゲストティーチャーとして招かれていた。
 授業は赤沼先生の紙芝居から始まった。ゆっくりとした口調で、「みんなが生まれる前のことなんだけど、とても大きな地震が起きました」と語りかけた。地震の絵をめくって津波の絵が出てくると、子どもたちから「あぁー」とつらそうな声がもれた。「この後、もっと大変なことが起きました」と続けると、児童の一人が「爆発!」と言った。「そう」と、赤沼先生は福島第一原子力発電所の事故を描いた絵を子どもたちに提示した。

 「ここから『放射性物質』というものがたくさん出てしまって大変なことになったんだけど、みんなは『放射線』という言葉を聞いたことがあるかな」との問いかけに、数人の児童が手をあげた。「どんなことを知っているかな?」と聞くと、子どもたちは「よくわからない」と言いながら首を横に振った。赤沼先生は「そうだよね。よくわからないよね」と言い、黒板に「ほうしゃせんってなあに?」と書き、「これが今日のめあてです」と言って、子どもたちと一緒に読み上げた。

 

三春小学校_赤沼先生

 

 「実は先生も、放射線のことを詳しく知らないの。そこで誰に聞いたらいいかなと考えて、今日は近くのコミュタン福島の先生たちに来てもらいました」と言って、スタッフを紹介した。そのうちの一人は三春小学校前校長の太田文枝さん。現在は、コミュタン福島にて、来場した子どもたちの学びを支援している。

 太田さんの上手な語りに、子どもたちはすぐに引き込まれていった。放射線が食べ物からも出ているという場面では、子どもたちは「えっ!」という驚きの声をあげた。また、放射線の性質を伝える場面では、聞こえない、見えない、匂わない、味もない、物を通り抜けるという特徴をもっていると教えられると、「ゆうれいみたい」というつぶやきが聞かれた。

 さらに、東日本大震災で生じた福島第一原子力発電所事故にも触れていった。外に出てしまった放射線を、小さなたき火と大火事に例えながら、放射線も人の手に負えないくらい大きくなると大変なことになってしまうと伝えていた。

 

三春小学校_教室の様子

 

■本当にあるかどうかを実験

 授業の後半は、放射線が本当に身近にあるのかを実験して確かめる時間となった。赤沼先生が「放射線が本当にあるかどうかを知りたいよね。でも、放射線は見えないし、聞こえないし、匂いもしないし、味もしないから、目の前にあってもわからないよね。もしかしたらコミュタン福島の先生ならわかるかもしれないので、お願いしてみましょう」と導くと、子どもたちは「あるかどうか教えてください」と声を合わせてお願いした。すると、コミュタン福島のスタッフが放射線の計測器を持ち上げ、「今日はこの放射線測定器(GM)を使って、みんなで放射線を測りましょう」と呼びかけた。そして、試料の「塩」「肥料」「御影石」「刻み昆布」「湯の花」を説明した。

 まずはバックグラウンドを30秒間測定した後、スタッフが「何個だったかな?」と尋ねると、子どもたちは「33個」と元気よく答えた。そして、子どもたちが試料の「塩」「肥料」「御影石」「刻み昆布」「湯の花」から出る放射線の量を測定器で測った。子どもたちは興味津々で、測定時間の30秒をみんなでカウントしながら、計測器のカウンターの数字が上がっていくのを一生懸命に数えていた。

 

三春小学校_実験の様子

 

 実験が終了すると、いよいよ最後のワーク。赤沼先生が「おうちの人に手紙を書いてほしいの」と言うと、一瞬、子どもたちは戸惑う表情を見せた。しかし、「先生も放射線のことがわからなかったように、おうちの人もわからないかもしれないよね。だから、今日、放射線についてこんなことがわかったよと伝えれば、おうちの人も放射線のことがわかるよね」と話すと、子どもたちは納得して、この授業で学んだことを言葉にしようと紙に向かって書き始めた。児童の一人は「ほうしゃせんはいろいろなところにあります。見えないけれど、どこかにあるんだなとおもいました」と書いていた。

 

三春小学校_手紙

 

■今日の授業が第一歩

 この公開授業には、近隣の小学校や中学校の先生たちが多く訪れた。授業の後には事後協議も行われた。冒頭、箭内校長のあいさつのあと、白岩新一教頭が三春小学校における放射線教育の学校テーマ「21世紀をたくましく生きる子ども育成~三春町に暮らす子どもならではの、持続可能な放射線教育~」について説明。その中で、福島県に生まれて育った子どもにとって、放射線教育は必要不可欠な学習内容であると捉えていることや、大震災が起きたときに放射線に対する十分な知識や経験が不足していたことが風評被害などの大きな不安につながってしまったと伝え、放射線教育の重要性を強調した。また、予測が難しい現代であっても確実に歩み、困難を乗り越えていけるようになるには、放射線教育などを通して自ら考えて判断し行動できる力を身に付けることが大事になるとも説明していた。

 その後、協議が始まり、授業を見ていた先生から意見が寄せられた。「専門的なところはゲストティーチャーに話してもらったのが良かった」「難しい単位の話をせずに、うまく測定器を使って放射線の量の多さや少なさを感じ取らせていた」という意見があった一方で、「試料が1年生には身近なものではなかった」「単に値だけをワークシートに書いていただけかもしれない。その値の意味をもう少し説明した方が良かったのではないか」という声も聞かれた。

 授業をした赤沼先生は、「今日の授業は、子どもたちにとって本当に初めての放射線の授業でした。何もわからない中で、放射線が見えないとか、味がしないとか、測定器を使えば放射線は測ることができるとか、何かしら子どもたちの頭の中に残ったかなと思います。事前にアンケートをとったとき、子どもたちは『放射線』という言葉以外はほとんど知っていることがありませんでした。それが、最後の保護者への手紙では、学んだことをいくつか書けていましたよね。放射線の授業は一回やったら終わりというものではありません。積み重ねていく中で確かな知識が身に付いていけばいいなと思っています。次はコミュタン福島へ行って、今日学んだ知識を深めたいと思っています。また、今後はいろいろな機会で放射線の授業で学んだことに触れて、『ここにも放射線があるね』と思い出させたいと思っています。放射線に関して継続的に触れていく学びが大事で、今日の授業がまさにその第一歩となっていたらいいですね」と感想を述べた。

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