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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例31: 福島県富岡町立富岡第一中学校・第二中学校三春校(2016.11)

 

福島県環境創造センターを活用した課題解決の学習

=富岡第一中学校、第二中学校の放射線教育=

 

 福島県内の放射線教育を推進する実践協力学校などを集めた協議会(県教育委員会主催)が平成28年11月29日、福島県環境創造センター交流棟(コミュタン福島)で開かれ、全町避難している富岡町の富岡町立富岡第一中学校と第二中学校三春校(三春町所在)の生徒がコミュタン福島を活用して放射線学習を公開で行った。

 

富岡第一中学校・富岡第二中学校三春校

 富岡第一中学校と第二中学校は全町避難となった富岡町にあった学校であり、現在は避難先の三春町で富岡第一小学校、第二小学校も含めた小中4校の入る合同校舎で学校生活が送られている。生徒数は18人。将来の富岡町を考える、「ふるさと創造学」という授業が総合的な学習の時間におこなわれており、ふるさと富岡町の過去や将来についての学習が行われている。

 

福島県環境創造センター交流棟「コミュタン福島」

 調べ学習の会場となったこの施設は2016年7月21日にオープン。原子力発電所の事故とその後の福島についての展示し、放射線の性質などについて見学者が手を動かしながら学べる展示物も用意されている。自然放射線量や現在の除染状況、線量の推移などの数値データも多く扱っており、調査学習の環境としても活用することができる。

 

■理科だけでなく、「ふるさと創造」へ総合的に学ぶ―阿部洋己・第一中学校長

 公開授業を始めるに当たって、富岡第一中学校の阿部洋己校長は、以下のように同校の放射線教育の考え方と今回の授業の着目点を語った。

 「学校では昨年度まで放射線教育について常に理科を中心として進めましたが、今年度は理科を中心としながらも、さまざま教科で放射線教育などに組み替えた形で進めています。特に今回は、子供たちが自分たちの問題を解決するための一つの資料、素材として環境創造センターの展示施設を使わせていただき、どのような学びができるか、子供たち自身がどのように活用して、最終的にアウトプットするか、といった学習をご覧いただきたい。

 この学校のすべてが避難した子供たちです。避難時のことは記憶に克明に焼き付いているだけに、放射線教育を進めるに当たって慎重さも必要とされました。現在、住民の避難先は郡山や三春などさまざまな所ですが、学校での学びでは『ふるさと』は富岡町としています。子供たちは震災前の富岡はどういう所だったのかを振り返って知る。今回学習するにあたり、子供たちには、いろいろなこと、多くの学習が関係あることをしっかりと意識させました。

 例えば、富岡の町が現在どういうふうに避難区域になっているのかを見せています。科学的な理解や放射線から身を守る方法の理解、それから原発事故による過去と現状を理解する理由は、『ふるさと創造学』でやっている最終的な目標である『ふるさとの将来を創造する』ためです。つまり、将来を創造するためにふるさとの今を知らないといけない。今を知るということは、事故のことや事故の経緯についても理解しないといけない。だからそれについての学びや今までやってきた教科の学びが、放射線の学習のすべてに関係あるものになるのです。

 ほとんどの子供が今回初めてこのセンターに来て学ぶ子ですので、当然、想定している通りになることもあったり、もしくは逆に子供が想像した以上のものがあると驚いたりする姿も見られるのではと思います。事前に学校で学んだうえで、このセンターで学ぶという今回の方法が他の学校のモデルになればいいと願っています。」

 

■グループごとの課題で調べ、実験

 この日の公開授業に先立って、生徒たちは事前にコミュタン福島の教育ディレクターである佐々木清先生に、同じ三春町にある同校に来てもらった。事前授業では、震災から現在までを振り返えったうえ、「放射線の科学的な理解」「放射線から身を守る方法の理解」「原発事故・双葉郡の現状への理解」の3つのカテゴリーから、自分たちの調べたい課題を考えた。テーマは「避難指示解除の状況と双葉郡内の放射線量の推移」や「被ばくを抑える除染について」、「地面に放射性物質を埋めても大丈夫なのか?」など計10テーマに上り、1年生から3年生までの1グループ2人程度で分担した。

 

 この日は、コミュタン福島の展示コーナーで、データを集めやグラフ、図表の作成を目的としたデータを収集。その際、タブレッドも活用した。展示コーナーの案内者による詳細な説明もあり、生徒たちはこの施設を最大限に活用する調べ学習を進めた。

 

 福島県産の農林水産物の放射能検査について考えるグループは、農水産物の放射能検査の結果を調べ、なぜ基準値があるのか、一般食品の基準値が100Bq以下とされている理由なども学び、内部被ばくを防ぐために取り組まれていることについて理解を深めた。

生徒らは実験もできる多目的ルームに移り、調べのまとめをしたり、実験グループは放射線源からの距離を違えたり、間に置いた土の量を変えたりして放射線量を計った。

 

 そのまとめを生徒たちが次々に発表した。「線源から0 cm、5 cm、10 cm、15cmと離れると線量は低くなる。放射線から体を守るためには距離をとることが大事だとわかりました」と2年生。「遮蔽の土の厚さを2cm→3cm→4cmと変えた際、1cmの差でも予想以上に線量が変わったことに驚いた」などと2年生は自らが作ったグラフを示しながら説明した。

 

 

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