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第46回

放射線で光るプラスチック:放射線を身近に感じることの重要性

京都大学原子炉実験所 副所長
(兼:京都大学農学研究科 地域環境科学専攻 放射線管理学分野)


高橋 千太郎 氏

 私は京都大学の原子炉実験所に所属しているが、兼務として農学研究科の放射線管理学分野も担当している。農学部の学生には半期(30時間)で放射性物質を含む有害物質の環境中での動きや放射線(能)の基礎を講義し、大学院生には放射線計測から放射線の生物影響、医学利用に至る広い範囲について特論や演習、実験という形で指導している。このような講義や演習の中で、学生の興味をひいたという点での最近のヒットは、放射線で光るプラスチックである。光を電気信号に変える光電子増倍管をいれた暗箱にペットボトルにつかわれているポリエチレンテレフタレート(PET)というプラスチック板を入れると、自然放射線で発光して信号が出てくるのである。

 この現象は、当研究室の中村秀仁氏が十年ほど前に発見し、その後、PETだけでなく、芳香環を含む重合体の一部に放射線の検出に利用できるものがあることが明らかにされた。この発見とそれに続く多くの研究は、放射線によるシンチレーション発光の新しいメカニズムの解明をもたらしたのであるが、その様な科学的な意義はさておき、教室では別の点で学生の興味を引いている。それは「私たちの周りには放射線が飛び回っているのだ」「そして、身近に使っているPETボトルやプラスチック食器も放射線で光っているのだ」ということに興味と驚きを覚えるらしい。

 エックス線やガンマ線といった放射線は、電波や光の仲間(電磁波)である。そして、私たちの周りではテレビや携帯電話の電波が飛び交っているのと同じように、放射線も私たちが日常生活で遭遇するありふれた電磁波である。エネルギーが高く、電離作用を有するから放射線とよばれているにすぎない。ところが、講義で放射線というと、まず、怖いもの、わからないものという心証が先行する。特に、福島第一原子力発電所の事故の後は、放射線は原子力と結びつき、原子力+放射線+事故=厄介なもの、怖いものという図式ができてしまい、様々な可能性を秘めた人類にとって魅力ある光線であるはずの放射線の旗色が悪いことは否めない。

 講義は、放射線の基礎である単位の話や物質との相互作用などの物理化学的な話から始めるが、その辺りでは居眠りする学生も散見される。しかし、ペットボトルで放射線が測れる話になると、放射線が身近に感じられるようになってくる。そして、放射線の様々な利用法といった話題で、いよいよ学生の目の色が違ってくる。特に農学部の学生ということもあり、放射線照射によるウリミバエの駆除や放射線を用いた品種改良の話は特に興味深いようだ。酒米として有名な「美山錦」が放射線育種により作成された品種であると聞いて、放射線の有効性・有用性を改めて実感するようである。放射線は両刃の剣、放射線による発がんのリスクや福島での環境汚染の問題はもちろん一番重要であるが、放射線は人類が始まって以来身近にありながら、最近(ほんの百十余年前に)初めて手にすることができた素晴らしい可能性を秘めた光であることも間違いない。放射線を身近に感じ、そのリスクとベネフィットを正しく理解し、さらに有効に利用しようという学生が増えることを願って、今日も(居眠りの少ないように)講義をしている。

 

参考文献

PETによる放射線検出

【1】Nakamura, et al., Radiation measurements with heat-proof polyethylene terephthalate

   bottles. Proc. R. Soc. A., 466, 2847 (2010).

 

身近なプラスチックの物理教育への利用

【2】Nakamura, S. Takahashi, et al., Cheap educational materials for understanding radiation.

   Physics Education, 47, 17 (2012).

【3】H. Nakamura, S. Takahashi, et al., Characterising radiation spectra with stacked

   plastic sheets. Physics Education, 49, 135 (2014).

 

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