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平成27年度放射線教育フォーラム 第1回勉強会(NPO法人放射線教育フォーラム主催)

 2015年6月21日(日)、東京慈恵会医科大学 高木2号館南講堂において、NPO法人放射線教育フォーラム主催の「2015年度放射線教育フォーラム 第1回勉強会」が開催され、3つの講演と総合討論が行われました。

 

講演①「中高生を対象とした放射線教育の国際的な取り組みと我が国の役割」

● 飯本武志氏(東京大学環境安全本部)

 

 2013年から始まった、国際原子力機関(IAEA)によるアジア・太平洋地区の「中高生のための原子力・科学技術教育プログラム及びツールの開発」について、日本から参画した飯本氏が報告を行った。このプロジェクトは日本、英国、米国などと、原子力エネルギー開発を進める計画のある国々が協働し、中高生を対象とした持続可能な教育プログラムを策定していこうというもので、「The WOW factor(ワオ!と言うような楽しい要素)」をキーワードにした、科学技術・工学・数学(STEM)教育を基盤とした取り組みだと報告。中でも日本は直近の東電福島第一原子力発電所の事故を受けての特別な状況にあり、その経験の共有や会議で紹介した教育ツールなどは高く評価されたとした。実際、フィリピン、インドネシアなど4ヶ国が、簡易測定器「はかるくん」や霧箱の組立キット、放射線副読本(英訳版)、教育用動画集(英字幕版)などを利用した日本提案の試験的プログラムを導入。その様子なども報告された。今後は各国ならではの開発を期待するとともに、知識や経験が豊富でコミュニケーション能力にも優れた専門家の育成が急務だとした。また、IAEAに対しては授業などで使うことのできる小線源のガイドラインの整備などを提言したことを報告。今後も関係者の連携を継続、強化して、前向きに取り組みたいと結んだ。

 

 

講演②「全国の児童生徒を対象とした放射線教育の現状と課題」

● 高畠勇二氏(エネルギー・環境理科教育推進研究所)

 

 2014年度より文部科学省の委託を受け、全国240余りの学校や教育センターで放射線の出前授業や研修会を行っている高畠氏から、その現状と課題について報告があった。まず、全国の中学校理科教員からなる任意研究団体を母体として立ち上げたエネ理研について紹介。福島第一原子力発電所の事故後、科学技術に対する信頼が喪失された今こそ理科教育の充実が必要と考え、活動を展開していると述べた。当初は先生も生徒も「放射線はよくわからないけど怖い」程度の認識だったが、活動を進める中で子どもたちの素直な反応を肌で感じ、成果を実感する一方、教育を担う先生方にはいまだに戸惑いが見られるとした。次に出前授業についての内容を動画を交えながら紹介。中学校では学習指導要領に基づき、2時限のうち1時限目は霧箱の観察などから始めるとし、その際には本来なら戸田式卓上霧箱を用いて自然放射線が飛ぶ様子を見せ、「放射線は福島から」という誤解を払拭し、正しい知識を広めたいとしたが、貸出の条件などから実現は難しいと述べた。放射線教育に関しての課題はまだまだ多いが、中でも教員の資質向上、リーダーの育成は運営面から欠かせないと指摘。最後に、放射線教育で大切なのは、結論を出すことではなく、自分の頭で考え、判断・行動する能力を育てることだと語り、講演を終えた。

 

 

講演③「検定申請された中学校教科用図書における放射線記述の傾向について」

● 畠山正恒氏(聖光学院中学校高等学校)

 

 教育の現場を代表して聖光学院の地学教員である畠山氏から、2016年度から使用される新教科書についての問題提起があった。まず、中学校の理科の教科書のページ数はどの版元も1割程度増え、本文以外の注釈も増えていると報告。その一方で、理科の授業時間数は変わらず、しかも3年生は高校受験優先で時間がとれないと語った。さらに放射線に関する記述も増えたが、3年生最後の単元であり、入試にも出ないことから教員・生徒ともに力が入らないと述べた。理科教科書の根本的な問題として、「なぜ放射線や放射線物質は原子力発電(エネルギー)からしか語られないのか」「教科書が資料集と化し、特に若い先生は内容をこなすだけで大事なものが見えなくなる」と指摘。放射線の記述が教科書に増えたことはチャンスではなく、全体を見渡すと科学教育のピンチとしたうえで、○理科教科書の内容から、科学の学び方を伝える指導法や教材の開発○物理・化学・生物・地学という分野にこだわらず、広く浅く学び、各分野の関連をつかめるような指導法の開発○基礎科学から応用化学への橋渡しをする教材の開発○特に若い先生への物心両面でのサポートなどを進めるべきだと結んだ。

 

 

総合討論

 講演を行った飯本氏、高畠氏、畠山氏が登壇。会場の参加者とともに総合討論が行われた。大人への啓発、現状の教育制度、授業で使う実験ツールの不足などについて意見交換が行われたが、その中でも、「エネルギーはどう考えても100年しかもたない。どこかで科学的にブレイクスルーをしなくてはいけないし、そういう人間を育てる教育が必要だと思う」(高畠氏)、「国際的な放射線教育の展開は、我が国の放射線教育関係者が長年に亘って培ってきたノウハウやツールを海外からの新鮮な目で再評価する機会でもあり、高く評価されたことは関係者の自信につながるはず。時間はかかるかもしれないが日本国内での今後の新たな展開にも期待している。目先の問題は多々あるが、教育はここ1、2年ではなく、百年先までも考え、持続性がなければならない。」(飯本氏)といった意見が印象的だった。

 

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