授業実践

ホーム > 実践紹介 > 授業実践

教員向け研修会

放射線教育授業実践事例27:福島県田村郡三春町立三春中学校(2015.12)

 2015年12月18日(金)、福島県田村郡三春町立三春中学校では、1年生の総合的な学習の時間「原発事故から4年〜福島や三春の現状を発信しよう」を公開した。

 

 

三春中学校

 

 2013年に、旧三春中学校を含め、桜中、沢石中、要田中の4校が統合して開校。三春町は福島県中東部に位置し、郡山市など4つの市に隣接する。生徒数は364人(2015年12月現在)。JR磐越東線「三春」駅からタクシーで約10分。福島第一原子力発電所からは約50km。

 

 

放射線と向き合い、風評被害に立ち向かうために

 

●三春中学校校長 佐藤祐也氏

 

 事故から4年以上経って今は表面上落ち着いていますが、いまだ避難されている方もいらっしゃいますし、山などには放射線値の高い場所もあります。廃炉までには時間がかかりますし、これから20年30年と放射線に付き合っていかなければなりません。そんな中で、福島県全体が取り組む放射線教育は、とても重要なことだと考えています。風評被害が根強い中、将来子どもたちが県外に出た時に、言われなき中傷を受けるかもしれません。その時に放射線に関して正しい知識をもち、相手にきちんと説明できるようになってほしいと思っています。今回の公開授業もそういう思いを形にしたもので、以前に地元のお米や野菜などを持ち寄って放射線量を計測し、安全だと実感したうえでの授業になります。また、この三春町には、汚染された環境を早急に回復し、県民が将来にわたり安心して暮らせる環境を創造するための福島県環境創造センターが整備されており、平成28年度のグランドオープンを目指しています。本校はこの環境創造センターとも連携し、今後も放射線教育に取り組んでいきたいと考えています、とのこと。

 

学んだことや調べたことをポスターにして発表

 

●指導:齋藤大輔教諭(数学)、坂本晴生教諭(理科)

 

 理科において放射線の基礎知識、保健体育において健康への影響、そして総合的な学習の時間で三春や福島、他の地域からどのように見られており、実際三春や福島の状況はどうなのかを調べたうえでの、最後の授業。前回、生徒一人ひとりがテーマに応じて探究した内容をポスターにまとめており、今回の授業では5つのグループに分かれて発表が行われた。

 

 

 

 

 発表者は掲示したポスターの説明を行い、発表者以外の生徒はその内容についての質問、評価などを行った。「自宅で作っているお米を計測し、安全だとわかった」という生徒や、放射線の単位であるベクレル、シーベルト、グレイの関係について調べ、意味がわかれば新聞などの情報も身近になるとした生徒など、発表内容は多彩。最後に、齋藤教諭、坂本教諭が選んだ生徒が全員の前で発表を行った。ひとりの生徒は「原子力発電所を日本が所有していることが不安。地震の多い国なので考え直してほしい」と訴えた。最後に、各生徒はワークシートに「今日がんばったこと」「これからの生活に活かしたいこと」を記入。後者について、ある生徒は「福島の農産物が安全であることを祖父母にも教えたい」と答えた。

 

 

独自性の高い当校の放射線教育に対して称賛の声

 

●指導助言:鳴川哲也(福島県教育庁義務教育課指導主事)、大辻永(茨城大学 准教授)

 

 公開授業終了後、参観した他校の教師や関係者が集った研究協議会が行われた。

 三春中学校の放射線教育の推進を担い、公開授業の指導にもあたった坂本教諭が当校の取り組みを説明。検討した結果、比較的余裕のある1年生で集中的に実施することにしたとし、そのうえで「理科(3時間)や保健体育(2時間)は自ら課題を見つけ、考えるためのINPUTであり、総合的な学習の時間(4時間)は主体的に判断し、よりよく問題を解決するためのOUTPUT」「放射線に関しては専門家でも様々な見方や考え方がある。生徒たちの意見にも幅があっていいし、認めていきたい」と報告。授業におけるポスター作成および発表は「他人に説明するためには、稚拙でも自分なりに学び直し、まとめなければならない。学習内容の定着率向上を図るとともに、学び方を学ぶことことを重視した」と述べた。これに対して出席者からは「中学1年とは思えないほどのレベル」「授業の展開が参考になる」「多様性を認めるという姿勢が素晴らしい」といった声があがる一方、「1年生で終わるのは惜しい。2年3年と続けることで学びが深くなるのでは」という声も寄せられた。

 また、作成されたポスターの展示など環境創造センターとの連携を図る提案や、これからの放射線教育に関しては「自然放射線の存在とともに、放射線量についての感覚、相場観を身に付けることが大切だ」という意見も出された。

 

 

Copyright © 2013 公益財団法人日本科学技術振興財団