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教員向け研修会

放射線教育授業実践事例2:東京都八王子市立元八王子中学校

東京都中学校理科教育研究会
東京都八王子市立元八王子中学校の「放射線」研究授業

都中理(会長=高畠勇二氏・練馬区立豊玉中学校長)が取り組んでいる放射線教育研究授業が2011年1月20日、八王子市立元八王子中学校(校長:田中史人氏)で実施された。

授業の担当は井久保大介教諭。井久保教諭は放射線については知識が乏しかったと話すが、日本生産性本部エネルギー環境教育情報センター主催の「原子力・放射線に関する教育職員セミナー」に参加するなどして指導法を学び、「放射線の性質と利用」の授業を組み立てた。

 目標は3つ。

  • 自然放射線や身近な放射線物質について知る。
  • 放射線は粒子であり種類によって遮蔽できることを知る。
  • 放射線の様々な利用を知る。

 生徒には放射線に対して「目に見えない危険なもの」、「人体に害がある」というイメージが先行している。そこで、実験を通して正しい科学的知識を身につけてもらうことを授業の目的とし、以下のように3時間の指導計画を立てた。

1時間目:身近にある放射線 『はかるくん』を用い、自然の放射線量と身近な放射線物質の放射線量を測定する。
2時間目:放射線を見てみよう 霧箱を作り放射線の飛跡を観察する。
3時間目:放射線とは何か 映像や資料を見て放射線の性質を知るとともに放射線の遮蔽実験を行なう。

 1時間目は『はかるくん』で教室内の自然放射線量、昆布や湯の花など身の回りにある品々の放射線量を測定し、自然の中だけでなく色々な物質からも放射線が出ることを学んだ。そして2時間目が中理研の研究授業(3年生)として公開された。

研究授業「放射線を見てみよう」

 「今日は放射線を見ます。でも、放射線は音がしないよね。見えないし、臭いもしません。では、どうやって見るのか。霧箱を作って、放射線の飛跡を観察します」

 井久保教諭はこう切り出して授業を始めた。

 生徒全員にシャーレ、エタノール、ドライアイスなど霧箱の組み立てに必要な材料が配られ、教諭の説明に従って霧箱製作に取りかかる。線源にはユークセン石(ウランやトリウムなどの放射性元素を含む酸化鉱物)、昆布、ランタンのマントル(芯)の3種類を用意した。

 シャーレの中央に、ユークセン石を置いて実験開始。暗幕を引いて暗くした理科室で、生徒たちはシャーレにLEDライトを当てて目をこらす。しばらくして「おー」と声が上がった。シャーレの底に張った黒い画用紙上に、細くて白い飛跡が現れ消える。「すごい。花火みたいだ」。あちこちで歓声があがる。



 続いて昆布、マントルを使ったが、飛跡の出現にばらつきがあった。しかし、ユークセン石からの放射線は全員が自分の目で飛跡をしっかりととらえることができた。

 実験後は考察。生徒たちから「放射線は四方八方に飛んでいた」、「飛跡に細いもの、太いものがあった」といった観察結果が発表された。発表にうなずいていた井久保教諭、「放射線には色々な種類や性質があることが分かりました」とまとめ、「それについてはさらに勉強していきましょう」と授業を締めくくった。

◆教諭のコメント「生徒全員が飛跡を視認することを目標にしましたが、放射線量の多いユークセン石の観測を最初に持ってきたので授業がスムーズに運びました」

3時間目「放射線とは何か」

 2月上旬、2年生を対象とした授業があった。

理科室の黒板に「放射線の性質」と学習内容が大書されていた。学習の目標は「放射線の種類とその性質について知る」こと。その方法として放射線の遮蔽実験に取り組んだ。

 

 井久保教諭は、放射線にはユークセン石から出たα線、β線、γ線のほかにX線、中性子線があることを説明。これらの放射線量が放射先に置かれる材料によってどう変わるのかを調べます、と実験の意図を伝えた。

 線源にはトリウムを含む粉末の船底塗料を使用。これをアクリル、アルミニウム、ステンレス、鉛の4種類の材質で囲む四面体の中に置き、各面から5cm離れたところでそれぞれの線量を測定した。室内には自然放射線があるので、その数値も測る。船底塗料の放射線の測定結果から自然放射線の数値を差し引いて正味の数値を得るためだ。

 8班に分かれて実験開始。室内はピーピーという『はかるくん』の計測音があちらこちらで重なって響いた。

 実験終了。そして考察。「どの材料が一番、放射線を遮蔽できたかな」。井久保教諭の問いかけに、生徒たちから「鉛が一番」などと答えが次々と返ってきた。

 教諭は「α線は紙、β線はアルミニウム、γ線とX線は鉛あるいは厚い鉄板で遮蔽できます」と図示しながら説明したうえで、「中性子線は水、コンクリートで透過を防ぐことができます。考察に書き加えておいてください」と指示して授業を終えた。

◆教諭のコメント「2年生で学ぶのは放射線という言葉まで。3年生になって原子核について学ぶので、α線、β線は粒子、γ線とX線は電磁波であると学ぶことになります」

4時間目「放射線との関わり方」

 指導計画の締めくくりとなる授業(2年生)。黒板に書かれた学習内容は「放射線の利用」。目標は「放射線の利用方法とかかわり方について学ぶ」こと。

 放射線がいかに人間生活に役立っているか―の学習から入った。画像を使い、手のひらを撮影した世界初のレントゲン写真、CTスキャン(コンピュータ断層撮影)、空港などの手荷物検査装置などX線利用のほか、放射線を照射してジャガイモの発芽を抑えるなどの農業利用、脳の深部の病変部にγ線をピンポイントで照射するガンマナイフ治療などを紹介した。

 広範な技術利用をひととおり紹介したところで、井久保教諭は「CTスキャンは1回の照射でどれくらいの線量を放射しているだろう。調べてみてください」と問いかけた。生徒たちは配布されているプリントの資料に目をやる。手が挙がった。「6.9ミリシーベルトです」。「はい、そうですね。胃のX線検診だと1回あたり0.6ミリシーベルトが放射されますね」と教諭。

※この授業は平成23年1月に実施されたものです。

★井久保教諭に聞きました

―放射線授業の着眼点は
新学習指導要領では、エネルギーの中の放射線、原子力発電の副産物としての放射線として扱うと理解しています。一方、現状のカリキュラムには「イオンと原子の成り立ち」が入っていて、現行の教科書はイオンを学習したあとエネルギーに入る流れになっています。その間に挟む感じで扱いました。
原子にも構成要素として粒子があり、1時間目の授業は、それが飛び出してくるのだよ、という話から『はかるくん』を使いました。「放射線ってなんだ」と生徒たちが驚いたところで、すかさず「見てみよう」というふうにもっていきました。私の場合、粒子の概念から授業に入りました。
―全4時間の授業を終えた感想は
生徒たちには、放射線は私たちの身の回りでたくさん利用されていること、そして放射線は遮蔽できるという性質を学んでもらえれば良いと思います。 時間数としては4時間ではちょっと足りない。放射線の有効利用についての調べ学習、原子力発電所の構造に各1時間を充てるとして合計6時間は欲しいと思いました。

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