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第31回

実習を重視した原子力・放射線教育

八戸工業大学
学長
藤田 成隆 氏

 原子力・放射線教育を充実させるため、本学の原子力工学や環境放射線を専門とする教授グループが、国からの助成と地元にある原子力関連企業や研究機関の協力により、2007年に本学学生や高専学生を対象にした「原子力人材育成プログラム」を設定し、特徴ある教育を本格的に開始した。青森県内の企業や研究機関において夏季研修と秋季研修の2回行い、原子力発電の仕組みと運転、発電所の建設、原子力船、加速器質量分析ならびに原子燃料サイクルの仕組みと運転、放射線管理とメンテナンス、核融合、放射線利用などについて講義や関連実習を受けてきた。
 2009年には、工学部5学科の専門とは別に、原子力・放射線教育を行う学科横断型の「原子力工学コース」を設け、カリキュラムの充実を図った。また、2010年には、大学院工学研究科全専攻博士前期課程にも、専攻横断型の「原子力工学専修コース」を設置した。「原子力人材育成プログラム」は、学部の「原子力工学コース」のカリキュラムの一部になっている。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、原子力安全と放射線防護を一層強化した「原子力人材育成プログラム」を設定し、「原子力工学コース」のカリキュラムとしては非常に充実したものになっている。
 これまでに「原子力工学コース」を修了した学生は、原子力・放射線関連企業に就職し活躍している。特に、「原子力人材育成プログラム」の実施結果から、「見て、聞いて、体験する原子力・放射線教育」が非常に効果的であることがわかった。こうした人材育成にあたっては関連企業や研究機関との連携が不可欠である。

 

 東日本大震災後、防災と復興の知の拠点となりうる 「防災技術社会システム研究センター」を設立した。国からの助成を受けて、エネルギー・環境分野をはじめとするいくつかの分野の課題に取り組み、その成果を県内、国内外へ情報発信している。特に、市民のために八戸市中心街にサテライトを開設し、職員を一人常駐させて、科学技術に関するわかりやすい情報と楽しく実習体験できる場を提供している。毎月、土・日曜日にはイベントを実施し、放射線に関して正確な知識を習得できるセミナー、放射線計測器の正しい使い方とその講習会、さらに測定器の貸し出しなども行っている。貸し出し機器を用いて自宅や学習の場などの放射線量を測定することで、目に見えない放射線というものにより関心が高くなると思う。この他に、放射線関係の出前講義も積極的に行っている。
 セミナーの主な内容は、元素の周期表などを用いた放射線基礎に関する簡単な話、霧箱で放射線の飛跡を見る実験、放射線の強さや種類を測定する実験などである。また、身近にあるランタン用マントルや塩化ナトリウムの代わりにカリウムが入っている食塩、昆布、モナズ石、ウラン鉱石などの放射線量の測定実験、α線・β線など放射線の種類を判別できる測定器による分別実験、自然放射線と人工放射線の違いの話なども行っている。
 最近特に人気があるのは、放射能スクリーニングシステムを用いた食品、土壌、水などに含まれる放射性物質濃度の測定である。測定値を来場者に渡すまでの流れとして、最初に測定可能なヨウ素、セシウム134と137、カリウム40などの放射性物質について説明する。それから、各自が持ち込んだものをそれぞれ1片約1cm程度に切る。その後、スタッフが放射性物質濃度を測定し、その値を印刷して来場者に渡す。最後に、それらに関する意見交換を行う。これまでに持ち込まれた野菜、肉、魚などの放射性物質濃度を測定したが、すべて安全であることが確認された。来場者は「新聞やテレビなどで放射線量が公表されているが、どのような機材で、どういったしくみで測定されているのかが分かれば、なんとなく見ていた情報にも興味がわく」と話していた。市民は放射線に関して高い関心を持ち、その知識も豊富な人が増え、全体的に理解が深まってきたと実感する。今後も継続的に普及活動を推進していく必要がある。

 

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測定前の食品の準備

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放射性物質濃度の測定

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