コラム

ホーム > コラム

第35回

総合的リスク教育の中に放射線教育を取り込む試み(後編)

北海道大学名誉教授
杉山 憲一郎 氏

一方、再生可能エネルギーのみに注目して日本で報道されることが多い560万人のデンマークと8230万人のドイツの排出量はそれぞれ8.5トンと9.3トンである。1.27億人の日本はその中間の9.0トンである。ドイツより日本の排出量が少ないことを知っている日本人は何人いるだろうか。北海道と人口が同じであるデンマークは、恵まれた偏西風と平坦な国土を生かして再生可能エネルギーを活用してもこのレベルの排出量である。
 2012年12月に高レベル放射性廃棄物処分場建設許可の申請を行い、CO2排出量の削減のため原子力発電所の新規建設を進めている540万人のフィンランドは11.7トンである。3.10億人の米国は17.3トンであり、シェールガスの利用が拡大してはいるが、CO2の大幅削減は容易でない。日本の最大原油輸入国であるサウジアラビアも同様である。国内の原油消費が急増し、国民一人当たりのCO2排出量は16.3トンに達している。このため、同国は輸出量を確保するため、国内電力を原子力と再生可能エネルギーで確保する政策を既にスタートさせている。このため筆者はサウジアラビアの大学で原子力のリスクとベネフィットに関する講義を2回行っている。
 このような大量のCO2排出により、2011年時点で大気中CO2濃度は390.9ppmとなり、産業革命前の280ppmに比べて140%に増加している。また、その他の温室効果ガスも含めた大気中濃度はCO2換算で473ppmに達している。IPCCの4次報告書によれば、世界平均気温を産業革命前の値から2.0〜2.4℃の上昇に留めるためには、二酸化炭素安定化濃度は350〜400ppm、温室効果ガス安定化濃度(二酸化炭素換算)は445〜 490ppmの範囲とされている。大気中の濃度は間もなくこれらの上限を超える。その結果として、日本の最高気温の更新も続き、温室効果ガスの増加に連動して海水表面温度の上昇も続くため、海水温に依存する大型で強い台風の発生も続く。
 日本では、現在2基以外の原子力発電が停止している。その結果、化石燃料への依存度が大きく上昇し、科学技術立国日本の国富が海外に流失し貿易収支が赤字の事態となり、電気料金の上昇を招いている。日本社会が、原子力発電に関わる放射線のリスクのみに注目し続ける限りこの状況は改善されない。
 これまで述べた数値は、小・中学校のリスク教育における基本情報としてそのまま活用できるものである。福島第一原子力発電所事故後、北海道大学エネルギー教育研究会では、教科と総合的な学習の時間で放射線教育を含めた総合的なリスク教育ができる学習プログラムの開発をスタートさせた。私達は、それが福島第一原子力発電所事故後の日本のエネルギー教育の新たな第一歩と考えている。

Copyright © 2013 公益財団法人日本科学技術振興財団