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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例13:放射線実技研修会(東京都中学校理科教育研究会)

放射線教育授業実践事例13:放射線実技研修会(東京都中学校理科教育研究会)

 東京都中学校理科教育研究会(都中理)は,公益社団法人日本アイソトープ協会(以下 アイソトープ協会)の協力及び指導のもとで、放射線に関する実技研修会をアイソトープ協会において、平成25年2月28日に開催した。講師は全員アイソトープ協会の職員で行われ、都内の中学校の教員7名が参加した。残念ながらこの日は都立高校入試の発表会と重なり、参加人数は少なかったがとても内容の濃い研修であった。


■研修プログラム
 オリエンテーション
1.空気中の自然放射能測定及び半減期の測定
2.ガンマ(γ)線距離実験
3.ガンマ(γ)線レベル計実験
4.ベータ(β)線厚さ計実験
5.まとめ
6.質疑・応答


■研修内容
 2年前から都中理はアイソトープ協会に協力依頼して、教員向け放射線実験の研修会を行っている。研修内容は、「授業で使える放射線実験」として中学生でも放射線の性質や利用が分かる実験である。4種類の実験を行った中から今回は、「2.ガンマ(γ)線距離実験」、「3.ガンマ(γ)線レベル計実験」を中心に事例を報告する。
 最初にオリエンテーションとしてアイソトープ協会の歴史や事業の内容について説明があった後、放射線の基礎知識として「空気中の自然放射線の存在」や「放射能の半減期」について、デモンストレーションによる実験と講義が行われた。

講義の前に学習のねらいを説明

 

 次に、放射線の線量率と距離の関係を調べるために「ガンマ(γ)線距離実験」が行われた。実験は、密封された「バリウム133」線源(γ線源)と簡易放射線測定器「はかるくん」、距離が分かる測定台紙を使用した。γ線源から距離を変えて測定する。距離とその距離における簡易放射線測定器「はかるくん」の測定値をそれぞれ記録表に記入し、距離と線量率(μSv/h)の関係をグラフ化する。この実験を通して、距離が離れるほど線量率が小さくなること、線量率と距離には一定の法則があることを理解した。

γ線源から距離を変えて測定している様子

 

 また、同じγ線源を使って、工業で利用されているレベル計の仕組みを模擬したγ線の透過力の実験を行った。この実験のねらいは「(1)放射線には物質を透過する能力があることを知る(放射線の種類と透過する物質により、透過する能力には差が出る)、(2)放射線の透過力を利用した工業用機器の原理を本実験を通して知る」の2点である。特に(2)の実験はなかなか興味深い。

水面が見えないように紙で作った箱に水が入ったペットボトルの説明

γ線レベル計の原理を説明

 

 

 簡易放射線測定器「はかるくん」とγ線源の間に、水面が見えないように紙で作った箱に水が入ったペットボトルを置き、測定位置を同じ高さに簡易放射線測定器「はかるくん」とγ線源をセットする。測定位置をそれぞれ同時に1cmずつ高くしていき、高さ(cm)と簡易放射線測定器「はかるくん」の測定値μSv/hをそれぞれ記録表に記入し、高さと線量率(μSv/h)の関係をグラフ化する。グラフの線量率の変化によって、見えない水面の高さを推定する実験だ。この実験によりγ線が透過する能力は、水と空気で違うことが理解できる。このような仕組みを使って工業分野では、物の厚さを測ったり、物の内部を検査したりしているとのこと。

水面が見えないように紙で作った箱に水が入ったペットボトルの測定の様子


箱の中には水の入ったペットボトルの水位が推定値と一致したかを確認

 

 γ線源は、アイソトープ協会から借りることができるので、簡易放射線測定器「はかるくん」さえあれば、このような放射線の利用をテーマにした実験が可能だ。ただし、γ線源を借りるときは、事前に連絡し、注意事項などを確認してから使う必要がある。

 最後にまとめとして、放射能の減り方、放射線の線量と放射能の単位、放射線による身体的影響など説明が行われ、これまでに質問があったQ&A集を補足として説明し、研修は終了となった。
 「2.ガンマ(γ)線距離実験」と「3.ガンマ(γ)線レベル計実験」の実験の所要時間は結果まで15?20分あれば十分で、1時限の授業で使える。「1.空気中の自然放射能測定及び半減期の測定」、「4.ベータ(β)線厚さ計実験」の実験は、少し時間が必要で長めの授業か理科クラブなどで使える実験であった。また、実験材料は、身近にあるものやホームセンターで安く入手できるもので工夫されていた。

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