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公開パネル討論 今やる、放射線教育Ⅲ(NPO法人放射線教育フォーラム主催)

公開パネル討論 今やる、放射線教育Ⅲ (NPO法人放射線教育フォーラム主催)

 

 2015年11月23日(月・祝)、東京慈恵会医科大学高木2号館南講堂において、NPO法人放射線教育フォーラム主催のシンポジウム「今やる、放射線教育」が昨年に引き続き開催されました。今回は中学校を対象に、実践報告や講演、そしてパネル討論がありました

 

午前の部では、各地域で放射線教育に取り組まれている5名の中学校教諭による実践事例の報告がありました。

 

実践報告①

●牧野 氏(東京都豊島区立池袋中学校主幹教諭)

「意思決定の場面設定によって科学的な思考力を高める授業実践」

 

 中学3年生の「科学技術の発展」6時間を使って、「日本の今後のエネルギーについてどうあるべきか考える」をテーマに実施。ディベート手法を用いた話し合い活動を通じて、科学的な根拠に基づく意思決定を行わせる場面を作った。具体的には、生徒を4チームにして各発電方法を振り分け、2チーム対抗で弁論や尋問を行わせ(残りのチームは審判)、勝者を決めさせた。こうした手法を導入することにより、個々で集めた情報をチームで吟味する過程で誤った情報は淘汰され、メリットやデメリットを科学的に正しく判断できたことが大きい、とした。そして最後に個人の意思決定の場面である作文を書かせたが、科学的な根拠に基づいて深く考え、結論がひとつの発電方法に収束せず、多様な結論が出されたことは大きな成果だとした。

 

実践報告②

●大沼康平 氏(山形大学属中学校 教諭)

「山形市における中学校の実践事例について」

 

 今、将来を担う子どもたちに求められているのは、放射線が危険か安全かといった二元論的な考え方ではなく、自分たちの力で状況を変えたり、自らの命を守る術を身につける素地を育むことだとの考えから、中学2年生の「化学変化と原子・分子」を学習した後に、9時間の放射線教育に関する授業を実施。「1.放射線についての課題を見つける」「2.学校内の放射線の測定をする」「3.放射線を霧箱で観察する」「4.放射線から身を守る方法を考え、実験を通して確かめる(3時間)」「5.放射線の利用について考える」「6,これまでの学習を振り返り、レポートにまとめる(2時間)」を実践した。特に4に関しては班ごとに実験計画を立てさせ、実験を行い、結果を交流させたことにより、深い学びにつながったとした。事前に行った放射線に関するレディネス調査からは、正しい知識に欠け、自分の意志で考えていないと感じられるとしたが、実践後はそれが大きく変容したと評価し、今後も工夫を重ねて放射線教育を行っていきたい、と結んだ。

 

実践報告③

●佐々木清 氏(福島県郡山市立郡山第六中学校 教諭)

「『人と人とのつながり』を大切にした放射線教育と郡山市放射線教育推進委員会の取り組みについて」

 

 放射線教育の研究・公開を進めてきた福島県からは佐々木教諭が登壇。基礎知識の習得から、科学的な探求を行う放射線授業を経て、現在は1年生の「大地の成り立ちと変化」で地震災害における放射能汚染という視点から2時間、2年生の「動物の体のつくりと働き」で放射線による人体への影響と防護という視点から2時間、3年生の「科学技術と人間」で福島第一原子力発電所の廃炉作業の現状という視点から3時間実施していると報告。いずれも生徒が主体となって生徒間で話し合いをさせているとした。その中で、食育を切り口に養護の先生といっしょに行った免疫力の理解の授業、廃炉作業を行っている作業員の方を迎えての授業に触れ、特に後者は現実問題として今なお放射線で苦しみ続けている福島県民にとって「人と人とのつながり」が必要だと考え、授業に組み込んだとした。教諭はさらに福島の現状、福島で推進している教育や教材等に触れながら、「福島に来ていただければ、福島の復興がおわかりいただけると思います」と結んだ。

 

実践報告④

北畑謙一 氏(大阪府中学校理科教育研究会 研究委員)

「大阪府における放射線教育〜各学年の放射線学習の実践例〜」

 

 自治体によっては放射線教育に対して慎重なところがあると前置きしたうえで、大阪の取り組みについて紹介。氏は生徒に科学的な根拠に基づいた意思決定ができる力を身につけさせるためには3年間で系統立てて学習させる必要があると考え、指導計画と評価計画を提案。研究協力校で授業実践を行った。1年生では「光と音」で目に見えない光線の存在である紫外線をブラックライトを使っての実験で確認させ、「火山と地震」では放射能をもった鉱物と集塵機で集めた塵を含んだろ紙を線源に、霧箱を使っての実験を行った。2年生では「静電気と電流」で放電管から出ているX線の確認とその性質などを学ばせ、3年生では「科学技術と人間」で放射線の種類、利用・影響、半減期、防護、エネルギー資源の開発と有効利用を、実験や調べ学習、話し合いなどで学ばせたとした。これにより、負のイメージが多かった生徒たちが興味関心を高め、理解を深めたとし、3年生では科学的根拠に基づく意思決定ができる生徒が見られた、とまとめた。

 

実践報告⑤

羽澄大介 氏(名古屋市教育センター 指導主事)

「中学校理科エネルギー資源(放射線を含む)の指導の在り方についての考察」

 

 冒頭、「ある事柄をわからせるためには、身につけさせたい知識の全体における意味と位置づけを捉えさせるように留意する必要がある」ことに触れた。その上で、新学習要領で放射線学習が復活したが教員に知識や経験が乏しいこと、また、わが国がエネルギー資源小国であるという現実について述べた。そのうえで、新学習要領に沿った各教科書の記述を紹介しながら、たとえば「放射線が物質を透過する性質」を教える前に、原子の構造、さらには原子と原子核の大きさの違いをイメージさせることが重要とした。また、「エネルギー資源」についても同様で、教科書にただタンカーの写真の載せるだけでなく、東京タワーほどもあるこのタンカーが運ぶ原油がわずか半日で消費されること、わが国のエネルギー自給率が4%(※教科書上の数値)であることを関連づけて教えなければ、本当の狙いを子どもたちに理解させることはできない、とした。名古屋市教育センターでは、初任者研修会において、こうした考えのもと「エネルギー資源」や「放射線」に関する研修を実施していると報告。数年後を見すえて、よりよい指導のきっかけ作りになればと述べた。

 

講演

畠山正恒 氏(神奈川県聖光学院中学・高等学校 教諭)

「新教科書による授業づくりを考える」

 

 最近確信を持ったこととして、生徒がデータをグラフ化できない、グラフを解析し、物事を判断する力が弱い点を指摘。これは教員が多忙なせいもあるが、日本の教育の「教養教育が大切であるという視点がない」「教育成果を判断するには時間がかかるという考えがない」点も問題だとした。また、社会人になって求められるのは「変化(データ)を読み解いて意思決定すること」で、それが日本や個々人の将来にも関わってくると指摘。そのうえで放射線教育には「量的概念の育成」「量の変化がわかるようになる」「データで判断できるようになる」ことが必要と提示。氏自身の授業として、中学3年生に「炭素14」を例に「原子核・原子番号・質量数の復習(化学)」「β崩壊(物理)」「炭素14の成因(物理)、宇宙線(地学)」「変化のしかた(数学)」「結果から得られたもの(歴史)」と展開し、さらにこれらを地震のマグニチュードの説明と関連づけ、グラフ作成や解析などを通して教えていると報告した。氏は、対数は自然科学・工学を解決する道具であることを教え、グラフの作成・解析に関しては訓練すべきものであることを強調。一方、新教科書は量が多く内容も総花的で、重要な部分とプラスアルファを特に若手の教員が区別できず、生徒の実態を無視した授業になる恐れがあると述べた。

 

パネル討論

「今やりたい放射線の授業づくりを考える」

●ファシリテーター:高畠勇二 氏(全国中学校理科教育研究会顧問)

 

 実践報告および講演を行った6氏が登壇。高畠氏の進行のもと会場の参加者とともにパネル討論会が行われた。

 3年生の受験期に放射線が登場する新教科書について「1、2年生でも放射線教育は可能か」については今日の実践報告が参考になるとし、会場の中学校教諭からは「3年の10〜11月に原子の構造として取り組み成果があった」という意見も出た。高畠氏は「今回の改訂を難しいと見るか、新たな第一歩と見るか」と述べ、畠山氏は「エネルギーのところに放射線が出てくることが間違い。“宇宙は放射線にあふれている”というところから始めてほしい」と語り、北畑氏も「自然放射線についてはもっと生徒に発信していかないといけない」とした。会場からは「これを第一歩にワクワクするような理科の項目になれば」という声があがった。

 

 また、学校教育におけるリスク・コミュニケーションについても討論され、佐々木氏は「安全、安心という言葉は難しい。安全には基準があり、評価できるもので、リスクが伴う。対して安心は個人の価値観によって変わる」と語り、「安心は安全のうえに信頼を築かなければならず、絶対安心というものはないんだと生徒に伝えている。これからは、相手の立場になって、粘り強くリスク・コミュニケーションをとることが大切」とした。羽澄氏も「現状は、鉄道事故を起こさないためには鉄道を動かさなければいい、と言っているようなもの」と語り、高畠氏も「子どももYESかNOかを知りたがる。リスク・コミュニケーションが浸透するには時間がかかる」と述べた。さらに「これからは現場の先生と専門家が手を携えて放射線教育に取り組むべきだ」と語った。

 

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