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第43回

放射線基礎学習に欠かせない「作用」について考える

NPO法人放射線教育フォーラム 副理事長兼事務局長

田中 隆一 氏

 中学校理科の放射線学習における指導的なキーワード「放射線の性質と利用」のうち、現行の学習指導要領解説及び放射線副読本(改訂版)では、「性質」として「透過」が取り上げられています。理科の他分野もそうであるように、「性質」というキーワードは理科学習の基本ですが、放射線学習の場合、「透過」という「性質」をもとに、放射線の利用、影響、防護、線量などの学習へスムーズに展開することができません。なぜこのようになったのでしょうか?

  それは、物質や人体への「作用」(わかりやすく言えば「はたらき」)が放射線の性質のキーワードとして学習指導されていないことにあります。その理由は中学生の段階では放射線作用の理解は難しいと判断されたためではないかと推察します。しかし、高校理科の学習指導でも「作用」は取り上げられていません。

  もちろん、中学校理科の学習指導要領において放射線は“触れる”程度でよいので、放射線の性質についても扱いが軽いのかもしれませんが、福島の事故を踏まえるならばもはや軽い扱いでは済まされないと考えます。

 過去に遡れば、昭和26年の学習指導要領(試案)改訂では、放射線の性質として「透過」と「作用」が取り上げられていました。しかし、昭和33年改訂によって原子力の学習が導入された段階で放射性物質の学習に重点が移ったために、放射線基礎の学習指導が外されたと推察します。

 「作用」と「透過」は放射線の性質として相補い合う関係にありますが、透過性が高いか低いかは、物質や人体への放射線作用が小さいか大きいかに帰着できますので、放射線の最も基本的な性質は「透過」ではなく「作用」であると考えるべきです。

 しかし、「作用」は単独に扱われると理解されにくいと判断されたためかもしれませんが、電離作用、蛍光作用、写真作用など特定の作用を幾つか例示するのが一般的です。

 電離作用は作用の源(みなもと)を代表するものであり、放射線と物質あるいは人体とのかかわりを学ぶうえでの最重要なキーワードです。中学校理科の学習指導要領で原子の成り立ちやイオンの取扱いも復活したので、中学校において電離は扱い易くはなりました。しかし、その物理的意味を正しく学べる条件が整うのは高校の段階であると考えます。放射線がエネルギーの一形態であるという理解をもとに電離作用の物理的意味を学ぶことができるからです。中学校段階での標準的な扱いとしては、電離作用の物理的な理解を最小限に止める、あるいは、中学校では電離を扱わないという選択肢も可能です。

  作用は、水溶液、気体、金属、光など理科教科書の単元にたびたび登場するほど慣れ親しまれている教育用語なのに、放射線の場合、電離、蛍光など特定の作用を示す四字熟語でないと使用が避けられる傾向があります。この程度の抽象的な用語の理解が要求されるのは科学技術の世界ではごく普通のことですが、子供には難し過ぎるのでしょうか?

  放射線に関わる個々の学習内容が押し並べて羅列的に扱われ、理科的な内容構成や学習キーワード相互のつながりに欠ける傾向が見られます。この傾向は事故によってさらに顕著となりました。放射線の人体影響や防護について理解したとしても、放射線それ自体についての基礎的な理解が欠ければ、子供たちにとっても、放射線は“得体の知れない存在”であり続けるのではないかと懸念します。放射線そのものを科学的に正しく認識させることによって、放射線に関わる認知バイアスを下げることも、放射線への過剰不安を減らすという大切な教育の役割であると考えます。

 そのためには、放射線教育の基盤として理科学習の骨組を構築する必要がありますが、「作用」を骨組の中心的なキーワードとして位置付けるべきあると考えます。「作用」には物理的、化学的、生物的なものがあり、それらが人間生活と多様な関わりをもっています。人間生活の視点から有益な放射線作用を放射線効果、有益でない放射線作用を放射線影響と区別するべきです。放射線効果の利用が放射線利用であり、放射線影響の防護が放射線防護です。線量は、放射線の作用、つまり、放射線の効果あるいは影響を客観的かつ定量的に評価、比較、予測するための共通尺度です。「作用」をキーワードとする「放射線の性質」学習をベースに、線量、影響、利用の学習へとスムーズに展開するのが理科学習に相応しい流れであると考えます。

  中学校2年の電気の単元では、電流が電子の流れであることを学ぶために、X線の発見を可能にしたクルックス管内の電子の流れが電磁誘導によって偏向することが学習指導されていますが、誘導コイルの電圧を少し高めれば、管内の電子の流れは放射線になることを電気の学習の発展として学べます。放射線は物質に作用を及ぼすだけでなく、荷電放射線の場合は電磁界の作用を受けることも放射線の重要な性質であり、この性質こそ放射線利用において最大の経済効果を産み出しているのです。

 理科の先生方がこうしたキーワードの扱いに慣れることは放射線授業の計画や実践に有益ではないかと思います。現行の学習指導のもとで「作用」というキーワードを放射線学習にどのように無理なく取り込んでいけるか、放射線以外の理科分野の内容との整合性も考慮に入れて、先生方に考えていただければありがたいと思います。

 

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