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第47回

放射線リテラシーの向上を目指して

湘南鎌倉総合病院附属臨床研究センター
放射線治療研究センター長


佐々木 康人 氏

 福島第一原子力発電所事故以後、放射線の健康影響とリスクに対する社会の関心が著しく高まりました。その上専門家と市民との間で適切な知識と情報の共有がなされなかった結果、多くの人々が放射線の健康影響に不安を感じている状況が続いています。福島県の避難解除された地域に期待される程帰還者が増えない原因の一つでもあると考えられます。放射線リスクコミュニケーションが適切に行われなかった原因は複数あります。例えば、危機管理における情報発信側の不統一、情報を仲立ちする報道関係者の放射線に関する教養不足、情報の受け手の基礎知識の欠如などが考えられます。

 特に、医師をはじめとする医療従事者が、求められ、期待されながら、適切で統一的な対応を欠いた場面が多々あったと言われます。その反省に基づいて、日本学術会議は「医学教育における必修化をはじめとする放射線の健康リスク科学教育の充実」と題する提言を2014年9月4日に公表しました。筆者が座長を務めた臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会で原案を作成しました。

 提言では、4つの方策を提案しています。

(1)医学教育のおける放射線健康リスク科学教育の必修化、

(2)放射線リスク科学教育プログラム(修士課程)の設置、

(3)医学部が保有する放射線健康リスク科学の教育基盤の活用、

(4)必修科目化された放射線健康リスク教育の実現、
です。医学生が放射線の利用のみならず、放射線の健康影響とリスク及びその防護・管理を学ぶことにより、放射線利用に伴う放射線被ばくを考慮し、被ばくを軽減する努力をする「Dose Conscious」な医師の養成を目指します。患者や家族の放射線健康影響に係わる疑問に適切に答え、不必要な不安を軽減することができます。万一、放射線事故が起こった場合には、環境モニタリングや個人モニタリングを実施し、適切な対応行動をとり、周囲にも適時的確な助言ができるでしょう。全国に主要拠点を選び「放射線健康影響と管理・防護」(仮称)コースを設置し、医学部学生は必ず受講することとします。

 全国医学部長会議がワーキンググループを創設して検討した結果、医学部コアカリキュラムに採用されました。本年度文部科学省の助成を受けた複数の大学医学部にモデルコースがスタートすることを期待しています。このコースを医学生以外にも開放することにより、放射線健康科学・リスクのリテラシーを高め、初等・中等教育での放射線教育の担い手を養成することにつながります。筆者の前任機関日本アイソトープ協会は、中学校の放射線教育に携わる先生方のお手伝いをしています。特に、放射線の性質を学ぶための実験を提案し、実演を供覧するなどが評価を受けています。

 日本学術会議は「高校理科教育の刷新」と「初等中等教育における算数・数学教育の改善」についての提言を2016年2月と5月に公表しました。初等・中等教育の充実を基礎として、高等教育での成功が期待できます。全ての教育課程で繰り返し放射線の性質ならびに健康影響リスク及びその防護管理を学ぶことで、放射線を身近に感じ、安全かつ的確に取り扱う文化が醸成されると信じます。

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